平成29年2月定例県議会【2.健康な土づくりと有機農業】

お尋ねの第二は、健康な土づくりと有機農業についてであります。

山口市の仁保に、平成9年に農業の会社としては日本で初めて株式上場した秋川牧園という株式会社があります。化学合成の農薬や化学肥料は使わないという有機農業の基本を堅持して、農畜産物の生産、加工及び販売の事業を立派に経営軌道に乗せ、今日も「理想の農と食」を追及する歩みを続けています。

この会社の秋川会長は、農薬は農毒薬であると見ておられます。農薬によって防除される細菌やウィルス、カビまた害虫類といえども、私たち人類と同じ地球上に存在する生き物であることから、それらを殺す農薬は人体にも毒性の影響がないはずはないとの考えからです。そして、科学の発達に伴い人間が作り出した化学合成の農薬や肥料、添加物等は、元々地球上に存在しなかった異物であり、それらを使用して生産・加工された食べ物が、ガンを始めとする様々な現代病増加の原因になっていると警鐘を鳴らしておられます。

そうとは言え、「無農薬では、稲も野菜も病気や虫にやられ、収穫がなくなるのでは。」との疑問に対しては、十分に発酵した堆肥を田畑に入れる土づくりを実行すれば、虫もつかず病気にもならず、生命力溢れる有機農業、無農薬栽培が実現できると答えておられます。

山口市の平川で「中村自然農園」と称して53種類もの野菜を有機栽培しておられる中村進卓(のぶたか)さんも、有機農業の基本は土づくりで、キッチリ土づくりができれば、有機栽培は90%成功したと考えてよいと述べておられます。中村農園は、栽培面積は60アールほどですが、月に多い時では100万円程の売り上げがあるそうで、その7割はネット販売とのことです。出荷する野菜は、必要に応じて信頼できる機関による成分分析を行っており、アトピーなど化学物質過敏症の方などからも医師の勧めでということで注文があるとのことでした。

その中村さんから教えられてビックリしたのが、今日流通している野菜などの栄養成分が、昔と比べて大幅に減少しているという事実です。文部科学省は、戦後の昭和25年から食品成分表を公表していますが、それを見ますと例えば「ほうれん草」の場合、ビタミンCの成分は、平成27年産は昭和26年産の23.3%です。鉄分は、さらに少なくて15.4%です。この成分表は、国民が日常的に摂取する食品の標準的な成分値を分析調査して公表したものですが、中村農園の有機野菜の成分は、昭和26年のものと比べても、それを上回っているとのことでした。しっかりした土づくりがなされたところで栽培された有機野菜は、今日のものでも、食品の成分調査が始められた戦後当初の標準的な野菜を上回る成分があるということは、もっと注目されていいと思われます。

秋川牧園や中村農園が取り組んでいるそうした有機農業は、安全な食料の生産からさらに進んで健康な体をつくる食料を生産する農業の実践であると言えます。そして、その基本は健康な土づくりです。

このことに関して、ノーベル生理学・医学賞を受賞したアレキシス・カレルは、「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方のよって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる。」と述べています。

農学博士の陽捷行(みなみかつゆき)氏は、北里大学で開催された農医連携シンポジウムでカレルのこの言葉を紹介し、次のようにコメントしています。

「これまで多くの土壌は酷使され、さらに消耗され続けてきた。そのうえ、多くの土壌にはさまざまな化学合成物質が添加されてきた。従って、土壌全般が必ずしも健全な状態にあるとは言い難い。そのため、その地で生産される食物の質は損なわれ、それが原因となって、われわれの健康も損なわれかねない状況にある。カレルの言うように、栄養のアンバランスも有害成分も土壌から始まっていると言っても過言ではない。」と。

尚、陽博士は、山口県の萩市出身で北里大学名誉教授であり農林水産省の農業環境技術研究所の所長も務められた方です。現在は静岡県伊豆の国市にある公益財団法人 農業・環境・健康研究所 農業大学校の校長をしておられます。

思うに、戦後の農業において農薬と化学肥料は、食料の増産と農家負担の軽減に大きく貢献して来ました。しかし、その代償として土の健全性を損なってしまったのではないでしょうか。これからの農業に求められていることは、その反省を踏まえて、農業本来の目的である健康な体をつくる食料の生産という農業の原点に立ち返り、その基盤となる健康な土づくりに本格的に取り組むことであると考えます。私が冒頭に、有機農業は、これからの農業が目指すべき方向であると申し上げたのは、そういう意味においてであります。

そこでお尋ねです。今日の農業に最も求められていることは、健康な体をつくる食料の生産であります。ついては、その農業基盤となる健康な土づくりを全県的に実現していくための長期的方針を定め、その推進を図っていくべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】

健康な土づくりと有機農業についてです。

お示しのとおり、健康な体をつくる食料の生産は、農業本来の目的であり、その基盤となる健康な土づくりを長期的な視点で継続していくことが重要と考えています。

このため、本県では、平成12年度に定めた「山口県循環型農業推進基本方針」に基づき、健康な土づくりを全県的に実現できるよう、市町や関係団体と連携し、長年にわたり継続的な取組を推進しているところです。

健康な土づくりを進めるためには、堆肥などの有機質資源を適切に利用することが基本ですが、近年の農業者の高齢化等により、有機質投入量の減少が課題となっています。

こうした状況を踏まえ、今後は、畜産農家と耕種農家の連携により有機質資源の地域内循環利用を促進するほか、土壌分析に基づく適切な堆肥等の投入指導や、県下59カ所の堆肥製造・販売施設を記載したマップによる周知などを通じ、健康な土づくりに向けた取組を一層推進してまいります。