『心とコンピューター』
山口大学の学長を務められた広中平祐先生は、山口県の由宇町の生まれで数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞された日本を代表する数学者であります。
その広中先生が、山大の学長を辞められた後も、自ら学長をしておられた市民大学の講座で講演されたのを聴講したことがあります。その講演で、先生は数学の定義について語られ、「数学とは、無限なるものの有限化である。」と話されました。そして、「有限化とは、コンピューター処理できるようにすることである。」と補足されました。
私は、講演が終わった後、広中先生に尋ねました。「存在するものすべてを100とした場合、コンピューター処理できるものの割合はどれほどですか。」と。この問いに対して広中先生は、「50です。心の世界はコンピューター化できません。」と答えられました。
この先生の答えは、世の中の在り方を考える上で大事な視点を提供していると思います。「コンピューター処理できるようにする。」ということは、数値化するということであります。今日の時代、あらゆる面で、その数値化が進行し、そのことに基づいて物事を評価し、対応していくということが一般化しています。しかし、その時、私たちは、「数値化できるのは、存在するもののすべてではない、半分に過ぎない。」ということを見失ってはならないのではないでしょうか。
(合志栄一)