(1)森林づくりについて
緑の砂漠が広がっている。山口近郊の山林を案内してくれた彼は、今日の我が国の山の現状をそう表現いたしました。
一見、青々とした木々の緑に覆われている山も、一歩踏み込んでみると、至るところで荒廃が進んでいます。
我が国は、国土の三分の二が森林で森林資源が豊かな国でありますが、森林の四一%は人工林であります。その人工林は、戦後の国策としての造林推進で拡大したものでありまして、その面積は一千万ヘクタールに及んでいます。我が国の国土面積は、三千八百万ヘクタールでありますので、国土の四分の一以上が人工林になったことになります。
この造林事業は、燃料が木炭や薪から電気・ガス・石油に切りかわる燃料革命の進展に伴いまして、建築用材として経済的価値の高い杉、ヒノキの針葉樹をメーンとして推進されました。
燃料革命以前は、農家周辺にある里山の雑木林が、天然林の広葉樹で、家庭燃料や農業に必要な肥料・飼料の供給源としてあり、生活に欠かせないものでありました。それが戦後、燃料革命により価値が薄れて、広葉樹は伐採され、杉、ヒノキ等の針葉樹を植林していく拡大造林が、急速に進められたのであります。
これは、戦後復興期、そしてそれに続く高度経済成長期と、建築の木材需要が増大していく中、それにこたえる将来を展望した取り組みであったと言えるでしょう。
しかし、植林した杉、ヒノキがすぐに建築用材として役立つわけではありません。昭和三十年代、高度経済成長期に入り、住宅を初めとする木材需要の増大に国内供給量は追いつかず、それを補うため、外国からの木材を輸入するようになります。段階的な木材輸入の自由化がスタートしたのであります。そして、昭和三十九年に木材輸入は全面自由化されました。
現時点から振り返ってみると、この木材輸入の自由化が始まった際に、このことが我が国林業にどういう影響を及ぼすかを長期的に見通しての政策的措置が必要であったように思われます。
以来、国産材と比べて安く、かつ大量のロットで安定的に供給される輸入木材、すなわち外材への需要は次第に高まり、輸入量は年々増加し、シェアを高めていきます。
それでも、高騰を続けていた国産材の価格は、ついに昭和五十五年ごろをピークにして下落に転じます。以後、その傾向は今日まで続き、国産木材の価格は、現在ピーク時の三割ないし五割にまで下落しました。このため、日本の林業経営は極めて苦しい状況に追い込まれ、林業離れ、林業の衰退が進行しています。
そして、膨大な人工造林の多くは、将来利益を生む見通しが見えないため、施業管理に経費を投ずることが困難になっており、適切に間伐等が行われることなく放置され、今日の山林荒廃の原因となっております。
また、木材自給率は昭和三十年には九割以上であったものが、今では二割にまで落ち込んでいます。
山口県に目を向けますと、森林面積は四十三万九千ヘクタールで、県土面積の七二%を占めております。この森林の四五%は人工林で、十九万七千ヘクタールあります。
所有形態別に森林面積の割合を見ますと、本県は国有林が三%、県有林や市町有林等の公有林が一三%、そして民間の私有林が八四%であります。国全体で見ますと、国有林が三一%、民間の私有林が五八%となっておりますことから、本県は、いかに国有林が少なく、民間の私有林が多いかがわかります。この私有林の四二%に当たる十五万六千ヘクタールが人工林であります。
県は、平成十五年度に、この私有林における人工林の整備状況を調査しました。その結果、十年以上の長期にわたり放置され、手入れの行き届かない森林が五一%を占めていることが明らかになりました。
木が密植して日光が差さず下草も生えていない。地肌がむき出しになっており、表土が流れて木の根が洗い出されている。木が立ち枯れている。私はこうした杉林、ヒノキ林を目の当たりにして、長いこと林業の仕事に従事してきた彼が言う緑の砂漠、青々とした山の荒廃が、本県でも人工林の各所で生じており、看過できない森林問題であることを知りました。
県が、平成十六年三月に策定した「やまぐち森林づくりビジョン」は、こうした現状や課題を的確に把握した上で、豊かな森林の再生に向けて、その考え方、施策の方向、具体的対策を余すところなく網羅しています。
このビジョンは、森林づくり県民税の導入に当たって、県民の理解を得るために作成された面もあろうと思われますが、その内容は、本県の森林づくりの指針書足るにふさわしいものになっています。私は、このビジョンが目指す方向を是とした上で、「森林再生のかぎは、木を使うことにある」との観点から、本県の林業施策について質問いたします。
早稲田大学准教授白井裕子著「森林の崩壊」は、我が国の森林問題のよって来るゆえんと所在を明らかにし、木づくりの伝統構法を守ることの大切さを訴えた好著ですが、この本の中で著者は、「世界の森林問題が『木を切り過ぎる』ことならば、我が国の森林問題は『木を切らな過ぎる』ことであろう」と指摘しております。
