平成28年6月定例県議会【林業振興について】(3)バイオマス発電について

3. バイオマス発電について
林業振興についてのお尋ねの第3点は、バイオマス発電についてであります。
「木質バイオマス発電は、停滞する林業と地域の抱える問題を一挙に解決する『魔法の杖』ではない。」
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊(とまり)みゆきさんは、バイオマス白書2014の「はじめに」においてそう指摘し、「結局、地道な人工林の団地化、路網整備、用材のマーケティング強化等により製材業を育てながらでなければ、製材業の副産物・廃棄物利用である、木質バイオマス利用はおぼつかない。」と、述べています。
我が国において、バイオマス発電が本格化したのは、2012年7月より再生可能エネルギーで発電した電気を長期間買い取る固定価格買取制度(FIT)の運用が開始されてからであります。この制度の実現は、2011年の福島第一原発の過酷事故を経て、我が国におけるエネルギー政策が、電源構成において原発依存を減らし、再生可能エネルギーによる発電の構成割合を高めていく方向にシフトしたことが後押ししたものと思われます。
この制度により電力会社は、太陽光、風力、バイオマス、水力等の再生可能エネルギーで発電された電気を、10年間若しくは20年間固定した価格で買い取ることになりますが、その固定価格は、再生可能エネルギーで発電する事業者が、一定の利潤を得ることができるとみなされる水準に設定されています。そうすることで再生エネ発電に、多くの事業者の参入があり、再生エネ発電が増加していくことを促そうという意図が、この制度には込められています。
これを木質バイオマス発電において見ますと、発電のための燃料源となる木質バイオマスを三種類に分けて、1kWhごとの価格設定がなされています。先ず、建設廃材などの「リサイクル材」は、1kWh 13円です。次に、木材加工の工程から出てくる端材、おかくず、樹皮など残材を総称した「一般木材」が、1kWh24円です。そして、利用されずに林地に放置されている間伐材や主伐残材などの「未利用木材」が、1kWh32円です。価格の固定期間は、いずれも20年間であります。
こうした価格設定は、再生可能エネルギー特措法の、第3条2項において、買取価格は、「適正な利潤」と「当該供給に係る費用その他の事情を勘案して」定める、としたことによるものと思われます。
このように、バイオマス発電の売電価格(=買取価格)は、決まっていますが、発電の燃料源となる木質バイオマスの価格は、法定されている訳ではありません。これは、バイオマス発電の事業者と、木質バイオマスの供給者との契約により定まるもので、地域により価格差があります。
このことを未利用木材において見ますと、現時点での素材の売り渡し価格は、本県では、トン当たり5000円をわずかに超える額のようであります。隣の島根県では6000円前後、宮崎県は7500円程、高知県は8000円程とうかがっています。
農林中金総合研究所の理事研究員である渡部喜智氏の「木質バイオマス発電の特性・特徴と課題」と題する論文を読みますと、木質バイオマス発電に係わるそれぞれの段階の事業者にとって、経済的インセンティブとなる収益分配を行うことの重要性を指摘した上で、素材生産業者からチップ加工業者への売渡単価を、トン当たり7350円(発電所出力5700kw)としています。
これと比較しますと、バイオマス発電のために供給される未利用木材の素材価格は、本県は安すぎるし、高知県は高いということになります。
申すまでもなく、バイオマス発電が推進される背景には、そのことが林業振興、そして林業とかかわりの深い中山間地域の活性化につながるという期待があります。その期待にバイオマス発電の事業が応えるためには、木質バイオマスの中でも、特に未利用木材の素材価格が、その生産に携わった関係者に利潤をもたらす水準であることが求められます。
そこで、お尋ねです。バイオマス発電の燃料源となる未利用木材の素材価格は、当事者の自由な取引契約で決まりますが、その際、林業振興の観点から妥当と思われる水準の価格を、県が参考資料として示すことは検討されていいのではないかと考えます。ついては、このことにつきご所見をお伺いいたします。
次は、森林素材の生産供給体制の強化についてお尋ねいたします。
ご案内のように、防府市にあるエア・ウォーターの工場内に、エア・ウォーターと中国電力が共同で、木質バイオマス・石炭混焼発電所の建設を計画中でして、2019年度からの運用開始を予定しております。
この発電所では、県が、環境影響評価方法書における知事意見で、石炭と混焼する県内産の木質バイオマスの比率を可能な限り引き上げるように述べた経緯もあって、県産森林バイオマスは、年間4万トン以上使用する計画になっています。2015年に発電のための燃料源となった県産森林バイオマスの県内合計量は、2万5千トンですので、防府の混焼発電所が本格稼働すれば、ここだけで現在の県内の森林バイオマス総使用量を大幅に上回る量の森林バイオマスが必要となります。従って、その森林バイオマスの安定的な供給確保が、大きな課題となることが予想されます。
