中小企業の経営支援について
我が国において、国たみを治める理想的な政治の在り方を示すものとして、仁徳天皇の「民のかまど」のお話があります。
古代日本、仁徳天皇の御世、天皇が難波高津宮(いまの大阪市内)という都の宮殿から庶民の町並みをご覧になると、夕食時なのに煙が上がっていない。そこで、「税が重すぎて、食事がろくにつくれないのだ。」と気づかれ、税を取ることを中止された。そのため、御自らの食事も粗末になり、宮殿の屋根の葺き替えも出来なくなり、雨漏りがするようになった。そして、やがてやっと、民のかまどから煙がいつも上がるようになるのをご覧になって初めて、税を元に戻され、御自らの食事も屋根の葺き替えも、次第に元通りにされたとの逸話は、政治の基本が、人々の暮らしを豊かにすることに在り、「民は歓喜(よろこび)楽しむ生活をしているかどうか」によって、政治の善し悪しを反省するという、我が国における政治の理想を端的に物語っているように思われます。
私は、この「民のかまど」のお話に思いをいたす中で、政治は何のためにあるのかということについて、一つの結論に達しました。「政治は家庭団欒のためにある。団欒の家庭が増える政治が良い政治である。」と。
今日の貨幣経済の世の中において、私たちは、貨幣即ちお金があれば、かって歴史上のどの王侯貴族も味わうことができなかった贅沢で、快適で、便利な生活を享受することができます。しかし、お金がなくなると、人としての尊厳を保って生きていくことすら困難な境遇に追い込まれてしまいます。その生きていく上において大事なお金を、多くの人たちは、企業で働いて給与という形で受け取っています。そして、その企業の99.9%が、本県においては中小企業であります。企業への就業人口の割合からみると、82%が、中小企業です。従って、県下の中小企業の経営を支援していくことは、常に、県民の暮らしを守ることに直結する重要な政策課題であります。そうした思いから、この度は、少しでも団欒の家庭が増えることを願いつつ、「中小企業の経営支援」についてということで質問いたします。
では、3点程お伺いいたします。
(1) 制度融資の目的について
県が、中小企業の経営支援のために行なう施策の重要な柱の一つは、制度融資であります。ここ10年程の制度融資の実績を見てわかることは、リーマンショックが、本県経済にも大きなマイナス影響を与えたということであります。そして、それを乗り切るために資金供給という面において、制度融資がしっかり機能し、県下の多くの中小企業を支えたことが窺えます。
特に経営安定資金は、リーマンショックが起きた平成20年度には、件数は486件で約98億円が、翌21年度には、1408件で約275億円が、平成22年度には、1745件で約309億円が融資されています。また、関連することと思われますが、信用保証協会が、金融機関に対して融資資金の返済を保証していて、その返済が不能となった分を代位弁済した額が過去最高の約112億円になったのも、リーマンショックが起きた平成20年でした。
制度融資の目的は、中小企業を育てる、支える、伸ばすの三つあると考えられますが、これまでの実績からして、支えると云う目的は充分果たして来ているように思われます。ただ、育てると伸ばすの目的で創設された制度融資の資金は、その利活用が今一歩の感があります。
資金需要がないところに融資を押し付ける必要はありませんが、私は、制度融資資金が、中小企業を育てるということでは創業や起業などの支援において、また中小企業の事業を伸ばすということでは新規事業展開や海外進出などの支援において、しっかり利活用され、本県の産業経済の発展に資するようになることを期待するものです。
ただ、そのためには単に資金を設けたと云うだけではなく、融資要件のさらなる改善を図りつつ、制度融資の窓口となる銀行等の金融機関や、制度融資を保証する信用保証協会と、積極的な対応を促す意味で、連携を一層緊密にしていくことも必要と思われます。
そこで、以上申し上げましたことを踏まえお尋ねいたします。県は、中小企業制度融資の目的と今後の在り方につき、どのように考えておられるのか、ご所見をお伺いいたします。
【回答】◎知事(村岡嗣政君)
合志議員の中小企業の経営支援に関する数点の御質問のうち、私からは、制度融資の目的についてのお尋ねにお答えします。
本県経済の持続的・自立的な発展を図っていくためには、中小企業が、その機動性や創造性を生かした意欲的な事業活動を展開をするとともに、経済環境の変化に対応して、経営体質を改善し、経営の安定・強化を図ることが重要です。