日本は世界有数の木材消費国でありますが、国内で自然に育つ木の増加分だけで、国内需要量を大方賄えるほど森林資源が豊かな国であります。しかるに、我が国の木材需要において国産材が占める割合、すなわち、木材自給率はわずか二割であります。
ある意味、ここに今日の日本の森林問題のすべてが集約されていると言っても過言ではありません。
そういう意味からして、私は、現政権になって、農林水産省が昨年十二月に、「コンクリート社会から木の社会へ」と銘打って「森林・林業再生プラン」を公表し、目指すべき姿として「十年後の木材自給率五○%以上」を打ち出したことを、遅きに失したとはいえ評価するものであります。
そこで、第一にお伺いいたします。国のこうした方針を受けて、私は、県として木材自給の向上に向けて、目標を設定して取り組むべきと考えます。
木材自給の割合を高めていくということは、林業振興のみならず、山、森林と地域とのつながりを回復していく施策としても意義あるものと考えます。
ただ、ここで留意していただきたいのは、木材自給率ではなく木材自給と申し上げていることであります。現在の山口県の木材自給率を調べてもらったところ三割で、国に比べて高いことはわかりました。
ただ、自給率を計算する場合、素材生産量から国の場合は輸出に回った分、県の場合は県外に流通した分を差し引いた量が木材自給量になりますことから、木材輸出がわずかな国の自給率と、県外への木材流通の割合が高い県の自給率を同様にみなすことは適切でありません。自給率の計算式では、生産された木材の中で県外に売れる木材の割合が高いと、県の木材自給率は低くなります。しかし、県産材が、県外に売れることは歓迎すべきことであります。
そこで私は、県における木材自給の目標設定は、率ではなく量にすべきだと考えます。本県の木材需要量の見通しを立てて、その五○%以上を県産材とする目標を設定することが、県の林業政策としては妥当であると考えます。
また、林業振興の観点からは、県外流通分も含めた県産素材生産量の目標設定も当然にあってしかるべきと考えます。もちろん、素材生産も木材市場を無視して行うことはできませんので、県産材の需要喚起と利用促進の取り組みが不可欠であります。
以上のことを踏まえお尋ねいたします。県は、木材自給の向上に向けて、目標設定や県産材の需要喚起、利用促進に今後どう取り組まれていくお考えなのか、その基本方針について御所見をお伺いいたします。
第二に、公共建築物への県産木材使用促進についてお伺いいたします。
赤松農林水産大臣は、年が明けて一月五日の記者会見で、公共建築物等への木材利用を法制化して促進しようという意欲を示し、「この通常国会へ法案を提出してやろうということを、今林野庁のほうへもお願いしております」と語っております。
こうした大臣の意を受けて、林野庁は、法案提出の準備をしているようですが、二月十八日に開催された全国木材組合連合会の会議において、林野庁木材利用課長が、その概要を説明しております。
その会議資料によりますと、(仮称)公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律案の趣旨は、木材の利用の確保を通じた林業の持続的かつ健全な発展を図るため、農林水産大臣及び国土交通大臣が策定する公共建築物等における国内で生産された木材その他の木材の利用の促進に関する基本方針について定めるとしております。
そして、法律の条文には、「都道府県及び市町村における方針の策定」という項目を設け、都道府県知事及び市町村は、「公共建築物における木材の利用の目標等を内容とする、公共建築物等における木材の利用の促進に関する方針を定めることができる」とのできる規定を盛り込む内容となっております。
本県では、国に言われるまでもなく、公共工事への県産木材の利用促進は、既に取り組んできており、着実に成果を上げております。
県及び市町における公共施設・土木工事の県産木材の使用量は、平成十年度と比べて、平成二十年度は、その二・四倍に伸びております。また平成二十年度の県内公共工事に使用された木材のうち、県産材の利用率は八○%であります。
ただ、民間も含めた本県の全木材消費量の中で、公共工事利用の県産材が占める割合はどの程度かというと、二・八%でわずかであります。まだまだ、本県において、公共建築物等の中で木造化する対象をさらに広げ、県産木材の利用を一層広げていく余地は大いにあり、それを推進していかなければなりません。
私は、そこで、これまでの取り組みを一歩進め、山口県では、公共建築物等への木材利用の実施計画を三ないし五カ年の期間で策定することを提案したいと思います。
この学校は平成二十五年度に改築する。それにはあの山の木を使う。そういう計画を可能な限り把握し、また立てて、三ないし五カ年の実施計画をつくるということであります。
