平成29年2月定例県議会【有機農業の推進】

有機農業の推進についてお伺いいたします。先ず、なぜ有機農業の推進なのか申し上げます。それは、有機農業は、これからの農業が目指すべき方向であると考えるからです。その思いを深くしたのが、先般2月18日、東京ビッグサイトで「日本の元気をとりもどす―有機農業・自然農法から広がるまちづくり」と銘打って開催されたシンポジウム自然農法全国大会でした。

この催しは、農林水産省が後援しており同省の農業環境対策課長が挨拶を兼ねて有機農業に関する現状と課題を説明した後、現場からの事例報告や提案等がありました。その中で、特に印象深かったのは昨年開催されたリオ・オリンピックで日本女子卓球を銅メダルに導いた村上監督の記念講演とその村上監督がアドバイザー役を務めていて「未来のアスリートを目指す子供達を、食の面から支えていこう」との目的で設立されたワンラブコーポレーションという会社社長の報告でした。

私は、このひと月、県内で有機農業に取り組んでいる人達、また農薬の仕事に携わっている方々、JA関係者などを訪ねて色々教えていただき、意見交換をしてきました。そしてその間、特に関心を向けたのが「食の安全」と農薬のことで、そのことに関する本も数冊読みました。要は、農薬は、農のクスリなのか、それとも毒なのかということですが、私なりの結論は、農薬は、文字通り農のクスリとみなした方が、農業上の多様な課題に柔軟に対応できていいのではないかということです。従って、正しく使うことが大事で、それを完全排除する必要はない。ただ、人間の場合も、薬を飲まないで健康に暮らせるのであれば、それが一番いいように、農薬を使用しないでやれるのであれば、それが農業の在り方としては望ましく、そういう意味において、化学合成の農薬や肥料を使わないことを基本とする有機農業は、これからの農業が目指すべき方向であると思う次第であります。

ご案内のように、農業は、時代の推移の中で求められる課題が変わり、それに応じて農業の在り方も変化し進化を続けています。戦後、我が国の農業に求められたのは食糧の増産で、農薬や化学肥料を活用した近代農法は農業の生産性を高め、このことに大きく貢献しました。

1970年代になると、我が国の農業は安全重視に大きく舵を切ります。その背景には農薬事故が相次いだこともありますが、特に影響が大きかったのは、残留農薬が生態系、環境に及ぼす深刻な被害を告発したレイチェル・カーソン女史著「沈黙の春」が喚起した世論の高まりでした。

安全重視の農業という方向は、二つの流れとなって今日に至っています。一つは、農薬の使用そのものをやめるという有機農業の流れです。化学合成の農薬は使用せず、自然が本来持つ力を活かした農業を、ということで日本有機農業研究会が、1971年に発足しております。

もう一つは、安全が確保される範囲内で農薬の使用を認めるという方向です。具体的には、毒性が低くて人や環境への影響が少ない安全性重視の農薬の開発や食品の残留農薬への規制強化などの取り組みです。我が国の農業は、基本的にこの方向で安全重視の要請に応えてきたと言えます。

ことに、平成18年にはポジティブリスト制度が導入され、国民の健康保護の観点から一定の基準量を超えて農薬が残留する食品の流通・販売は、すべて禁止されることになりました。その農薬の残留基準量は、ADIといって一日許容摂取量、即ち人間が生涯毎日その量を摂取しても、健康に影響がないと推定される量以下に設定されています。かくて、農薬の使用はあるものの、我が国において生産され流通する農産物の食の安全は確保されている、というのが我が国農政の基本的な立場であります。

農林水産省は、この基本的立場を堅持しつつ、今日、有機農業を環境保全型農業の中に位置づけ、その推進を図りつつあります。1980年代末頃から地球温暖化のリスクが一般に認知されるようになり、世界的な枠組みでの温暖化対策への取り組みが本格化する中、農業も、生産性の向上、安全性の重視に加えて環境保全型への転換が求められています。我が国の農政は、食の安全というより、そのような環境保全という時代のトレンドに沿うものとして有機農業を評価しその意義を認め推進しようとしているのであります。

農業において環境保全ということで求められることは大別して三つあります。その1は、環境負荷の低減、その2は、自然循環機能の増進、その3は、生物多様性への配慮であります。こうした環境保全型農業への転換は、今日の時代が求める農業進化の方向であると共に、我が国の農業それ自体を持続性あるものとし、食料の自給率向上に資する施策の方向であると思われます。農林水産省が、農業環境対策課を設け、有機農業担当を置き、有機農業を含む環境保全型農業を推進しようとしているのは、そういう認識に基づくものであると私は見ております。

