平成27年12月定例県議会【中小企業の経営支援について】(3)損失補償について

(3)損失補償について

県の制度融資は、融資のため原資となる資金を金融機関に預託するだけのものと、それに加えて県が損失補償をするものと二通りあります。制度融資は、多くの場合、信用保証協会の保証を利用しますので、制度融資を受けた事業者が返済できなくなった場合には、信用保証協会が関係の金融機関に対して代位弁済を行うことになります。その代位弁済のうち70%は保険で払われますが、残りの30%は保証協会の負担となります。県が行なう損失補償は、代位弁済におけるその信用保証協会負担分の7割を県が支出するものであります。ちなみに、平成26年度の県の決算においては、2億1千万円程が、その損失補償のために支出されています。
信用保証協会による保証は、金融機関が融資した資金が返済されない事態になることのリスクを回避することで、金融機関から事業者への資金の供給が、円滑に行われることを促すものでありますが、県による損失補償は、その信用保証協会が、代位弁済する場合の負担を大幅に軽減することで、資金融資への保証を後押しするものであります。
平成27年度の県の制度融資の資金は、21ありますが、その中で県が損失補償を設定しているのは経営安定資金、経営支援特別資金、経営力強化支援資金、事業再生支援資金の4つであります。今年度新規の制度融資として創設された創業応援資金も、女性活躍応援資金も、海外ビジネス展開支援資金も、損失補償の設定はされていません。
察するに、制度融資は、産業・経済の政策推進の観点から、重要と思われる事業への資金供給が円滑に行なわれるよう資金を確保して金融機関に提供することが基本かつ一般的な役割であり、損失補償は、企業の存続に係わる緊急性、必要性が高いと思われる融資資金に対して特別に許容される措置である、そう県は考えているように思われます。
私は、これまで制度融資に係わる損失補償を、県がそういう考え方で慎重に行なって来たことは、妥当であったと思うものです。ただ、これからは企業経営の破綻を回避するというマイナスを生じさせないための損失補償だけではなく、創業、新事業展開などのプラスを生みだすための前向きの損失補償があってもいいのではないかと考えます。具体的には、今年度に新規に設けられた創業応援資金や海外ビジネス展開支援資金等の制度融資も、損失補償が行なわれるようにしていいのではないかということであります。
これまで県が創設した制度融資の資金の中で、唯一前向きの損失補償の例としては、「ベンチャー企業成長支援資金」に対するものがあります。この制度融資資金は、平成18年度に創設されたもので、当初は10億円の融資枠を確保しておりましたが、平成21年度以降はそれが5億円となり、平成26年度までの9年間で60億円の融資枠が確保されたものの、融資実績は8件で、9800万円にとどまりました。また、この資金融資に伴う損失補償の支出は、9年間通してゼロであり、平成27年度からは、この資金への損失補償はなくなりました。
私は、ベンチャー企業成長支援資金が、損失補償まで行なうことにしていたにもかかわらず、その利活用が僅かであったことの分析は行なう必要があると考えますが、ベンチャー企業の育成支援に県が力を入れていることを示す意味において、この資金への損失補償は続けた方がよかったのではないかと思っています。
そこでお尋ねです。県の制度融資の資金の中で、創業、新事業展開、海外ビジネス展開など将来に向けてプラス効果を生みだす事業を支援するための資金も、県が産業経済の政策として重視する事業の推進に資するものには損失補償があっていいと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

質問は以上ですが、今回の質問は、すべて信用保証協会の在り方と関連していますので、信用保証協会のことについて思っていることを、以下述べさせていただきます。
先日、12月4日の朝日新聞に、「地方金融機関 企業の育成が本分だ」との見出しの社説が掲載されました。先ず、その社説の核心部分と思われるところの記事を紹介致します。