なぜ三ないし五カ年計画かと申しますと、木づくりのよさを生かす建築には時間がかかるからであります。これを単年度予算、単年度事業でやろうとすれば、無理を生じます。工業製品と違って、木の製品は、いいものを提供しようとすれば時間を要します。最近は、製材した木は人工乾燥される場合が多いようですが、でき得れば木のよさを生かすには、半年から一年余りかけて自然乾燥するのがいいようです。
もう一つの理由は、この計画は、森林循環の林業モデルを盛り込んだ内容にすべきと考えるからであります。
本県の公共建築物への県産材利用促進の取り組みは、さらに進化させて、木の選定、伐採から始めて、伐採後の植林も含んだ森林の循環をつくり出す林業モデルの形成につながる事業として、県下の市町や森林組合等と協働して計画の策定に取り組むことが望ましいと考えます。そうした計画の期間は、少なくとも三ないし五年は必要かと思われます。
私は、こうした木の選定に始まり、それ以後の伐採、搬出、製材、建築に至るまで、林業の全プロセスを包含する計画の策定と実行が、産業として成り立つ林業システムの構築にもつながっていくことを期待するものであります。
そこでお尋ねです。公共建築物等への県産木材利用を一層促進するために、県下の市町や森林組合等と協働して、三ないし五カ年の実施計画を策定して推進すべきと考えますが、御所見をお伺いいたします。
第三に、林業の生産性向上についてお伺いいたします。
先ほど紹介した「森林の崩壊」の著者白井裕子女史は、日本と欧州先進国との間では、林業の生産性に圧倒的な差があることを指摘しています。
例えば、木を切り出して製材するまでの生産性を比較してみると、スウェーデン、フィンランドの切り出しコストは、一立米――一立方メートルということでありますが、一立米当たり日本円で千五百円程度ですが、我が国ではそれが七千円から一万一千円にもなります。
また、一人が一日に生産する量を見ると、北欧諸国では一九五○年ごろにはおおよそ一・五立米で、日本とそう違いはなかったのが、二○○○年には三十立米に達し、林業の高度化が進んでいます。片や日本は、今でも三ないし四立米で、数値だけで見れば生産性に十倍もの違いが生じております。
この格差は、戦後五十年ほどの間に開いたものであります。欧州の先進国は研究開発を積極的に実施し、林業の機械化を進め、それとともに山林所有者の共同化などのソフト政策を進めてきました。
日本は、昭和三十年代、木材輸入の自由化を開始したとき、同時にこうした林業の生産性向上のための施策に着手すべきであったと思われます。
国際貿易において自由化の傾向は、将来とも一層強まると予想されることから、一たん自由化された木材の輸入が、制限される方向に向かうことは、今後とも期待できません。
とすれば、我が国林業の生産性を上げる基盤整備を着実に進めて、その上で価格競争力においても外材にまさるとも劣らぬ国産材、県産材の林業経営が育つよう図っていかなければなりません。
さきの質問で、公共建築物に県産材の利用を徹底していくことを求めました。もちろんこのことは大事ですが、いかんせん県全体の木材消費において、現在のところ公共工事が占める割合は少なく、九五%以上は民間消費であります。だから、林業の本格復興のためには、その民間の木材市場でシェアを広げなければなりません。そのためには、価格競争力を強めることが求められ、林業の生産性の向上が不可欠なのであります。
「やまぐち森林づくりビジョン」は、森林施業の団地化・共同化の促進、効率的な路網の整備と機械化の促進に取り組むこととしており、林業の生産性向上に向けた基盤整備の一般的方向を示しておりますが、今求められているのは、それらのことを計画的に具体化していく取り組みであります。
そこでお伺いいたします。私は、本県林業の生産性向上の目標を定め、それを達成するための林業の生産基盤の整備水準を具体的に設定して、計画的にその実現に取り組むべきと考えます。このことにつき、御所見をお伺いいたします。
第四に、森林バイオマスの取り組みについてお伺いいたします。
森林再生は、森林と人々の暮らしとのつながりを回復する営みであるとも言えます。地元の森林の木で家を建て、それをまた生活の燃料、エネルギーとして使っていく。一方、木を伐採したら、植林して施業管理を適宜行い、森林を保全していく。こうした関係が人々の暮らしと森林との間で成り立っていたのが、途切れてしまいました。家を建てるのも輸入外材が多くなり、燃料も石油・石炭にかわり、国内の木の使用が減り、放置され荒廃する森林が増大する原因となりました。
そこでさきに、建築面で木を使うことを促進して森林とのつながりを回復し、林業復興、森林再生を図っていくべしとの趣旨から、木材自給、公共建築物への県産木材使用、林業の生産性向上について質問いたしました。