このため、県としては、制度融資を中小企業支援施策の大きな柱に位置づけ、民間金融機関等の補完的役割を担うものとして、低利・長期の資金を供給することにより、中小企業の金融の円滑化を図ることを目的に実施してきたところです。
こうした目的のもと、中小企業の創業や成長に必要な資金需要に対応するため、最優遇金利を設定した創業応援資金や、海外展開を目指す企業を支援する資金などを、今年度、新たに創設し、創業応援県やまぐちの実現など、チャレンジプランに掲げる施策に対応する金融支援の強化に努めています。引き続き、創業・新事業展開の支援や経営基盤の強化に資する資金の充実により、中小企業力の発展・強化を図ってまいります。
また、お示しの世界的な金融危機における景気後退や、円高などの影響を受けた中小企業に対して、これまでも、セーフティネット資金である経営安定資金等の融資枠や融資対象の拡充などにより、県内景気を下支えしてきたところであり、今後とも、セーフティネット資金等の融資枠の確保により、中小企業の経営の安定を図ってまいります。
県としましては、中小企業を取り巻く経営環境の変化や企業ニーズを的確に捉え、中小企業にとって、より利用しやすい制度となるよう、その見直しや融資枠の確保等に努めるとともに、金融機関や信用保証協会、商工会議所など中小企業支援機関との緊密な連携のもと、本県産業力の源泉である中小企業の持続的発展や成長に向けた金融支援に積極的に取り組んでまいります。
その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。
(2)再生支援について
県の制度融資は銀行等の金融機関を通して行われますが、原則として信用保証協会の保証が必要です。具体的には、本県の制度融資資金は21ありますが、そのうち17資金はすべて信用保証協会の保証が必要ですが、残りの4資金は、必要に応じて保証付となっています。従って、その融資を受けた事業者は、大方が金融機関に返済する元利金に加えて信用保証料を支払うことになります。この保証料は、原則として融資を受ける時に全額一括して支払うことになっています
ところがその後、企業経営が苦しくなり、元利の返済を当初の計画通り行なうことが、困難になることがあります。そうした場合、元金を据え置いて利息のみ当面返済するなどの返済条件の変更を、金融機関に求めることになります。それが認められれば、その企業は、当座の資金ショートを免れて助かることになりますが、そうした条件変更は、返済期限の延長を伴うことから、新たな信用保証料が生じ、追加の支払いが求められることになります。
私は、こうした返済の条件変更に伴う新たな追加の信用保証料については、軽減ないし免除の措置が取られると、助かる中小企業が数多くあるのではないかと見ております。
私が知っているある建設業関連の会社の経営者は、自分の給料は8万円にしたと語っていました。団塊の世代で年金がもらえるようになったので、それと併せてどうにかやっている。好きだったゴルフや飲み会も、年間ほんの数回にした。職員の給与もぎりぎり抑えて、会社の利益は、出来るだけ借金の返済に当てるようにしているとのことでした。
その社長にとって、減免があればと思うのは、新たに生じた信用保証料の追加支払いのことでした。ここ3年間で、90万円程支払っているようで、出来ればその分を、職員の処遇改善や借金の返済に充てることができればとの思いが湧いてくるようです。
順調だった会社経営が苦しくなったのは、先ず公共事業が半減したことの影響がありました。それでも頑張って来たのですが、リーマンショックによる景気減速の中で、ついに返済の条件変更を余儀なくされ、信用保証料の追加支払いが求められることになった次第であります。
この経営者と同様の境遇にあって、同じ思いを持ちながら事業再生に向けて苦闘している中小企業の経営者は、県下にも数多くおられるのではないでしょうか。
そこでお尋ねです。事業再生に向けて頑張っている県下の中小企業への有効な経営支援策の一つとして、私は、個々の事業者の経営努力では避けられない不可抗力的な経営環境の変化のために返済の条件変更を余儀なくされた中小企業に対しては、そのことに伴って生じる信用保証料を軽減ないし免除出来るよう、県は必要な措置を講ずることを検討すべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