【回答】

合志議員の御質問のうち、私からは、有機農業の推進についてのお尋ねにお答えします。

農林水産業は、食料の安定供給をはじめ、県土や自然環境の保全など多面的機能を有する産業であり、食の安全・安心や環境保全に十分配慮し、振興を図ることが重要です。

本県では、堆肥等の有機質資源の利用や化学農薬・化学肥料の削減により、環境負荷を低減する農業を推進しており、農薬などの削減割合に応じた段階的な取組を進めています。

その中で、化学農薬などを100%削減するエコやまぐち農産物「エコ100」や有機JASなどの有機農業は、最も環境負荷の低減効果が高い農法と位置付けています。

このため、私は、平成26年度に改定した「山口県有機農業推進計画」に基づき、農業者の主体的な取組を推進しており、その結果、有機農業の面積は平成27年度には前年度から21ha増加し83haとなり、その取組が着実に拡大しています。

今後においては、平成30年度目標の100haを早期に超えられるよう、生産・消費の両面から取組を強化する必要があると考えています。

まず、生産面では、有機農業は、病害虫の異常発生による収量の減少などのリスクがあることから、天敵を利用した害虫防除などの新たな技術開発をはじめ、先進事例の活用や農林事務所における相談活動など、技術的な指導・支援に努めてまいります。

また、消費の面では、地産・地消の取組の中で、有機農業の生産者と消費者の交流会や学校における食育との連携、有機JAS等の適正表示の普及などを通じ、有機農業で生産された農産物の需要拡大にも取り組むこととしています。

私は、今後とも、有機農業生産者で組織する団体や市町・JA等と連携しながら、食の安心・安全への県民・消費者のニーズを踏まえ、有機農業の推進に努めてまいります。

その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。

平成29年2月定例県議会【1.有機農業の位置づけ】

そこでお尋ねの第一です。私は、有機農業を、本県の農業の柱の一つに位置づけ、その推進を図るべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。また、そのための具体的措置として、農林水産部農業振興課に有機農業担当を置く、県農林総合技術センターに有機農業普及課を設ける、県立農業大学校に有機農業専攻科を設ける等のことを検討すべきと考えますが、併せご所見をお伺いいたします。

【回答】

有機農業について、数点のお尋ねにお答えします。

まず、県立農業大学校への有機農業専攻科設置等についてです。

お示しの各機関の現状については、

①まず、農林水産部農業振興課では、農薬の適正な使用など多岐にわたる複数の業務を担当する中で、有機農業の業務を担当しています。

②次に、農林総合技術センターでは、複数の研究室が連携して、有機農業を含む農業生産や化学農薬・化学肥料の低減技術など多岐にわたる研究に従事しています。

③次に、県立農業大学校では、学生や研修生に有機農業を含めて、生産から販売流通まで多岐にわたる知識・技術を学修させているところです。

今後の本県農業における有機農業の重要性については、十分に認識していますが、本県の農業全体に占める有機農業のウエイトを考慮し、また、生産面積が着実に拡大しておりますことから、当面は、現行体制を維持しつつ、今後の振興拡大に向けた取組をしっかりと進めてまいりたいと考えています。

 

平成29年2月定例県議会【2.健康な土づくりと有機農業】

お尋ねの第二は、健康な土づくりと有機農業についてであります。

山口市の仁保に、平成9年に農業の会社としては日本で初めて株式上場した秋川牧園という株式会社があります。化学合成の農薬や化学肥料は使わないという有機農業の基本を堅持して、農畜産物の生産、加工及び販売の事業を立派に経営軌道に乗せ、今日も「理想の農と食」を追及する歩みを続けています。

この会社の秋川会長は、農薬は農毒薬であると見ておられます。農薬によって防除される細菌やウィルス、カビまた害虫類といえども、私たち人類と同じ地球上に存在する生き物であることから、それらを殺す農薬は人体にも毒性の影響がないはずはないとの考えからです。そして、科学の発達に伴い人間が作り出した化学合成の農薬や肥料、添加物等は、元々地球上に存在しなかった異物であり、それらを使用して生産・加工された食べ物が、ガンを始めとする様々な現代病増加の原因になっていると警鐘を鳴らしておられます。

そうとは言え、「無農薬では、稲も野菜も病気や虫にやられ、収穫がなくなるのでは。」との疑問に対しては、十分に発酵した堆肥を田畑に入れる土づくりを実行すれば、虫もつかず病気にもならず、生命力溢れる有機農業、無農薬栽培が実現できると答えておられます。