次に、燃料やエネルギー源として、森林が再び地域や人々の暮らしに活用され、そのつながりを回復していくことを期待して、森林バイオマスへの取り組みについて質問しようとする次第であります。
バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mas)をあらわす言葉で、地球に降り注ぐ太陽エネルギーを使って、生物が光合成によって生成した有機物であり、持続的に再生可能な資源であります。その中で、森林が生み出す木は、主要なバイオマスエネルギー源の一つでありまして、木質バイオマスとも称します。
日本は、豊かな森林資源に恵まれた国でありますので、石油や石炭の化石燃料では資源小国ですが、森林バイオマスをエネルギーとして活用できるようになりますと、一気に資源大国になります。しかも、石油、石炭はいずれ枯渇しますが、森林バイオマスは持続的に再生可能なエネルギー資源であります。
また、バイオマスは、燃焼等により二酸化炭素を放出しても、その二酸化炭素は、バイオマス形成過程で吸収・貯蔵した二酸化炭素の量と同等であることから、バイオマスエネルギーは、トータルとして大気中の二酸化炭素を増加させません。このことをカーボンニュートラルと申しますが、石油や石炭等の化石燃料の使用を、こうしたカーボンニュートラルのバイオマスにかえていくことは、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の増加を抑制することとなり、地球環境を保全していく上からも、喫緊の最重要課題であります。
本県は、平成十四年三月に「やまぐち森林バイオマスエネルギー・プラン」を策定して、森林バイオマスへの取り組みを本格化させ、このプランに基づいて、三つのプロジェクトを推進してまいりました。
私は先般、その三プロジェクトを視察いたしましたが、その一つ、既設石炭火力発電所施設での混焼システムは、新小野田発電所で実施されているもので、燃料の石炭に、林地残材や間伐材等の木質バイオマスをまぜて燃焼させる、いわゆる混焼による火力発電を実現しています。
木質バイオマスの混焼の割合は三%で、年間の量は現在一万トンですが、受け入れ施設を増設する予定で、それが完成すると年間受け入れ量は三万五千トンに増加する見通しであります。
新小野田発電所の発電量は百万キロワットで、山口県の全家庭に供給する電力の五六%をカバーしているそうですが、木質バイオマスを受け入れての混焼は、全国の発電所の中でもトップレベルの水準で、他の電力会社からの視察も多いようであります。私が行ったときも、それに遭遇しましたが、新小野田発電所の所長は、「山口県が森林バイオマスに熱心に取り組まれ、一緒にやってきたことが、今生きています」と、本県の取り組みを評価しておられました。
その二は、中山間地域電熱供給システムということで、岩国市錦町で実験的に行われている木質チップをガス化して発電と熱供給を行うガス化コージェネレーション施設であります。この施設がつくり出す電力や熱は、隣接する二つの老人施設に供給されており、森林バイオマスによる地域エネルギーの地産地消を目指しての実験モデル施設になっております。この施設も、全国からの視察が多いようであります。
その三は、小規模分散型熱供給(ペレットボイラー)システムであります。岩国市の山奥、天尾に県森林連合会の木材市場がありまして、ここにペレット生産工場が併設されております。
ペレット――これがサンプルでございますけどね、(提示)ペレットは、木材を細かく破砕して、直径数ミリ、長さ一センチ前後の小さな木質固形燃料につくりかえたもので、袋詰めにして供給し、部屋ストーブから施設ボイラーまで灯油の代替燃料として普及していこうというものであります。そのための原料である森林バイオマスの収集から、ペレットの製造、そして熱利用施設の整備とそれへの供給を効率的にシステム化していく取り組みが推進されています。
これら三つのプロジェクトは、森林バイオマスの取り組みとして全国に先駆けるもので、二井県政の志が感じられます。
そこでお尋ねいたします。地域や人々の暮らしの燃料、エネルギー源として森林バイオマスを活用していくことは、我が国を資源大国にし、森林再生・林業復興につながり、さらには地球環境保全に資するもので、その意義は極めて大きいものがあります。本県は、その森林バイオマスのプロジェクト事業を全国に先駆けて推進してまいりましたが、これまでの取り組みの総括と、今後の展望について御所見をお伺いいたします。
第五に、森林づくり県民税と山地災害対策について、三点お伺いいたします。
今議会には、平成十七年度から施行された森林づくり県民税に関する条例の改正の議案が提案されております。改正内容は、この税を賦課する期間を、平成十七年度から平成二十一年度までの五年間としていたものを、さらに五年間延長して平成二十六年度までと改めるものであります。