不良債権問題を収束した今、(金融政策の)焦点は銀行経営そのものから、融資先企業や地域経済の再生に移ってきた。地元の工場や商店が事業の手をいっそう広げ新しいビジネスに挑み、より多くの雇用を地元で生まなければ、地域再生は実現しない。それには新しい投資資金が必要となり、金融機関に前向きな融資を奨励する行政が必要となる。

朝日の記事には批判的な私も、この社説には全く同感であります。この社説で指摘している、「金融機関に前向きな融資を奨励する行政」が、まさに制度融資でありますが、この融資は多くの場合、信用保証協会の保証を必要としていますので前向きな融資を実現していくためには、信用保証協会の保証の仕方も、前向きなものになっていくことが求められます。
先に、質問の第一のところで、育てる目的の制度融資、伸ばす目的の制度融資が、しっかり利活用されるためには、積極的な対応を促す意味で、銀行等の金融機関や信用保証協会との連携を緊密にする必要があると申し上げたのも、この社説と同趣旨であります。
繰り返しになりますが、事業者への制度融資の窓口となり、事業者の事情に見合った制度融資の資金を紹介し、事業者に資金融資を行うのは銀行等の金融機関です。ただ、その融資が行なわれることになるかどうかは、信用保証協会が保証を付けるかどうかにかかっています。その際、信用保証協会は、融資を求めている事業者の返済能力等を審査して保証するかどうか判断しますので、その審査の基準、方針、姿勢、考え方が、制度融資の利活用に大きく影響します。
私は、無原則に審査の基準を緩くしろと申すのではありませんが、その審査の基準や考え方が、あまり形式的、画一的にならないように、また慎重、几帳面過ぎないように望むものであります。
云わば、信用保証協会の保証業務は、基本的には安全運転よりも、積極運転が望ましく、ある程度のリスクは覚悟しながらも大胆に保証していく姿勢があっていいと思うものです。
信用保証協会の運営も、保証料等の収入で成り立っていることから、一定額の保証料収入が確保される必要があります。その保証料を、前向きの姿勢で審査し確保していく、山口県の信用保証協会は、そうあってほしいと願っています。
県は、制度融資の運用において、代位弁済の非保険分への損失補償において、保証料率低減のための補助において、そして役員理事は県知事が任命し、会長はその理事のうちから互選されますので人事において県信用保証協会の在り方に深くかかわっています。
こうしたことから、信用保証協会は、当然に県の意向を重視するものと思われます。つきましては、信用保証協会が、県下の中小企業を育て、支え、伸ばす方向で、これまで以上に前向きに、大胆に信用保証業務を遂行していくよう、県が指導性を発揮されることを要望して、今回の一般質問を終わります。

【回答】◎商工労働部長(阿野徹生君)

中小企業の経営支援についての二点のお尋ねにお答えします。
損失補償についてです。
損失補償は、制度融資が民間金融機関等の補完的役割を担うという観点から特に必要とされる資金で、信用リスクが高いものについて、信用保証協会が負担する代位弁済額の一部を補填することにより、信用保証協会に積極的な保証対応を促し、中小企業の金融の円滑化を図ることを目的としております。
こうした目的に沿って、政策性や信用リスクを考慮し、現在、経営安定資金を初めとする四つの資金に損失補償を設定しているところです。
損失補償の拡充につきましては、融資実行の円滑化を図る上では効果的であるものの、一方、当該資金が代位弁済となった場合には、損失の一部を県費で補填することになります。
したがいまして、お尋ねの創業応援資金や海外ビジネス展開資金等への損失補償の設定については、このような考え方のもと、金融情勢や中小企業を取り巻く環境の変化、企業ニーズに応じて、制度の見直しを行っていく中で、今後慎重に検討したいと考えております。