【回答】◎商工労働部長(阿野徹生君)
中小企業の経営支援についての二点のお尋ねにお答えします。
まず、再生支援についてです。
制度融資においては、中小企業が民間金融機関から十分な融資を受けることが困難な場合に、信用保証協会が債務保証することにより、その信用力や担保力を補完し、金融の円滑化を図っています。
さらに、融資を受けた中小企業に対しては、経営基盤の強化を図ることを目的として、信用保証料の軽減措置を講じているところです。
お示しのように、返済期限の延長などの条件変更により、追加の保証料負担が生じた場合においても、追加負担に対して、当初の条件と同様の軽減措置を講じていること、また、追加の保証料にさらなる軽減・免除措置を行った場合は、条件変更の有無によって保証料負担の公平性を損なうおそれがあることなどにより、当初の軽減措置をさらに上回る軽減については困難であると考えております。
(3)損失補償について
県の制度融資は、融資のため原資となる資金を金融機関に預託するだけのものと、それに加えて県が損失補償をするものと二通りあります。制度融資は、多くの場合、信用保証協会の保証を利用しますので、制度融資を受けた事業者が返済できなくなった場合には、信用保証協会が関係の金融機関に対して代位弁済を行うことになります。その代位弁済のうち70%は保険で払われますが、残りの30%は保証協会の負担となります。県が行なう損失補償は、代位弁済におけるその信用保証協会負担分の7割を県が支出するものであります。ちなみに、平成26年度の県の決算においては、2億1千万円程が、その損失補償のために支出されています。
信用保証協会による保証は、金融機関が融資した資金が返済されない事態になることのリスクを回避することで、金融機関から事業者への資金の供給が、円滑に行われることを促すものでありますが、県による損失補償は、その信用保証協会が、代位弁済する場合の負担を大幅に軽減することで、資金融資への保証を後押しするものであります。
平成27年度の県の制度融資の資金は、21ありますが、その中で県が損失補償を設定しているのは経営安定資金、経営支援特別資金、経営力強化支援資金、事業再生支援資金の4つであります。今年度新規の制度融資として創設された創業応援資金も、女性活躍応援資金も、海外ビジネス展開支援資金も、損失補償の設定はされていません。
察するに、制度融資は、産業・経済の政策推進の観点から、重要と思われる事業への資金供給が円滑に行なわれるよう資金を確保して金融機関に提供することが基本かつ一般的な役割であり、損失補償は、企業の存続に係わる緊急性、必要性が高いと思われる融資資金に対して特別に許容される措置である、そう県は考えているように思われます。
私は、これまで制度融資に係わる損失補償を、県がそういう考え方で慎重に行なって来たことは、妥当であったと思うものです。ただ、これからは企業経営の破綻を回避するというマイナスを生じさせないための損失補償だけではなく、創業、新事業展開などのプラスを生みだすための前向きの損失補償があってもいいのではないかと考えます。具体的には、今年度に新規に設けられた創業応援資金や海外ビジネス展開支援資金等の制度融資も、損失補償が行なわれるようにしていいのではないかということであります。
これまで県が創設した制度融資の資金の中で、唯一前向きの損失補償の例としては、「ベンチャー企業成長支援資金」に対するものがあります。この制度融資資金は、平成18年度に創設されたもので、当初は10億円の融資枠を確保しておりましたが、平成21年度以降はそれが5億円となり、平成26年度までの9年間で60億円の融資枠が確保されたものの、融資実績は8件で、9800万円にとどまりました。また、この資金融資に伴う損失補償の支出は、9年間通してゼロであり、平成27年度からは、この資金への損失補償はなくなりました。
私は、ベンチャー企業成長支援資金が、損失補償まで行なうことにしていたにもかかわらず、その利活用が僅かであったことの分析は行なう必要があると考えますが、ベンチャー企業の育成支援に県が力を入れていることを示す意味において、この資金への損失補償は続けた方がよかったのではないかと思っています。