私は、このことに異存はなく、全面的に賛成でありますが、この県民税が五年間延長されることによって行われる森林整備事業において、昨年七月の豪雨によって発生した山地災害対策はどうなるのかに関心があります。
私は、昨年の九月県議会で、土砂災害の検証と対策について質問し、樹木の植生等により山それ自体を強くしていく取り組みが必要なのではないかと尋ねました。これに対し、松永農林水産部長から「山地災害対策検討委員会を設置して、防災の視点から森林整備のあり方について意見・提言をいただき、これを踏まえて、今後の対策や整備の方向を検討したい」との答弁がありました。
設置されました山地災害対策検討委員会は、ヘリコプターによる現地調査を実施し、四回の委員会を経て、昨年の十二月にその検討結果を報告書にまとめました。その報告書を見ての私の所感は、原因の究明は詳細であり、災害復旧対策は具体的であるが、防災の視点からの森林づくりについては、一般論が述べられているにすぎず、どういう植生の山地にしていくべきなのかの具体像が明確でないということであります。
「想定される原因」という項目で、この報告書は、崩落地周辺の植生状況を明らかにしておりますが、被災地の九三%は通常災害に強いと思われている松、広葉樹地帯でした。なぜ、そうなのか。松は松くい虫にやられて松枯れしていたからなのか、広葉樹も高い木が育っておらず、低木で根が張っていなかったからなのか、とにかく尋常でない数百年に一度の大雨が降ったからなのか、素人的にもいろいろ考えてしまいますが、この報告書はその点についての分析を明確にしていません。
この報告書は、急がれる災害復旧対策については具体策を示すも、防災の視点からの森林づくりについては、一般的方向を示すにとどまり、その具体策の検討は県にゆだねる内容になっております。
そこでお尋ねの第一点です。植生の観点から、災害に強い森林づくりを、昨年七月の豪雨で山地災害が発生した山口・防府地域の山々において、具体的にどう進めていくのか、御所見をお伺いいたします。
お尋ねの第二点は、その具体的対策の一つとして抵抗性松を植えるべきだとの提案がありまして、このことにつきお伺いするものであります。
この対策の提案者は、昨年の豪雨災害発生のメカニズムを地質や植生との関係において分析された工学博士であります。
抵抗性松とは、松枯れ病の原因であるマツノザイセンチュウが侵入しても枯れない抵抗性のある松のことで、枯れてしまった松林の中に生き残っている松から、そうした松が選定育成されたものであります。
山口・防府地区で豪雨による山地災害が発生した箇所は、花崗岩分布地域にほぼ重なりますが、このことは花崗岩分布地域の豪雨に対する脆弱さを反映しています。その花崗岩分布地域の植生の特徴は松類であります。花崗岩は、風化して真砂土化しても栄養分の貧弱な土壌にしかなりませんが、松はそうした土壌に育ちます。そして松は、枯れなければ根が地中に深く真っすぐ上に伸びる直根があり、降雨・流水で流されやすい花崗岩風化による真砂土の土層を緊縛して、流亡を防ぐことができる植物であります。
報告書も山口・防府地区における森林づくりということの一つに、「未立木地に、防災の観点から抵抗性松の植栽など検討することも必要です」と記しております。
そこでお尋ねであります。山地災害が発生した山口・防府地区の花崗岩分布地域における抵抗性松の植樹は、防災の視点からの森林づくりに有効と思われ、その実施を期待していますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
さて、ことしの一月十八日に「第四回やまぐち森林づくり推進協議会」が開催され、森林づくり県民税の延長によって行われる森林整備事業の見直し最終案が了承されました。しかし、この事業案を見る限りにおいて、豪雨による山地災害の対応が、どう反映されているのか定かでありません。
森林づくり県民税は、県民が関心を持ち、必要性を感ずる森林整備事業に有効に使われてこそ、県民の理解を得られるものであります。
そこでお尋ねの第三点であります。森林づくり県民税で、豪雨のため被災した山地を災害に強い森林にしていくため、どういう森林整備事業を行っていくお考えなのか、御所見をお伺いいたします。
最後に、森林づくりに関連して藻場・干潟の再生についてお伺いいたします。
森林を再生することは、豊かな海の再生にもつながります。森、川、海はすべてつながっており、「森は海の恋人」などとも言われているのであります。
豊かな森林は、水を蓄える緑のダムとなり、きれいな水をはぐくみます。そして植生豊かな森林は、多様な生態系をはぐくみ、海の生物に必要な栄養素をつくり出し、その栄養は川を伝って海に届けられます。そのため漁師が、自分たちの海を豊かにするため、上流域の水源地域に植樹するなどの取り組みが行われております。