平成27年9月定例県議会【防災力の強化】(1)避難力の向上

【質問】防災力の強化

「観測史上初めて」、「記録的な」「経験したことのない」、こういった言葉で形容される大雨災害が、近年頻発しております。確かに、近年の雨の降り方は明らかに変化していて、時間雨量50mm以上の短時間強雨の発生件数が、30年前の1.4倍に増加し、日降水量100mm以上の日数も増加しております。
今年も、先般9月9日から11日にかけて関東、東北一帯に降った大雨は、48時間雨量が11カ所で観測史上最多を更新しており、鬼怒川の堤防決壊により甚大な水害に見舞われた常総市をはじめ各地において浸水被害が発生し、8人の方が犠牲となられました。謹んで犠牲となられた方々に哀悼の意を表し、被災された皆様にお見舞い申し上げます。
気象庁異常気象分析検討会会長の木本昌秀・東京大学教授は、こうした事象について、「今後温暖化が進むと、海面水温が上がって大気への水蒸気の供給量が増え、豪雨の頻度が増加するだろう。災害が起きたことがない場所でも発生する可能性が高まり、誰もが十分な対策を求められる。」と述べています。
また、日本自然災害学会会長や災害情報学会会長を歴任する一方、内閣府や全国の都道府県、市町村の防災・減災に関する委員等を200以上歴任するなど、我が国における災害分野の研究者として著名であり、防災・減災対策の権威として評価が高い河田恵昭(よしあき)関西大学社会安全学部教授は、近年発生する自然災害が、これまでとステージが変わっている、いろいろなところで新しいステージに入っていると指摘し、そうした認識の上で、それに見合った防災対応を新たに考えていかなければならないと訴えています。
国土交通省が、今年1月に公表した「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」は、正しくそのような認識を踏まえてのものでありまして、そこに示されている新たな防災・減災についての考え方や施策の方向、取り組むべき課題等は、今後、都道府県や各市町村の防災対策に反映されていくべき内容のものであると思われます。
そこで今回は、新しいステージの自然災害に対する防災力の強化という観点から、国土交通省が新たな防災・減災の政策文書としてまとめた公表文書の内容を私なりに整理し、その考えを踏まえて、本県における防災力強化に向けての取り組みについて、数点お伺いいたします。尚、以降は「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」の文書を、略称で「新ステージ」と述べることに致します。

【質問】(1)避難力の向上
ではその1、避難力の向上について、先ずお伺いいたします。避難力は言う
までもなく住民の避難力のことであります。
「新ステージ」は、新たなステージの自然災害に対応する対策の基本的な枠組みと目標を、明確に示しています。その要旨は、
第一、「比較的発生頻度の高い降雨等」に対しては、施設によって防御することを基本とする。
第二、それを超えるような最大クラスの降雨等に対しては、住民、企業をはじめとする社会の各主体が、「施設では守りきれない」との危機感を共有し、それぞれに備え、また協働して災害に立ち向かう社会を構築していく。
第三、その際には、ある程度の被害が発生しても、「少なくとも命を守り、社会経済に対して壊滅的な被害が発生しない」ことを目標とする。
ということであります。
滅多に来ることはないが、しかし、いつでも、どこでも起こり得る最大クラスの自然災害への対応方針としては、妥当な方向であると思われます。
「新ステージ」は、そのような基本的な防災・減災対策の枠組みを示したう
えで、最大クラスの自然災害から「命を守る」という目標を達成するためには、
住民の避難力の向上が不可欠であることを強調しています。
新しいステージの自然災害から住民の命を守るためには、今後も避難勧告等の
発令が適切に行われるよう対策を講じていくことは大事なことですが、これからは避難勧告等では対応できない場合も視野に入れ、住民一人一人が自然災害に対する「心構え」と「知識」を備え、いざという時には、避難勧告等だけではなく降雨量や河川水位等の状況情報を基に、自ら考え適切に避難行動ができるようにする、そういう意味で住民の避難力の向上が重要と思われるからです。
そこでお尋ねです。新たなステージの自然災害から住民の命を守る防災・減災
の対策においては、住民の避難力の向上が不可欠であり、そのために、(1)住民への防災知識の普及、(2)幼少期からの防災教育の充実、(3)住民の主体的な避難行動に資する適切な災害情報の提供、等の施策を一層充実し推進する必要があると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