森林バイオマスの必要量確保が困難になった時、考えられる対策は、未利用木材などの素材買取価格をアップすることであります。このことで、未利用木材の素材が必要量確保されたとしても、その影響で製材業が、建築用材として確保すべき素材の収集が困難になれば本末転倒ともいうべき事態で、それは林業全体の在り方として望ましいことではありません。
こうした問題の根本的な解決には、素材の生産供給体制の強化を図ることが重要であると考えます。ついては、このことにつきご所見をお伺いいたします。
次に、新たにバイオマス発電に取り組もうとする事業者への対応についてであります。
木質バイオマス発電は、大量の森林バイオマスを燃料源として使用することから、ひとつは森林素材の生産供給能力の面から、もう一つは将来を見据えての森林資源の保全育成の面から、自ずと木質バイオマス発電の、地域的な許容限度というものが想定されるものと思われます。
そこでお尋ねです。今後、県内において新たに固定価格買取制度を利用して木質バイオマス発電に取り組もうという意欲を持った事業者が出てきた場合、県に対し意見の聴取機会があると思いますが、どういう方針で対応されるのか、ご所見をお伺いいたします。
バイオマス発電についてのお尋ねの最後は、それを推進していく上での基本的な考え方についてであります。
私は、固定価格買取制度に基づくバイオマス発電については、その制度設計の考え方に問題があるのではないかと見ております。
バイオマス発電推進の意義としては、エネルギー政策の面からは、再生可能エネルギーによる発電割合を高め、CO2の排出削減に資するということがあります。バイオマス発電も、発電方式は、石炭や石油などを燃料源とする火力発電と同じなのですが、木質バイオマスを燃料源とした場合は、燃焼によりCO2が発生しても、それは元々大気中にあって光合成で樹木に吸収されたCO2が、大気中に放出され循環するのであって、地球全体のCO2濃度には影響を与えません。このことをカーボンニュートラルといいますが、木質バイオマス発電は、そのカーボンニュートラルの発電と見做されています。さらに、バイオマス発電により石炭などの化石燃料による火力発電が減れば、その分CO2排出の削減に寄与することになります。
バイオマス発電推進の意義を、産業面からいえば、これまで述べましたように林業振興に資するであろうということであります。
木材が有する価値を順番に述べますと、先ず、建築用材や様々な木製品の素材としての価値があります。次に、紙パルプなど木質製品などの原料としての価値があります。次に、燃焼による熱源としての価値があり、最後に燃焼による電源としての価値があります。
本来ならば、木材を燃焼させて発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変えて利用しようとする木質バイオマス発電は、木材が有する価値のロスの度合いが大きく、木材利用としては最後に残るものと言えます。それを、林業振興という面からも大規模に進めようとするのは、我が国においては木材の絶対的な需要不足という現実があるからだと思われます。
2010年における我が国の森林の年間成長量は、74百万㎥と推算されています。一方、同年の我が国における国産材の需要は、20百万㎥を割り込んでいます。国産材の年間需要は、森林の年間成長量の3分の1以下だということであります。こうしたことから、バイオマス発電には、木材需要の新たな開拓という面もあり、未利用木材ということで、たとえ建築用材の素材となる木材が使用されても、森林資源全体からすれば影響は少なく、むしろそのことで林業が経済的に潤うことになればいいという考え方が、現行のバイオマス発電の制度設計にはあるように思われます。私が、問題だと思うのはその点です。
なぜなら、どんなに豊かな森林資源があっても、それを伐採して搬出する素材の生産供給能力が伴っていなければ、その考え方は、実際上、功を奏せず、既存の林業秩序を歪めてしまうことが懸念されるからです。
はっきりしていることは、基盤整備等により林業の生産性が向上し、林業としての地力があってこそ、バイオマス発電も可能になるということです。即ち、林業の発展があってバイオマス発電があり得るのであって、その逆ではない、冒頭紹介しましたように、バイオマス発電は、林業振興の魔法の杖ではないのであります。
本県では、現在のミツウロコ岩国発電所が、平成18年に全国初で専焼による木質バイオマス発電を始めており、全国に先駆けています。ついては今後、地域モデルとなるバイオマス発電の推進を、県に期待するものです
そこでお尋ねです。バイオマス発電は、製材業を含む林業の川上から川下までの全体的な発展振興の取り組みの中に位置付けて推進されるべきものと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