山口市の平川で「中村自然農園」と称して53種類もの野菜を有機栽培しておられる中村進卓(のぶたか)さんも、有機農業の基本は土づくりで、キッチリ土づくりができれば、有機栽培は90%成功したと考えてよいと述べておられます。中村農園は、栽培面積は60アールほどですが、月に多い時では100万円程の売り上げがあるそうで、その7割はネット販売とのことです。出荷する野菜は、必要に応じて信頼できる機関による成分分析を行っており、アトピーなど化学物質過敏症の方などからも医師の勧めでということで注文があるとのことでした。

その中村さんから教えられてビックリしたのが、今日流通している野菜などの栄養成分が、昔と比べて大幅に減少しているという事実です。文部科学省は、戦後の昭和25年から食品成分表を公表していますが、それを見ますと例えば「ほうれん草」の場合、ビタミンCの成分は、平成27年産は昭和26年産の23.3%です。鉄分は、さらに少なくて15.4%です。この成分表は、国民が日常的に摂取する食品の標準的な成分値を分析調査して公表したものですが、中村農園の有機野菜の成分は、昭和26年のものと比べても、それを上回っているとのことでした。しっかりした土づくりがなされたところで栽培された有機野菜は、今日のものでも、食品の成分調査が始められた戦後当初の標準的な野菜を上回る成分があるということは、もっと注目されていいと思われます。

秋川牧園や中村農園が取り組んでいるそうした有機農業は、安全な食料の生産からさらに進んで健康な体をつくる食料を生産する農業の実践であると言えます。そして、その基本は健康な土づくりです。

このことに関して、ノーベル生理学・医学賞を受賞したアレキシス・カレルは、「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方のよって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる。」と述べています。

農学博士の陽捷行(みなみかつゆき)氏は、北里大学で開催された農医連携シンポジウムでカレルのこの言葉を紹介し、次のようにコメントしています。

「これまで多くの土壌は酷使され、さらに消耗され続けてきた。そのうえ、多くの土壌にはさまざまな化学合成物質が添加されてきた。従って、土壌全般が必ずしも健全な状態にあるとは言い難い。そのため、その地で生産される食物の質は損なわれ、それが原因となって、われわれの健康も損なわれかねない状況にある。カレルの言うように、栄養のアンバランスも有害成分も土壌から始まっていると言っても過言ではない。」と。

尚、陽博士は、山口県の萩市出身で北里大学名誉教授であり農林水産省の農業環境技術研究所の所長も務められた方です。現在は静岡県伊豆の国市にある公益財団法人 農業・環境・健康研究所 農業大学校の校長をしておられます。

思うに、戦後の農業において農薬と化学肥料は、食料の増産と農家負担の軽減に大きく貢献して来ました。しかし、その代償として土の健全性を損なってしまったのではないでしょうか。これからの農業に求められていることは、その反省を踏まえて、農業本来の目的である健康な体をつくる食料の生産という農業の原点に立ち返り、その基盤となる健康な土づくりに本格的に取り組むことであると考えます。私が冒頭に、有機農業は、これからの農業が目指すべき方向であると申し上げたのは、そういう意味においてであります。

そこでお尋ねです。今日の農業に最も求められていることは、健康な体をつくる食料の生産であります。ついては、その農業基盤となる健康な土づくりを全県的に実現していくための長期的方針を定め、その推進を図っていくべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】

健康な土づくりと有機農業についてです。

お示しのとおり、健康な体をつくる食料の生産は、農業本来の目的であり、その基盤となる健康な土づくりを長期的な視点で継続していくことが重要と考えています。

このため、本県では、平成12年度に定めた「山口県循環型農業推進基本方針」に基づき、健康な土づくりを全県的に実現できるよう、市町や関係団体と連携し、長年にわたり継続的な取組を推進しているところです。

健康な土づくりを進めるためには、堆肥などの有機質資源を適切に利用することが基本ですが、近年の農業者の高齢化等により、有機質投入量の減少が課題となっています。

こうした状況を踏まえ、今後は、畜産農家と耕種農家の連携により有機質資源の地域内循環利用を促進するほか、土壌分析に基づく適切な堆肥等の投入指導や、県下59カ所の堆肥製造・販売施設を記載したマップによる周知などを通じ、健康な土づくりに向けた取組を一層推進してまいります。

平成29年2月定例県議会【3.有機農産物の需要拡大と供給力強化】

お尋ねの第三は、有機農産物の需要拡大と供給力強化についてであります。

我が国における有機農産物の需給の現状は、極めて小さい規模にとどまっています。生産面積は緩やかに増加しているものの、我が国の耕地面積の0.6%にすぎません。有機食品の市場規模は、約1300億円で食品市場のシェアの1%を下回っています。因みに、欧米においては年々増加の傾向にあり、欧州が3.7兆円、米国が3.8兆円で、我が国と比べて市場規模が格段に大きく成長しています。