私の地元山口市においても、市内を流れます椹野川をモデルに「源流の森づくり」「自然豊かな川づくり」「山口湾の藻場・干潟の再生」など流域全体を豊かにしていく取り組みが行われ、全国的な先進事例となっております。
山口湾では、かつて多くのアサリがとれておりましたが、他の瀬戸内海沿岸部と同様、アサリの資源は壊滅状態となっておりました。しかし、この取り組みにより、壊滅状態だったアサリ資源が順調に回復するなど、山口湾の再生が着実に進んでいるようであります。
森と海をつなぐ、本県におけるユニークな取り組み事例としては、逆さ竹林魚礁なども上げられます。逆さ竹林魚礁とは、干潟に竹の枝が逆さになるように設置する魚礁で、平生町にある水産大学校田名臨海実験実習場で発案されたものであります。
平生湾に設置された逆さ竹林魚礁には、ナマコが大量に繁殖していることが確認されるなど、豊かな漁場回復への効果が認められており、全国的にも広まっているようであります。
このような森と海をつなぎ、豊かな海を取り戻す取り組みは、全国に誇れるものではないでしょうか。
藻場・干潟は「海のゆりかご」とも呼ばれ、魚の産卵場であり、稚魚の生育の場でもあります。県では、「儲かる漁業」の実現を目標に掲げておられますが、この目標はそこに豊かな海があって、その海に育てられた豊富な水産資源があってこそ実現できる目標であります。
今後とも全国発信できるような取り組みを進め、水産資源の回復につながる藻場・干潟の再生に努めていただきたいと考えます。
そこでお尋ねいたします。豊かな漁場回復に向けた藻場・干潟の再生に、今後どのように取り組まれるのか、御所見をお伺いいたしまして、一回目の質問を終わらさせていただきます。(拍手)
【回答】◎知事(二井関成君)
ただいま合志議員から国の「森林・林業再生プラン」などを示されての多岐にわたる御質問がありましたが、私からは、木材自給の向上に向けた取り組みの基本方針と森林バイオマスの取り組みの二点についてお答えをさせていただきます。
まず、木材自給についてであります。
木材価格の長期低迷や担い手の減少・高齢化、農山村地域の過疎化など厳しい経営環境の中で、荒廃した人工林が増加をするなど森林・林業を取り巻く現状を踏まえまして、私は、県民の暮らしや産業を支える豊かな森林づくりを進めるために、平成十六年三月に「やまぐち森林づくりビジョン」を策定をし、本県における森林づくりや林業振興の方向性をお示しをさせていただきました。
また、このビジョンに基づきまして、荒廃した人工林を再生をし、森林の持つ多面的な機能の回復を目指す森林づくり県民税の導入や、未利用森林資源の利活用にもつながる森林バイオマスエネルギーの実証実験、優良県産木材の認証制度等、これを利用した木造住宅への助成制度の創設など、全国に先駆けた取り組みを果敢に進めてまいりました。
このような中で、今回、国において、国内の木材自給率を十年後に現行の二四%から五○%まで引き上げることなどを骨子とした「森林・林業再生プラン」が示されたところであります。今後一年をかけて、その具体的な検討をされるということになっております。また、プランでは、森林の持つ多面的機能の持続的な発揮や林業・木材産業の再生、木材利用・エネルギー利用の拡大などの方向性が示されております。
この中で、バイオマスエネルギー分野など、既に本県におきまして先駆的に取り組んでいるものもありますし、これまでの取り組みの結果として、住宅分野での県産木材の利用なども進んできておりますので、私としては、国のプランが具体化されていない現段階におきましては、本県におけるこれまでの取り組みを着実に進めていきたいと考えております。また、今後、国の検討状況なども踏まえながら、本県における取り組みのあり方を適宜見直しながら、地域における木材の利用を促進をしていくことが重要と考えております。
なお、御提言のありました、本県における木材自給の数値目標のあり方につきましては、国のプランの掲げる数値は大変意欲的であり、このための具体化策にも期待をいたしておりますが、私としては、関係者の理解も必要な目標の設定に当たりましては、国の支援策などの具体化も踏まえまして、その要否も含めて検討させていただきたいと考えております。
次に、森林バイオマスの取り組みについてであります。
間伐材など未利用森林資源をバイオマスエネルギーとして利用いたしますことは、木材の利用促進や森林整備を初め、中山間地域における新たな産業や雇用機会の創出、さらには、世界的な問題となっている地球温暖化の防止などさまざまな効果が期待をされます。
私は、平成十四年三月に、いち早くやまぐち森林バイオマスエネルギー・プランを策定をし、その基本的な方向をお示しをいたしますとともに、平成十七年十二月には、国のNEDOのバイオマスエネルギー地域システム化実験事業の指定を受けまして、関係市や森林組合、企業などと連携をして、地域エネルギーシステムとして確立をしていくための実証実験に取り組んでまいりました。