回答◎知事(村岡嗣政君)

合志議員の御質問のうち、私からは、バイオマス発電推進の基本的な考え方についてのお尋ねにお答えします。
本県は、県土の七割を森林が占め、また、植林した森林が利用期を迎えています。この森林資源を有効に利用し、人口減少や高齢化等が深刻な課題となっている農山村地域において、林業の振興による雇用の創出や地域の経済の活性化を図ることは、極めて重要です。
このため、県としては、これまでも、木材利用の大宗を占める住宅や公共施設等における県産木材の利用を促進してきたところです。これとあわせ、さらなる需要の拡大と、間伐材や伐採残渣などの未利用資源を有効に活用するために、バイオマス発電で大量に利用するシステムを構築し、林業全体の付加価値を高め、森林所有者等の所得向上につなげていくこととしています。
私は、こうした基本的な方針のもと、施業の集約化、路網の整備、高性能林業機械の導入等による県産木材生産の低コスト化と生産量の増大を図るとともに、木材加工施設の整備への支援など製材業の体質強化や、森林バイオマスセンターの整備等による森林バイオマスの供給力の強化など、お示しの製材業を含む川上から川下までの全体的な取り組みを進めているところです。
なお、平成二十四年の固定価格買取制度の運用開始後、全国的な傾向として、燃料としての未利用木材の需要が拡大していることは承知をしていますが、本県における木材の供給量は十分に余力がありますとともに、建築用木材とバイオマス発電の燃料となる未利用木材の価格差は歴然としていることなどを踏まえれば、バイオマス発電燃料としての木材利用が、建材などの利用を圧迫するまでの事態は想定しがたいと考えています。
したがいまして、私は、チャレンジプランにおいて、林業の成長産業化に向けた挑戦を掲げているところであり、今後とも、関係団体等と密接に連携しながら、バイオマスを含めた木材需要の拡大と、森林資源の川上から川下までの総合的な取り組みを進め、林業の成長産業化と農山村地域の活性化を図ってまいります。
その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。

回答◎農林水産部長(河村邦彦君)
次に、バイオマス発電に関する三点のお尋ねです。
まず、未利用木材の素材価格についてです。
未利用木材の素材の売り渡し価格については、木材供給者と発電事業者の事業者間の自由な取引により形成されるものであり、一定の水準を県が示すことは適当でないと考えます。
次に、素材生産供給体制の強化についてです。
素材の供給体制については、今後の需給動向を見きわめながら、計画的な体制の整備を図ることが必要です。
このため、県下二十一カ所に、効率的な素材生産システムのモデルとなる森林整備加速化団地を設定し、路網の整備や高性能林業機械の導入を集中的に実施する取り組みを進めているところですが、今年度から、新たにクラウドシステム等ICTを活用した、需要に適切に対応できる供給システムとして県産原木流通システムを整備し、効率的な供給体制の構築にも取り組むこととしています。
また、バイオマス発電の燃料となる間伐材や伐採残渣などについては、森林バイオマスセンターを現在の三カ所から四カ所にふやすなど、その供給体制の強化も図ることとしており、全体として十分な供給体制が構築できると考えています。
次に、バイオマス発電に取り組む事業者への対応についてです。
平成二十四年の固定価格買取制度の運用開始後、全国的に多数の木質バイオマス発電所の建設が計画されていることから、国は平成二十七年七月から、未利用木材等を燃料として同制度の適用を受ける発電施設の事業者に対して、ヒアリングを実施しています。
このヒアリングでは、燃料となる未利用木材が安定的に供給されること等を確認し、その際、お示しのように、都道府県からも意見を求めるとされています。
今後、本県において、新たに未利用木材等を燃料とする発電所の建設が検討される場合は、当該発電所の立地圏域において供給可能な資源量や、稼働・計画中の発電所への影響を適切に評価して対応したいと考えています。

2016年6月29日