我が国の有機食品の市場規模が小さい理由を考えてみますと、その需要が、一般消費者まで広がっていないということが考えられます。有機農産物を買い求める消費者は、食の安全等にこだわりがある人たちが主で、店頭に、慣行栽培の農産物と有機栽培の農産物がある場合、一般消費者の多くは価格が安い慣行栽培の農産物を買い求めるケースがほとんどです。そうした現状の中で、農業者の多くは、慣行栽培と比べてより多くの手間と労力を要する有機栽培の農産物を、それに見合った価格評価をマーケットがしてくれる見通しがないまま、本格的に取り組めないというのが実情ではないでしょうか。

ただ、欧米ではオーガニックな食材ということで有機農産物の需要が増大しているという流れは、我が国にも及んでくるものと思われますし、健康志向が強まる時代トレンドの中で有機農産物の需要は、今後増大していくものと期待されます。

では、有機農業の拡大発展は、自然の流れに任せておけばいいのか。私は、そうではなく、有機農産物の普及が一定水準に達するまで、公的機関がその需要を創り出し拡大していく役割を積極的に担い、その生産農業者の収入が確保されるようにしていくことが必要であると思います。

そういう意味からして、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、我が国の有機農業がステップアップする絶好の機会であります。この大会開催の基本計画では、飲食に関する主要目標として「持続可能で環境に優しい食料を使用する取組を実行する」と明記されており、農産物の調達基準は、食材の安全確保等、三つの要件を満たしていることをベースにして、有機農業で生産された農産物が、推奨される事項として明示される見通しです。我が国で開催されるオリンピックという世界的なビッグイベントは、我が国の有機農業の現状では、とても賄いきれない多大な有機農産物の需要を創り出すことが予想されており、そのことへの対応という点からも農林水産省は現在、有機農産物の生産拡大に取り組もうとしております。

そこで、このことに関連して有機農産物の需要拡大と供給力強化についてお伺いいたします。

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会においては、国内外のサプライヤーが大会の調達基準の要件を満たした食材を求めて活発な動きを展開するものと予想されるので、その機会をとらえて本県の食材を世界にアピールし販路を広げるきっかけにしていく取り組みが望まれます。ついては、推奨事項である有機農産物を、大会の調達基準要件を満たした形で最大限供給できるよう、本県の供給目標を定めて有機農産物の生産供給体制の強化に取り組むべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

また、2020年東京大会終了後は、県が市町と連携して例えば学校給食に、県産有機農産物の食材利用を促進する等、安定的な有機農産物の需要拡大に取り組むことを考慮すべきと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】

有機農産物の需要拡大と供給力強化についてです。

お示しのとおり、我が国の有機農産物の需給は、極めて小規模にとどまっており、耕地面積の0.6%にすぎない現状にあります。

しかしながら、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催により、有機農産物のニーズは高まり、本県の有機農産物の販路を広げるチャンスになると考えています。

①このため、需要の拡大が期待される有機農業で生産された農産物の増産をはじめ、農業生産工程管理であるJGAPの認証取得を進めるなど、大会の調達基準を満たす食材の需要に最大限対応できるよう、生産供給体制の強化に取り組んでまいります。

②次に、大会後の有機農業で生産された農産物の安定的な需要拡大については、有機農業生産組織と販売協力店等との連携を図り、適正表示の指導と併せ、取扱を促してまいります。

また、ご提案のありました学校給食での利用促進については、農業・畜産・環境問題など食育の観点からも有意義であると考えており、地域の特色を生かした取組に向け、関係者と協議し対応を検討してまいります。

平成29年2月定例県議会【4.新規就農者と有機農業】

お尋ねの第四は、新規就農者と有機農業についてであります。

山口市では新規就農しようとする若い人たちの8割は、有機農業を希望しているとの話を耳にしたことがあります。全国的には、新規就農希望者の3割近くが、有機農業を希望しており、慣行農業者の5割近くは条件が整えば有機農業に取り組みたいと考えているとの調査結果が公表されております。

いずれにせよ新たに農業をやろうという人たちの中で、有機農業を志す人たちの割合が高いことは明らかです。また、先に述べましたように農林水産省も環境保全型農業の中に有機農業を位置づけ、その推進を図っています。

しかし、新たに有機農業に取り組もうとする人たちに対する、技術・経営などでの指導・支援の体制は、都道府県や市町によってバラつきはあるのでしょうが、概して弱く十分ではないようであります。本県もそうだと思われます。

今回、私が有機農業に関心を向けて関係者の話を聞いていった時、幾度か訴えられたのが、新規就農者に、年間150万円を5年間給付する支援を、有機農業をやろうとする者にも認めてほしいということでした。この給付金を受けるには、新規就農後の農業経営計画が、実際成り立っていく見通しが確認される必要があります。それが有機農業の場合、そのことを困難視されてなかなか認められないようです。こうしたことが、農業をやろうとする若い芽を潰してはいないのか気になります。