本県の取り組みは、石炭火力発電所での大規模な混焼やガス化発電、ペレット利用という利用形態が多様でありますし、間伐などの伐採から輸送を含めた、川上から川下までの総合的な取り組みとして全国的にも大きな注目を集めております。また、これまでの取り組みの結果として、各システムの運用体制につきましても、関係機関の連携が図られる段階になってきております。
私は、本県におけるこれまでの取り組みを確実なものとするために、加速化プランの中でも森林バイオマスエネルギーの活用を重点事業に掲げますとともに、国に対しましても大規模な利用を図るための制度の創設などを要望してまいりました。この結果として、お示しがありましたように、石炭火力発電所での混焼システムでは、当初予定をされた一万トンの利用体制から三万五千トンへと大幅な利用の拡大が図られているところであります。
今後においては、利用量の拡大に応じた間伐材などの供給体制の整備や、各システムのエネルギー効率のさらなる向上などの課題もありますので、私としては、関係機関と連携をして、これらの課題の克服に取り組み、新たな地域エネルギーシステムである森林バイオマスエネルギー利用システムの定着化、さらには活着を図ってまいりたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、農林水産部長より答弁をさせます。
【回答】◎農林水産部長(松永正実君)
森林づくりに関する四点のお尋ねにお答えをいたします。
まず、公共建築物への県産木材の利用促進についてであります。
公共分野での県産木材の利用促進につきましては、庁内の関係部局、教育委員会等で構成する「県産木材利用推進連絡会」を設置し、小中学校の校舎や体育館の内装の木質化、公園施設・公共土木工事での木材利用などに関係部局が連携して取り組みますとともに、今年度から、国の経済危機対策の中で措置された森林整備加速化・林業再生基金を活用して、保育園などの施設における園舎の木質化などの取り組みを進めているところであります。
現在、国において、公共建築物等への木材の利用の促進に関する法律案が検討され、この中で、都道府県の責務として、国の施策に準じた取り組みに努めるとともに、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する方針を定めることができる」とされ、今後、具体的な内容が検討されることとなっております。
したがいまして、今後の国の検討結果などを踏まえまして、お示しのありました実施計画の要否も含め、県としてのあり方の検討も進めてまいりたいと考えております。
次に、林業の生産性向上についてであります。
小規模・零細な森林所有者が多く、担い手の減少・高齢化など森林・林業を取り巻く厳しい経営環境の中で、持続可能な林業経営を実現するためには、生産基盤の整備や経営の効率化は重要な課題となっております。
また、生産基盤の整備には、団地化に向けた合意形成や森林現況調査の実施、効率的な路網の配置、高性能林業機械の導入、機械オペレーター等の人材育成などハード・ソフト両面にわたる多般な取り組みが必要と考えております。
このため、県といたしましては、平成十九年度に、山口市阿東町において約三百ヘクタールの人工林を対象に、施業の集約化などを中心としたモデル事業を実施し、この結果をもとに県内各地域での普及に努め、現在二十カ所、約六百ヘクタールでの取り組みがなされております。
また、森林整備加速化・林業再生基金を活用いたしまして、森林組合などと連携して、間伐の促進や、これに必要な作業道など林内路網の整備や高性能林業機械の導入など、経営の効率化に資する基盤整備に取り組むこととしているところでありまして、本基金の実施期間三年間におきまして、約千ヘクタール程度の基盤整備を予定をしております。
林業経営は、五十年から百年にわたる樹木の育成が基本でありまして、経営の起点となる木材価格の動向は、このような超長期の中では見きわめがたいところもございますので、県としては、地域林業を担う市町、森林組合との連携のもと、将来を見据えた基盤整備や担い手の育成を図る中で、経営の効率化を進めることが重要と考えており、生産性向上の目標も、このような取り組みを進める中で、地域の実情に応じて集約されるものと考えております。
次に、森林づくり県民税と山地災害対策についての三点のお尋ねであります。
まず、昨年七月豪雨で被災をした山口・防府地区における災害に強い森林づくりについてであります。