そこでお尋ねです。県の制度融資の資金の中で、創業、新事業展開、海外ビジネス展開など将来に向けてプラス効果を生みだす事業を支援するための資金も、県が産業経済の政策として重視する事業の推進に資するものには損失補償があっていいと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
質問は以上ですが、今回の質問は、すべて信用保証協会の在り方と関連していますので、信用保証協会のことについて思っていることを、以下述べさせていただきます。
先日、12月4日の朝日新聞に、「地方金融機関 企業の育成が本分だ」との見出しの社説が掲載されました。先ず、その社説の核心部分と思われるところの記事を紹介致します。
不良債権問題を収束した今、(金融政策の)焦点は銀行経営そのものから、融資先企業や地域経済の再生に移ってきた。地元の工場や商店が事業の手をいっそう広げ新しいビジネスに挑み、より多くの雇用を地元で生まなければ、地域再生は実現しない。それには新しい投資資金が必要となり、金融機関に前向きな融資を奨励する行政が必要となる。
朝日の記事には批判的な私も、この社説には全く同感であります。この社説で指摘している、「金融機関に前向きな融資を奨励する行政」が、まさに制度融資でありますが、この融資は多くの場合、信用保証協会の保証を必要としていますので前向きな融資を実現していくためには、信用保証協会の保証の仕方も、前向きなものになっていくことが求められます。
先に、質問の第一のところで、育てる目的の制度融資、伸ばす目的の制度融資が、しっかり利活用されるためには、積極的な対応を促す意味で、銀行等の金融機関や信用保証協会との連携を緊密にする必要があると申し上げたのも、この社説と同趣旨であります。
繰り返しになりますが、事業者への制度融資の窓口となり、事業者の事情に見合った制度融資の資金を紹介し、事業者に資金融資を行うのは銀行等の金融機関です。ただ、その融資が行なわれることになるかどうかは、信用保証協会が保証を付けるかどうかにかかっています。その際、信用保証協会は、融資を求めている事業者の返済能力等を審査して保証するかどうか判断しますので、その審査の基準、方針、姿勢、考え方が、制度融資の利活用に大きく影響します。
私は、無原則に審査の基準を緩くしろと申すのではありませんが、その審査の基準や考え方が、あまり形式的、画一的にならないように、また慎重、几帳面過ぎないように望むものであります。
云わば、信用保証協会の保証業務は、基本的には安全運転よりも、積極運転が望ましく、ある程度のリスクは覚悟しながらも大胆に保証していく姿勢があっていいと思うものです。
信用保証協会の運営も、保証料等の収入で成り立っていることから、一定額の保証料収入が確保される必要があります。その保証料を、前向きの姿勢で審査し確保していく、山口県の信用保証協会は、そうあってほしいと願っています。
県は、制度融資の運用において、代位弁済の非保険分への損失補償において、保証料率低減のための補助において、そして役員理事は県知事が任命し、会長はその理事のうちから互選されますので人事において県信用保証協会の在り方に深くかかわっています。
こうしたことから、信用保証協会は、当然に県の意向を重視するものと思われます。つきましては、信用保証協会が、県下の中小企業を育て、支え、伸ばす方向で、これまで以上に前向きに、大胆に信用保証業務を遂行していくよう、県が指導性を発揮されることを要望して、今回の一般質問を終わります。
【回答】◎商工労働部長(阿野徹生君)
中小企業の経営支援についての二点のお尋ねにお答えします。
損失補償についてです。
損失補償は、制度融資が民間金融機関等の補完的役割を担うという観点から特に必要とされる資金で、信用リスクが高いものについて、信用保証協会が負担する代位弁済額の一部を補填することにより、信用保証協会に積極的な保証対応を促し、中小企業の金融の円滑化を図ることを目的としております。
こうした目的に沿って、政策性や信用リスクを考慮し、現在、経営安定資金を初めとする四つの資金に損失補償を設定しているところです。
損失補償の拡充につきましては、融資実行の円滑化を図る上では効果的であるものの、一方、当該資金が代位弁済となった場合には、損失の一部を県費で補填することになります。
したがいまして、お尋ねの創業応援資金や海外ビジネス展開資金等への損失補償の設定については、このような考え方のもと、金融情勢や中小企業を取り巻く環境の変化、企業ニーズに応じて、制度の見直しを行っていく中で、今後慎重に検討したいと考えております。