ある有機農業経験者の方は、「有機農業は高い技術力を要するから、最初から有機農業に取り組むということには賛成できない。慣行農業も有機農業も両方経験し学んだ上で有機農業を目指すのがいいと思う。」と語っておられました。

確かに、その通りであろうと思われます。そこで、最初から一挙に全て有機農業ではなくても、段階的に有機農業の夢実現に至る道筋を示すことができる農業指導員の存在が、有機農業をやろうとする若い芽を育てるためには必要と思われます。そういうことを含め、栽培技術・農業経営の両面から有機農業をやろうとする人たちを指導支援する体制の整備が必要なのではないでしょうか。

そこでお尋ねです。山口県は、農業の担い手支援日本一を標榜しています。であれば、新たに就農しようとする若者に希望が多い有機農業の担い手支援においても日本一であってほしいと願うものです。ついては、そのことに向けて新規就農で有機農業を希望する人たちに対する、指導・支援体制の整備充実を図るべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】

新規就農者と有機農業についてです。

お示しのとおり、新規就農者が増加傾向にある中、条件が整えば有機農業に取り組みたいと考える若者も増えています。

新規就農者が担い手として定着するためには、技術の習得と所得の確保により、早期に経営安定を図ることが何よりも重要であり、特に、高い技術力を要し所得の確保が不安定な有機農業は、栽培経験を重ねるなど、段階的に取り組むことが必要です。

このため、実践を通じた豊富な栽培経験を有する有機農業生産者から、経営や販売のノウハウ等を学べるよう、先進事例の調査研究や研修生の受入れ、生産者のネットワークづくりを進めるなど、有機農業関係団体や指導機関等と連携しながら、技術・経営の両面から指導・支援に努めてまいります。

平成29年2月定例県議会【5.中山間地域と有機農業】

お尋ねの第五は、中山間地域と有機農業についてであります。

中山間地域には、有機農業が向いているという声をよく聞きます。確かに、大区画の圃場整備を行い、機械化して生産性を上げることによりコスト競争力のある農業を実現していくという規模、効率追求の農業に中山間地域が向いていないことは明らかであります。

では、農地の7割が中山間地域にある本県は、どういう農業を目指すべきなのか。勿論、規模拡大・効率追求が可能なところにおいては、その取組みを進め生産性を上げていく農業を目指すべきでしょう。しかし、それが困難なところにおいては、消費者の安全・安心や健康志向のニーズに応える栄養価の高い良質、高品質の農産物を生産していく農業を目指すのが望ましいと考えられます。有機農業は、正しくそうしたニーズに応える農業でして、本県の中山間地域において、もっと取組まれ、中山間地域の振興策として推進されていいと思います。

また、我が国の有機農業には、「生産者と消費者の提携」という理念があり、「顔の見合える関係」を大事にしてきました。そうした有機農業は、中山間地域と都市住民・一般市民との交流や、若い新規就農者の参入そして定住の契機になり、中山間地域の活性化に寄与することが期待されます。

あぶらんど萩JAの方からお聞きしたことですが、阿武町の福賀にある農事組合法人「うもれ木の郷」は、特別栽培のエコやまぐち農産物の中で化学農薬、化学肥料を使用しない「エコ100」の米、ミネラル米を生産していますが、毎年6月頃には、山大剣道部部員30数名が1泊2日の予定できて、除草の手伝いをすると共に、夜は農家の方々と懇談し交流を深めるとのことでした。有機農業が契機となって実現している、誠に喜ばしい農業支援と交流の事例でして、このようなことが、もっと拡がるよう何か策が講じられるといいですねと言っておられました。

そこでお尋ねいたします。中山間地域の振興、活性化の施策の一環として、中山間地域における有機農業への取組みを支援し、その推進を図るべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】

中山間地域と有機農業についてです。

人口減少や過疎化が深刻化する中、中山間地域の活性化は、県政の重要課題であり、基幹産業である農林水産業の振興はもとより、若者の移住・定住など様々な施策を展開する必要があります。

有機農業においては、「生産者と消費者の提携」や「顔の見える関係」を重視して進めてきたところであり、都市と農山村が近接する本県中山間地域の特性を生かし、多様な気象条件等に適した農産物づくりを推進するとともに、地産・地消や都市農村交流などを一層進めることが重要です。

このため、お示しのありました、水田の除草作業を通じた大学生との交流のように、有機農業を契機として、消費者をはじめ、若い新規就農者、地域おこし協力隊などとの多様な交流により、理解促進を進めてまいります。