【回答】◎知事(村岡嗣政君)

合志議員の御質問のうち、私からは、避難力の向上に関する住民への防災知識の普及と、適切な災害情報の提供についてのお尋ねにお答えします。
平成二十五年七月二十八日に、本県北部に甚大な被害をもたらした大雨は、気象庁がこれまでに経験したことのないような大雨と形容し、その後も同様の大雨等による大規模な災害が、全国各地で相次いで発生しています。
私は、こうした災害は、いつでもどこでも起こり得るとの認識のもと、チャレンジプランに災害に強い県づくりを掲げ、災害対応力や地域防災力の充実強化など、ハード・ソフト両面から、防災・減災対策に取り組んでいるところです。
お示しの新しいステージの災害から被害を最小限に抑えるためには、行政による公助や、地域で助け合う共助に加え、防災の基本となる自助による取り組みを、一層高めていくことが必要であると考えています。
とりわけ、実際の災害発生時には、住民一人一人が命を守ることを基本として、みずからの判断で主体的な避難行動をとることが重要でありまして、そのためには、防災知識の普及と防災情報の適切な提供が重要であると考えています。
まず、防災知識の普及に当たっては、災害時の心構えや具体的な行動を理解いただくため、防災ガイドブックの作成・配布や、住民参加型の防災訓練等を実施しているところです。
また、自宅周辺など身近な地域における災害リスク等の理解を促進するため、土砂災害特別警戒区域の指定完了を一年前倒しをするとともに、今年度、過去に発生した災害や、その教訓を取りまとめた事例集を作成をして、さまざまな機会を通じて、広く県民に周知することとしています。
次に、防災情報の提供に当たりましては、市町と一体となって、防災行政無線や緊急速報メール等、多様な伝達手段の確保に努めているところでありますが、より迅速かつ的確に防災情報を提供できるよう、平成二十八年度中の運用開始を目指しまして、テレビ、ラジオ等の多様なメディアを通じて一斉配信するLアラートの導入を進めてまいります。
私は、今後、起こり得る大規模災害から県民の命を守るため、市町や関係機関と緊密に連携しながら、安全な避難に向けた対策のさらなる充実強化に、全力で取り組んでまいります。
その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。