山地災害対策検討委員会におきましては、防災や減災の面において、森林の果たす役割を指摘をし、今後における本県の森林づくりのあり方につての提言をいただいたものでありまして、県としては、この提言も踏まえて、地域防災計画の見直しを行ったところであります。
また、山口・防府地区においては、十七カ所に及ぶ大規模な山腹の崩落を生じておりますので、県としては治山事業の計画的な実施により、この復旧に全力で取り組みますとともに、市や森林組合、森林所有者などと連携しながら、杉、ヒノキの人工林や広葉樹林につきましては、保安林整備事業や造林事業などにより、森林の現況に即した間伐や天然林改良など適切な森林整備を実施し、また、樹木の大きな生育が見られない未立木地につきましては、その実態を見きわめながら、保安林整備事業などにより、抵抗性松やコナラなど広葉樹の植栽を進めることで、防災機能の高い森林づくりを着実に進めていきたいと考えております。
二点目は、抵抗性松の植栽についてであります。
松くい虫被害に強い抵抗性松は、お示しのとおり樹木の生育条件に劣る花崗岩地域におきましても生育するだけでなく、深くまで伸びる根を持ち土砂崩壊防止などの防災機能の高い樹種の一つであります。
また、このような植栽に当たりましては、ヤシャブシやヤマモモなどの広葉樹の肥料木と針葉樹の抵抗性松を混植するなどして、森林の再生を図ることが、防災の視点からの森林づくりに有効な手法とされております。
したがいまして、花崗岩地域の多い山口・防府地域における未立木地におきましては、今後、森林所有者の理解も得ながら、保安林などの指定を行いまして、抵抗性松の植栽による森林の再生を進めていきたいと考えております。
三点目は、森林づくり県民税についてでございます。
森林づくり県民税での事業は、山地災害の防止を初め、水源の涵養、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収源としての役割など、森林の持つ多面的な機能の回復を目指して導入された制度でありまして、県内全域にわたり、荒廃した人工林の再生などの取り組みを進めているところであります。
昨年七月の豪雨災害などの復旧等に当たりましては、治山事業等により適切に対応することが基本であり、森林づくり県民税事業では、県民が幅広く受益できる荒廃森林の再生に主眼を置いた取り組みを進めることが適当と考えておりますが、次期事業におきましては、本県のこれからの森林づくりにつながるモデル事業として豊かな森林づくり推進事業を実施することとしております。
この事業の中で、山口・防府地区で見られるような荒廃したアカマツ林の回復再生を図るための手法の検討などを行うこととしておりますので、こうした検討結果を踏まえ、効果的な治山事業や造林事業への新たな提案を行うなど、災害に強い森林づくりを進めてまいりたいと考えています。
また、こうしたハード事業にあわせまして、森林所有者や下流地域住民が一体となった森林づくりを進めていくことが重要でありますので、森林づくり県民税事業で新たに導入をすることとしている森林づくり活動支援事業を活用して、地域住民が参加して行う植樹活動や育樹活動などを通して、森林の持つ機能への理解や防災意識の高揚を図りながら、地域が連携した森林整備を推進していきたいと考えております。
最後に、藻場・干潟の再生についてであります。
お示しのとおり、豊かな漁場は、森・川・海の一体的な管理によりもたらされることから、県ではこれまで漁業者の行う植林活動を支援いたしますとともに、平成十五年からは、お示しのありましたように山口湾におけるアマモ場造成や干潟の耕うんなど、藻場・干潟の再生に向けた取り組みを進めてまいりました。
また、今年度からはこうした取り組みを県内十市町に拡大をし、ウニの駆除、アサリの被覆網による漁場管理等の漁業者グループが行う藻場・干潟の保全活動を支援をしているとこであります。
その結果、山口湾や周南地域の干潟では、これまでほとんど見られなかったアサリが収穫できるなどの成果があらわれてまいりました。
県としては、今後、こうした藻場・干潟の再生に向けた取り組みを加速化するため、藻場を構成するヤツマタモク、アラメの人工採苗や干潟の再生につながるアサリ人工種苗放流等の技術開発を引き続き進めますとともに、来年度からは新たに、本県のみにまとまった分布が認められ市場評価の高いカイガラアマノリの量産化技術開発に取り組み、「紅きらら」という商品名で、地域特産化を目指す漁協の取り組みを支援するなど、干潟の有効利用による生産性の向上にも努めてまいります。
また、漁業者主体で行われております保全活動の重要性を、地域住民参加の干潟耕うんや、高校での実習、小中学校の体験学習等を通じまして広く普及啓発することにより、活動の輪を広げてまいりたいと考えております。
県としましては、今後とも森・川・海をつなぐ多様な生態系がもたらす豊かな漁場の回復に向けまして、藻場・干潟の再生に積極的に取り組んでまいります。