さらに、近年、田園回帰とも言われ、都市から農山村への移住を志向する若者が増える傾向にあることから、この機をとらえ、新たな取組として中山間地域への移住就農も促進してまいります。

平成28年9月定例県議会【公有水面埋立免許の延長について】

お尋ねの五は、公有水面埋め立て免許の延長についてであります。
県知事は、本年8月3日付で中国電力が申請していた上関原発建設計画に係る公有水面埋立免許の延長を許可されました。私は、この延長許可判断に関して問題と思うところを、指摘し、ご所見をお伺いしたいと思います。
その一は、埋立を続行する理由とされた土地需要についてであります。
二井元知事の埋立免許延長申請についての法的整理が、山本知事そして村岡知事に、二井元知事が意図した通り引き継がれてきたかどうかは、議論の分かれるところですが、「埋め立ての前提となる土地利用計画が不透明であれば、公有水面埋立法上の要件である正当な事由がなく、埋立免許の延長を認めることはできない。」とする法的整理は、議会答弁でも明らかなように引き継がれています。この法的整理では、埋め立ての前提となる土地利用計画が不透明であれば、許可できないとしている訳ですが、この度の許可判断では、土地需要があるので許可するとしています。
しかし、土地需要があっても、土地利用計画が具体的に確定していないで不透明という場合もあることから、土地需要があることを以って許可するとした判断は、これまでの議会答弁の域を超えており、その変更であります。そこで、どういう理由で、埋立の前提を、土地利用計画が確定していることから、土地需要があることに変更したのか、お伺いいたします。
その二は、延長許可判断の根拠とされた国の見解についてであります。
免許延長の許可に当たって公表された資料によれば、「上関原発に係る重要電源開発地点指定は引き続き有効であり、事情の変化がない限り、解除することは考えていない。」との国に見解を得たことが根拠で、公有水面埋立免許の延長を許可したとの説明があります。
この説明については、二点の疑問があります。
第一点は、国の見解を含めての中国電力の回答は、去年と今年と基本的に変わっていないことであります。それなのに、なぜ今年は許可の判断になったのか、ということであります。資料に記されている中国電力の回答は、昨年5月の中国電力の回答の中で示されている内容と同趣旨であります。違うのは、中国電力の照会に対する資源エネルギー庁の電力基盤整備課長名による文書回答の言及が、昨年は重要電源開発地点の制度についてでありましたが、今年は上関原発に係るその指定の有効性についてのものであったということであります。
そこでお尋ねです。この度、県が許可判断をしたのは、上関原発に関して重要電源開発地点の指定が有効であり、解除を考えていないとの見解を、国が文書回答において示したからなのか、お伺いいたします。
第二点は、重要電源開発地点の指定が有効であることが確認されれば、それで国のエネルギー政策における位置づけが確定していると言えるのか、ということであります。
「原発依存度は、可能な限り低減させる」、「原発の新増設は、想定していない。」との政府方針がある限り、たとえ重要電源開発地点の指定が有効であり、解除は考えていないとの資源エネルギー庁担当課長の見解が示されたとしても、それは、重要電源開発地点指定制度において有効なのであって、そのことをもって、国のエネルギー政策に位置付けられているとするのは、一方的な無理筋の解釈であります。
加えて指摘しておきたいことがあります。それは、原発において重要電源開発地点の指定が、福島原発事故が発生した当時と今日と、何ら変わっていないことについてであります。このことは、福島原発の過酷事故の体験を経て、「原発依存度を可能な限り低減させる」という方向へ国のエネルギー政策が転換されたにもかかわらず、その政策転換が、重要電源開発地点指定制度における原子力発電所の指定の見直しにまで、未だ及んでいないことを意味しています。従って、指定に変更がないことをもって、原発の新増設計画の位置づけに変更がないと主張することは、政府の不作為によって見直しがなされていない状況を根拠にしている訳であって、到底受け入れられるものではありません。冷静に、エネルギー政策の全体状況を見れば、原発の新増設について政府の方針は、定まっていないと見るのが、衆目が一致する正確な現状認識であります。
そこでお尋ねです。重要電源開発地点の指定が有効と確認されたことをもって、上関原発は、国のエネルギー政策に位置付けられているとみなすことはできないと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
最後に、埋立免許の延長許可処分時の知事発言についてお尋ねいたします。県が、公有水面埋立免許の延長許可を公表した際、村岡知事は、ぶら下がりのマスコミ取材に応じ、「不許可は違法な処分。法的には許可せざるを得ない。」と発言しておられます。
私は、今回の質問において、観点、立場、立ち位置が異なると、正しいとされる理論も異なったものになることを申上げました。この度の、埋立免許延長の件においても、異なる立場から村岡知事とは反対に、「許可は違法な処分。法的には不許可にせざるを得ない。」との判断もある得ることを、先ず指摘しておきたいと思います。
この立場の違いは、福島原発事故後のエネルギー政策に関する状況変化を考慮に入れる立場と、それを考慮に含めない立場との違いであります。ハッキリ言って、公表された説明資料を見る限り、県の今回の判断は、後者の立場からのものと言わざるを得ません。説明資料にある「国の見解は、重要電源開発地点に指定された上関原発の国のエネルギー政策上の位置づけが当初免許時と変わることなく存続し、今後も存続する見通しであることを示す具体的な根拠となるものである。」との記述は、そのことを如実に物語っています。
一方、前者の立場からすれば、「政府の方針は、現時点において、原発の新増設は想定していないので上関原発の位置づけは不透明であり、新たな原発の規制基準による審査も受けていないので、埋立の前提となる土地利用計画も確定していないことから、免許の延長を許可する上での法律上の要件である正当な事由が有るとは認められず、不許可にする。」との判断も充分に成り立つのであります。こうした判断に基づく不許可処分が、法律上違反になるとは全く思えません。
公有水面埋立法に基づく免許権は、法定受託事務として知事が行使することから、同法を所管する国土交通省の有権解釈を参考にすることは当然ですが、地方分権改革により、国と地方の関係が同等となった今日、個々の事案にどう対処するかは、原則的に知事に委ねられているものと考えられます。
そこでお尋ねです。この度の公有水面埋立免許延長許可の判断は、福島原発の過酷事故の体験を経て、その後、我が国のエネルギー政策が変わったことへの考慮が欠けているように思いますが、ご所見をお伺いいたします。
(再質問―要望)