2015年9月30日

平成27年9月定例県議会【防災力の強化】(2) 河川観測体制の強化

【質問】(2) 河川観測体制の強化
次に、河川観測体制の強化について、2点お伺いいたします。
第一点は、水位局の新たな設置についてであります。
先般の関東・東北大雨災害では、河川の氾濫による浸水被害が広範囲に及びました。なかでも宮城県では、県の管理分で11河川23カ所において決壊がありましたが、全ては規模の小さい支流で、氾濫注意水位が設定されていたのは、1河川だけでした。
山口県では、平成25年7月の大雨災害で、田万川の支流である原中川が氾濫して特別養護老人ホーム阿北苑が、床上浸水被害に見舞われたことは、今なお記憶に新しいところでありますが、この原中川には、その時点では河川を観測・監視する水位局は設置されていませんでした。原中川には、その後水位局が設置されましたが、宮城県の例でも明らかなように、なかなか河川の支流にまでは、氾濫監視のための水位局の設置が行き届いていないと云うのが本県を含めての現状ではないでしょうか。
しかし、河川の支流といえども周辺に住宅が密集していたり、事業所や様々な施設等があり、河川氾濫の場合は、相当な被害が生ずるおそれがあるところがあります。例えば、山口市では、吉敷川がそうです。吉敷川は椹野川の支流ですが、河床が高く、護岸に近接して住宅等が立地している土地は、低地になっているところが多くあり、護岸の越水、決壊等が起った場合は、広範囲に浸水被害が生ずることが予想されます。しかし、現時点では吉敷川に水位局の設置はありません。こうした例は、県下全域において見られることだと思います。
そこでお尋ねです。新しいステージの大雨災害への対応として、県管理河川への水位局の設置が、現状でいいのかを点検する必要があると考えます。そして、その上で河川水系の本流、支流を問わず必要性が認められるところには、新たな水位局の設置を行なうべきだと考えますがご所見をお伺いいたします。
第二点は、河川の危険個所の情報開示についてであります。
ご案内のように、水位局は、河川が水防団等の出動の目安となる氾濫注意水位、市町長の避難勧告の発令判断の目安となる氾濫危険水位等の基準水位に到達しているかどうかを計測します。そうした水位局による水位計測の情報は、関係市町の防災担当部局が大雨災害に対応するためのベースとなる状況情報であると同時に、パソコン等で関係住民も見ることができるよう公表されますので、住民が自主的に避難行動を取るための状況情報ともなるものであります。
ただそこで問題なのは、ひとつの水位局が監視する河川の担当流域は、その区間が5キロ程のところもあれば10数キロのところもあり、水位局の観測に基づきその流域が例えば氾濫危険水位に達したと公表されたとしても、その流域の何処の地点が氾濫危険箇所なのかということは明らかにされないことであります。
私も、最近になって知ったのですが、水位局が設置されている場所は、河川の水位の観測がしやすい場所であって、氾濫危険個所ではないのであります。ある水位局が監視を担当する流域区間内において、氾濫の危険性が高いと見做される箇所は、複数個所にわたって別途調査されています。そして、その中で増水した場合、一番氾濫の危険性が高いと見做される個所を危険個所として、そこの水位がどの基準水位に達しているかを、水位局があるところの水位により推測すると云う仕組みになっているのであります。
そこでお尋ねです。新しいステージの災害対応の重要なポイントの一つは、住民が自主的に適切な避難行動を取ることができるよう必要な情報を的確に提供することであります。新しいステージの災害から住民の命を守ると云う目標を達成するためには、行政機関の災害対応だけでは限界があるからです。従って、これからは災害に関する情報は、行政機関に対しても住民に対しても、基本的に同等に開示され提供されるべきものと考えます。私はそういう観点から、水位局が監視する河川の危険個所は、これまで行政機関の防災担当者に知らされてきましたが、その情報を住民にも開示するようにすべきだと考えます。つきましては、このことにつきご所見をお伺いいたします。
尚、その際は、危険個所という呼称を、例えば「警報基準箇所」とか、近隣住民の方々に余り不安感を抱かせないような表現にする等のことも、併せ検討されたらいいと思いますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】◎土木建築部長(前田陽一君)

河川観測体制の強化についてのお尋ねのうち、まず、新たな水位局の設置についてです。
本県では、洪水により相当な被害が生ずるおそれがある河川について、水防警報河川の指定を行った上で水位局を設置し、市町や住民等に河川の水位情報をリアルタイムに提供しているところです。
こうした中、平成二十五年七月の豪雨により、水位局が設置されていない田万川の支川、原中川において、甚大な被害が発生したことから、支川などの中小河川についても、河川の監視体制の強化を図ることとし、県内全市町を対象に水防警報河川の追加指定に関する調査を実施しました。
この調査結果に基づき関係市と協議を行い、近年の浸水実績や背後の土地利用等を踏まえ、当時指定していた六十一河川に加えて、新たに原中川や吉敷川などの八河川を水防警報河川に指定し、水位局を設置することとしました。
このうち、原中川と阿武川支川、玉江川については、既に水防警報河川の指定と水位局の設置が終わっており、残りの六河川についても計画的に水防警報河川の指定等を進めてまいります。
次に、河川の危険箇所の情報開示についてです。
本年八月、国において公表された、水災害分野における気候変動適応策のあり方によると、自然災害から命を守るためには、住民一人一人が自然災害に対する心構えと知識を備え、情報をもとに、みずから考え適切に行動できるようにする取り組みを推進すべきであるとされています。
県としましても、お示しのように、新しいステージの災害に対応するためには、住民が自主的に適切な避難行動をとることができるよう、必要な情報を的確に提供することが重要であると考えています。
お尋ねの河川の危険箇所の情報開示等については、情報開示により、付近の住民が、河川水位をよりみずからにかかわる情報として認識し、迅速に避難することが可能となりますが、一方で、お示しのように、危険箇所という呼称が住民に過度な不安を与えたり、逆に、危険箇所から離れた地域の住民が、危険性がないという固定観念を持ち、避難がおくれたりするおそれがあることから、今後、国や市町と協議しながら慎重に検討してまいります。

