4.農協改革について(要望)
農協改革に関する議論のスタートは、平成26年5月14日の規制改革会議・農業ワーキング・グループで了承された「農業改革に関する意見」であります。その意見においては、「農業協同組合の見直し」が主要項目のひとつとして取り上げられており、農協中央会制度の廃止、全農の株式会社化、単位農協の信用事業の代理店化、准組合員の信用事業等利用に関する制限などが提言されています。その後の推移を見ますと、平成27年の農協法改正により農協中央会に関する規定は廃止され、全国農協中央会は一般社団法人に移行しました。また、各都道府県の中央会は、自律的な組織としての農協連合会に移行しました。また、全農はその選択により、株式会社に組織変更できる規定が設けられました。
そして、これからは9月に発足した菅政権において農協改革に関する論議が行われていくことになりますが、そのベースは、安倍政権時の本年7月2日の「規制改革推進に関する答申」の内容でして、焦点は、単位農協における信用事業の扱いと、准組合員の事業利用規制の件であると考えられます。
この答申は、農協の信用事業に関しては、〈基本的な考え方〉で、「長期間にわたり低金利が続く中、信用事業の健全な持続性の確保に向け、単協の信用事業を見直して総合農協から代理店化を行うなどの取組みが必要である。」としながらも、〈実施事項〉では、「農林水産省は、農林中央金庫などを活用して国内の農業への資金提供を強化するための出融資の仕組みを、農業者の成長段階に応じた資金調達の円滑化に併せて検討する。」との記述になっていて、単位農協の信用事業の代理店化には触れていません。
准組合員の事業利用規制に関しては、「農協の自己改革の中で准組合員の意思を経営に反映させる方策について検討を行い、必要に応じて措置を講ずる。」と答申の実施事項に記されていまして、その方向で結論に到ることは、そう困難なことではないと思われます。
そこで農協改革ということで課題として残り、今後議論されるであろう主要テーマは、単位農協の信用事業を農林中央金庫等の代理店化するという方向に関してであると思われます。もしその方向が、郵政民営化で行われたことを、農協組織においてやろうとするものであるとすれば、そのことが真に農協改革の名に値するものになるかどうかは疑問であります。今日の農協の多くは、信用事業による収益があるので、営農事業へ人材と経費を投入できるという経営構造になっているからです。
農協改革を議論してきた規制改革推進会議は、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の実現に向けて主に規制緩和の役割を担ってきたところですが、地理的自然的条件の制約があり、地域コミュニティの形成と深くかかわっている農業の中核組織である農協を、単に経済合理性の観点から経済成長を目的に改革していこうとするのでは、真の改革にはならないと考えます。
農協の改革は、何よりも農業の原点に立って、「国民の健康な体をつくり生活を豊かにする農産物の生産と供給を安定的に実現し、健康な地域の形成に寄与する。」との目的のもと、その存在意義を国や地域社会における支え合い、生かし合いの関係の中において明確に位置付けて行うものでなければならないと考えます。
ここで謂う「健康な地域」とは、東西統一前の西ドイツの地域政策の目標とされたもので、京都大学の名誉教授で農学者である祖田修氏によれば、その概念が意味する内容は、次なようなものです。
第一に、可能な限り「人間の身の丈に合った」、多様な産業部門が、有機的に組み合わされた地域です。第二に、人間の生命を保全する、生態環境の維持された地域であります。第三に、人間的・協同的な生活世界を持つ地域です。
祖田修氏は、その著「コメを考える」で、「健康な地域」の意味する内容をそう紹介し、そのような地域社会こそ、私たちが現代を生きる人間としてその「生」を全うしうる、未来に向けて「希望の場」となりうるのではないかと訴えています。私は、こうした考えに強い共感を覚えます。
最近、私なりの到達した一つの世界観があります。それは、私たちが生きている世界の基本は、生かし合いの関係であり、その関係の中で存在が支持され位置付けられるものが、生き残って栄え存続していき、そうでないものは淘汰されるということです。人も企業も店も組織も、みなそうではないでしょうか。
そういう観点から、農協も、経済合理性からではなく国や地域社会における支え合い、生かし合いの関係の中で、その存在意義、役割を明確にすることにより組織としての存続が支持され、結果として経済面も整うことになると見ています。
農協の改革が、政治課題になった背景には、これまで農協組織が、既得権益化して時代の変化に応じて農業のイノベーションを実現していくことを、阻害していたのではないかとの見方があると思われます。
私は、農協がそういう見方を払拭して、常にその農協組織の存在意義、原点に立ち返って不断の自己革新を続けていき、我が国農業の発展と農業者の所得向上に向けて、その役割を果たしていく存在になることを期待するものです。
本県では、農協は県一農協になりました。これも、農協の生き残りをかけての選択であり決断であり、自己改革であったと思われます。この県単一農協となったJA山口県とともに本県が、全国のモデルとなる農協の実現を推進し、以って国が進めようとする農協改革が、真の意味においての農協改革となるよう、地方の現場からしっかり声を挙げていかれることを要望します。
→(部長答弁)