令和元年11月定例県議会【4.国づくりの方向と県の施策】

「国づくりの方向と県の施策」

令和へ御代替わりして半年余、「日本は、これからどういう方向に向かって国づくりを進めていくべきなのだろうか。」ということに、ずっと関心を向けてきました。そして、私なりに一つの結論に達しました。それは、「誠実に働き、国民としての義務を果たしていけば、老後を含めてよりよい人生が保障される国」を目指して、国づくりは進めていくべきだということです。

我が国の現状は、誠実に働き、納税や医療保険・年金等の義務をしっかり果たしても報われない社会になっています。「これを改めなければ、日本の将来はない。」、そういう思いが湧いてきて日本の現状に危機感を覚えます。

誠実に働き、国民としての義務を果たしてきても報われず不遇な生活をしている人たちが多いのは、国民年金で老後を暮している人たちです。ご案内のように我が国の年金制度は、国民年金と厚生年金の二つの枠組みで成り立っていますが、問題なのは給付される年金の格差が大きいことです。国民年金の保険料は所得の多少にかかわらず定額で、毎年見直しが行われますが今年度は16410円です。一方、厚生年金の保険料は、平均給与月額が相当する標準報酬月額に18.3%の保険料率を掛けた額です。ただ、厚生年金の場合は、保険料の半分は雇用主が負担します。従って、国民年金の定額に相当する額を厚生年金加入者が負担して納付した場合、実際はその倍額が納付されることになります。負担する保険料は、ほぼ同額なのに、実際納付される額には倍の差があり、年金給付の際に大きな格差が生じます。

このことを、具体的に見てみましょう。向こう40年間、現在の経済状況も現行の年金制度の仕組みや定めも変わらないとの前提で年金関係の方に試算していただきました。その結果、A氏が、国民年金加入が義務付けられている20歳から60歳になるまでの満期40年間、一度も欠けることなく国民年金の定額の保険料16410円を毎月納付した場合、65歳から受け取る老齢基礎年金は、月額で約65000円です。一方、B氏は厚生年金に20歳から加入し60歳になるまでの40年間の月額給与が180000円だったとしますと、本人負担の月額保険料は16470円で、国民年金の定額とほとんど変わりませんので、A氏とほぼ同額の年金保険料を負担し納付することになります。ところが、B氏が65歳から受け取る年金月額は、老齢基礎年金65000円に老齢厚生年金51300円を合算した116300円です。納付した保険料は、国民年金のA氏とほぼ同額であっても給付される老齢年金は月額で51000円余多くなります。更に、夫婦の場合、国民年金であれば、夫婦はそれぞれが定額16410円を毎月納付することで、夫婦それぞれが老齢基礎年金の給付を受けることができます。一方、厚生年金の場合は、例えば夫が厚生年金の保険料を納付しておれば、そのことで被扶養配偶者である妻は国民年金の第3号被保険者となりまして、保険料を納付しなくても65歳から月額65000円の老齢基礎年金を受給できます。このことを敷衍しますと、B氏が負担する年金保険料が、A氏夫婦が納付する定額の国民年金保険料の合算額32820円に相当する場合、B氏夫婦は、A氏夫婦に比べて月額で102000円余多くの年金を受給できる計算になります。遺族年金でも、国民年金と厚生年金とでは歴然とした差がありますが、そのことは割愛します。

満期の40年間、同様に保険料を負担納付した場合、厚生年金の方は、どうにかそれなりの生活が維持できる年金の給付水準が確保されていますが、国民年金の方は、給付される年金額が生活維持すら困難と思われる水準に抑制されている現状をまず指摘しておきたいと思います。

次に、「真面目に国民年金を払ってきた人たちよりも、生活保護を受けている人たちのほうが、よほど恵まれている。」との声をよく耳にしますので、実際どうなのかを見てみたいと思います。