今回の質問は、埋立免許延長許可の撤回を求めてのものではありません。今回の許可処分は、村岡知事としては熟慮を重ねられての結果であろうと見ております。ただ、納得し難い疑問点、問題点があることも事実であります。今回の質問では、そうした点を率直に指摘したものでして、村岡知事には、真摯に受けとめていただきたいと望んでおります。
公有水面埋立免許の延長問題は、今回の処分で終わりではなく、延長許可期間が期限を迎える3年後に再燃することが予想されます。
そういう事態になった時点においても、「原発の新増設は、想定していない。」との国のエネルギー政策の方針に変わりがない時は、さらに埋立免許延長の申請があったとしても不許可処分にし、「原発依存度を、可能な限り低減させる。」との方向において上関原発問題を解決するため、村岡知事が政治的リーダーシップを発揮されることを要望して、今回の質問を終わります。

2016年11月28日

平成28年9月定例県議会【上関原発について】

次に、上関原発の建設計画の見通しについてお伺いいたします
上関原発の建設については、国も中国電力も上関町も、本音のところでは困難と思っていると、私は見ております。しかし、三者ともそのことを表だって表明することは避けているため、三者、三すくみの状態で、上関原発問題は、膠着状態が続いています。
私は、その膠着状態を打開する役割を果たせるのは、県なのではないかと思っていまして、村岡知事の政治的リーダーシップにより、上関原発の建設問題が、解決の着地点に至ることを期待しています。
上関原発の建設が困難と思われるのは、「原発依存度は、可能な限り低減させる。」との国のエネルギー政策の方向は、国民的コンセンサスになっており、これが変わることはないと思われるからです。この方向の延長線上に、原発拡大路線時の計画の実現となる上関原発の建設は、あり得ません。
福島原発事故の前年である平成22年、当時は民主党政権でありましたが政府は、14基以上の原子力発電所を新増設して2030年までに総発電量の53%を原子力発電にするとの内容のエネルギー基本計画を策定しました。上関原発は、その計画に位置付けられています。その上関原発の1号機、2号機が稼働するようになると中国電力における原子力の電源設備構成比率は三割となり、それは、福島原発事故以前の我が国における原子力の電源構成割合とほぼ等しいものになります。こうしたことから、我が国のエネルギー政策が、再び福島原発事故以前の原発拡大路線に戻らない限り、上関原発が、国のエネルギー政策に位置づけられることは困難であり、建設はあり得ないと思う次第です。
そこで、お尋ねいたします。私は、「原発依存度は、可能な限り低減させる。」との国のエネルギー政策の方向に、上関原発の建設はあり得ないと見ておりますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