自営業で国民年金の保険料を20歳から60歳まで満期の40年間欠かさず納付した方が、65歳になって受け取ることができる年金月額は65000円です。では、同じく65歳で単身の生活保護基準額は、どうなっているのでしょうか。

山口市居住の場合、生活に必要な食費や光熱水費などの費用として生活扶助費は、月額約73000円です。家賃、地代などの費用に充てられる住宅扶助費は、月額31000円です。それから、教育費、介護費、医療費は、それぞれ扶助があって負担はありません。

国民年金の満額の年金月額65000円は、生活保護の生活扶助基準月額より少ないのですが、その国民年金で暮らしている人は、収入がそれだけであったとしても、健康保険料、介護保険料が年金支給額から天引きされ、病院で診療を受けた時や介護サービスを受けた時は、費用の一部を負担しなければなりません。私が知っているある国民年金の収入で暮らしている人は、大工だった方で、朝早くから夜遅くまで土日の休みなしで働いてきて年金給付が月額55000円ほど。それから医療や介護の保険料等を控除されて手取りが31000円ほどでした。この方は、奥様の国民年金での給付が保険料等控除後で月額55000円ほどあり、その他駐車場での収入があるので何とか生活できているが、旅行に行ったりする余裕はないとのことでした。夫婦とも80歳を過ぎているので近くにある特別養護老人ホームに入ることも考えようかということで介護保険のケアマネに相談したら、「あなたたちの収入では入れませんよ。」と言われたと笑いながら語っておられました。

一方、生活保護の方の場合、特養のような介護保険施設利用の必要が生じた場合、利用料は介護扶助ということで公費で充当されるため支払い能力を心配する必要がありません。介護保険施設や介護サービスの利用は、主にケアマネジャー等が作成するケアプランに基づくものですが、そのケアプランを作成する際、生活保護の方の場合は支払い能力を心配する必要はありませんが、国民年金で暮らしている方の場合は、そのことを考慮してケアプランを立てなければなりません。結果として、介護保険料を月々払っている国民年金の方は、収入で支払える範囲という制約を受けるため、その負担もない生活保護の方よりも、介護保険施設の利用や介護サービスを受けることが困難になっています。同様なことは、医療の場合も、あるいはアパートを借りたりする場合もあります。

こうしたことを知るにつれて、「真面目に国民年金を払ってきた人たちよりも、生活保護を受けている人たちのほうが、よほど恵まれている。」との声は、あながち否定できない我が国の現実であることを確認しました。

国民年金の方は、主に自営業であり、その他民間労働者であっても厚生年金適用の要件を満たさない非正規労働者等の人たちです。厚生年金の方々は、正規雇用の民間労働者や公務員で、基本的には労務管理がしっかりしている企業や公共団体で働いていて、労働時間も定まっており土日祭日の休日も取れる職場環境での仕事です。一方、国民年金の方は、その多くが先ほど紹介した大工さんのように朝早くから夜遅くまで土日休日なしの仕事に明け暮れています。その上、税金や医療・介護保険などの支払い義務もしっかり果たしてきたとしても、老齢になったら受け取る年金は、厚生年金の方と大きな格差があり、その年金収入だけでの生活になれば、生活保護を受けている人たちの水準にも満たないというのは、あまりにも不合理であります。だからといって私は、生活保護の水準を下げるべきだとの考えには組みしません。ただ、国民年金の生活者が置かれている制度環境の現状は、改めなければならないと強く思う次第です。

日本国憲法は、第25条で「国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と宣言していますが、我が国の現状においてその権利を保証すべきは、先ず誠実に働き、国民としての義務を果たしてきた国民年金の生活者に対してではないでしょうか。そのための施策に、国は直ちに取り組むべきだと考えます。

ついては、その施策実現への貢献ということで、本県において国民年金で生活している人たちの正確な実情調査を実施し、そのことに基づいて国に対して政策提案を行い、以てよりよい令和の国づくりに向けた現状改革の先鞭をつけてほしいと期待するものですが、このことにつきご所見をお伺いいたします。