2016年11月28日

平成28年9月定例県議会【国のエネルギー政策について】

お尋ねの三は、国のエネルギー政策に関してです。
本県は、国のエネルギー政策に協力することを基本的スタンスにしております。ところが、その国のエネルギー政策は、福島原発事故以後、将来の具体的な全体像を描き切れないまま推移しています。特に、原子力発電に関して、そうであります。
原子力発電について国の方針を確認しますと、先ず、一昨年の平成26年4月に策定されたエネルギー基本計画においては、原発は、ベースロード電源と位置付けられたものの、原発依存度については、可能な限り低減させるとの方針が明記されています。次に昨年、平成27年7月に経済産業省が公表した「長期エネルギー需給見通し」では、2030年度における電源構成において原子力発電が占める割合を、20%から22%としており、これの達成は、既存原発の再稼動と運転期間の延長で可能との見通しであり、「原発の新増設は想定していない。」との見解を、政府は明らかにしております。つまり、現時点における政府の方針では、原発の新増設は想定されていないのであります。
一方ややっこしいのは、重要電源開発地点の指定では、現在も、新規計画の原子力発電所が、六地点指定され、九基の原発がその対象になっているということであります。その九基の原発の中で、島根原発3号機、大間原発、東通原発1号機の三基は、原子炉設置が許可され、原子力発電所としての本体工事が進捗しており、2030年度の電源構成を考える上においては、これら三基は、既存原発に含められています。そこで問題となるのは、上関原発1号機、2号機を含む残り六基の明確に新増設と見做される原発の位置づけであります。
政府の方針は、原発の新増設を想定していない。しかし、重要電源開発地点の指定においては、新増設の原発の指定に変更はない。先ほど、私は、国のエネルギー政策は、特に原子力発電において、将来の具体的な全体像を描き切れていないと申し上げたのは、こうした現状を指してのことであります。
では、「原発の新増設は、想定していない」とする政府の方針と、重要電源開発地点の指定を受けている新増設原発の建設計画とは、どういう関係にあるのでしょうか。
重要電源開発地点の指定は、電気事業者等の要請に基づき経済産業大臣が指定するものであります。一方、「原発の新増設は、想定していない。」との政府方針のベースにあるエネルギー基本計画及び長期エネルギー需給見通しは、平成14年に策定されたエネルギー政策基本法に基づいて政府が策定するものでありまして、特に、エネルギー基本計画は、閣議決定されることになっています。このことから、重要電源開発地点指定制度の上位に、エネルギー基本計画及び長期エネルギー需給見通しを受けての政府方針があると言えます。従って重要電源開発地点の指定があっても、実際上の事業計画の実施は、政府方針に沿う他なく、「原発の新増設は、想定していない」との政府方針が明確な今日、事業者は、原発の新増設の計画を前に進め得る状況にはありません。
以上のことを踏まえ、お尋ねいたします。私は、重要電源開発地点に指定されている新増設の原子力発電所は、国のエネルギー政策において、未だその位置づけは不透明であると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

2016年11月28日

平成28年9月定例県議会【知事の役割について】

お尋ねの第二は、知事の役割についてであります。
知事の役割は、言うまでもなく行政の長としての役割と政治家としての役割の二通りがあります。そこで問題となるのは、最終的に、どちらの役割に基づく判断を優先すべきかということであります。
マックス・ウェーバー著「職業としての政治」は、政治に関する古典的名著でありますが、その中でマックス・ウェーバーは、政治指導者の行為は官吏とはまったく別の、それこそ正反対の責任の原則の下に立っていることを指摘して、次のように述べています。

官吏にとっては、自分の上級官庁が、―自分の意見具申にもかかわらず―自分には間違っていると思われる命令に固執する場合、それを、命令者の責任において誠実かつ正確に―あたかもそれが彼自身の信念に合致しているかのように―執行できることが名誉である。これに反して、政治指導者、したがって国政指導者の名誉は、自分の行為の責任を自分が一人で負うところにあり、この責任を拒否したり転嫁したりすることはできないし、また許されない、と。

確かに、官吏即ち行政に携わる者、行政官に求められることは、指示命令や規則等に基づき行政事務を執行することで、そうした行為の責任は、上級者に転嫁することができます。一方、政治家は、己の行為の責任を自らに帰す、他の何者にも転嫁しない、そういう責任の原則の下に身を置いてこそ政治家なのであります。
では、知事の本質は、行政官なのでしょうか、それとも政治家なのでしょうか。また、いずれの責任の原則に基づき行動すべきなのでしょうか。はっきりしていることは、県政に関することにおいて知事は最終責任者であり、責任の転嫁はできないということであります。そういう意味において、知事の本質は、県政の政治指導者、政治家であると考えます。このことは、今日、知事の地位は、官選ではなく民選であるということからも明らかです。知事は、県政を担当する政治家として行政の長を兼ねているというのが、知事の役割についての正確な理解であると思います。
そこでお尋ねです。知事は、政治家としての責任の原則の下、その役割を果たしていくべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

2016年11月28日