2015年9月30日

平成27年9月定例県議会【防災力の強化】(3)消防力の強化

【質問】(3)消防力の強化
質問の三は、消防力の強化についてであります。
大規模化、激甚化する新しいステージの自然災害から、人命・財産を守るために、そのことに対応した消防力の強化を実現していくことは重要な政策課題であります。
現在、消防力の強化に向けた動きは大きく三つあります。第一は、消防の広域化であります。第二は、消防救急無線のデジタル化の推進です。第三は、消防指令業務の共同運用であります。
第一の消防の広域化は、消防力の強化に向けた施策の中心的な柱でありまして、平成6年からその推進が図られてきています。特に平成18年には、消防組織法が改正され、都道府県が消防広域化の推進計画の策定に取り組むことを努力義務として定める等、都道府県の関与が強められました。そして、平成24年度までを目途に広域化の実現を図ろうとしましたが、平成18年の消防組織法改正後、今日までに広域化が実現したのは、全国で39地域に留まり、なかなか進展していないと云うのが現状であります。
そうした状況を踏まえて国は、平成25年4月には、消防の広域化に関する基本指針を一部改正し、消防の広域化の推進期限を平成30年4月1日まで延長したところであります。そして、本年4月には、消防庁次長通知を発し、消防の広域化推進期限(平成30年4月1日)に向け、広域化の推進に一層取り組むよう都道府県知事に要請し、都道府県内の市町村の消防の現状及び将来の見通しをあらためて再検証することを求めました。
そこでお尋ねです。山口県は、平成20年5月、4消防本部からスタートし、将来的には1消防本部の枠組みを目指すこととした「山口県消防広域化推進計画」を策定しましたが、その後の本県における消防広域化の進捗状況と、今後の見通しについて先ずお伺いいたします。次に、推進計画策定当初、将来的には1消防本部の枠組みを目指すとした本県の消防広域化の方針に変わりはないのか、ご所見をお伺いいたします。
第二の、消防救急無線のデジタル化については、電波法関係の基準改正により平成28年5月までに、全てアナログ方式からデジタル方式に移行すること
が求められています。
つきましては、本県における消防救急無線のデジタル化の推進状況及び今後の見通しをお伺いたしますとともに、消防救急無線のデジタル化により消防力がどう強化されるのか、併せお伺いいたします。
第三の、消防指令業務の共同運用は、複数の消防本部が、共同で1つの指令センターを設置し、共同して消防指令業務を運用するものです。
本県では、下関市と美祢市が平成25年10月10日に、両市による消防指令業務の共同運用を開始しております。私は、先月3日、下関市の新しい消防庁舎内に開設された下関市・美祢市消防指令センターを訪ね、消防指令業務の共同運用のメリットや課題等につき、関係者の方々から説明を受けてまいりました。
また、8月31日には、千葉県庁に消防課を訪ねて、千葉県における消防指令業務の共同運用実現に至る経緯を中心に説明を受け、その後「ちば消防共同指令センター」を視察してきました。
千葉県は、県を北東部・南部ブロックと北西部ブロックの二つに分け、平成25年度には、北東部・南部ブロックの20消防本部の指令業務を共同運用する「ちば消防共同指令センター」を千葉市に、北西部ブロックの6消防本部の指令業務を共同運用する「千葉北西部消防指令センター」を、松戸市に開設しております。北西部ブロックは、5消防本部が、まだ共同運用に参加していませんが、平成32年度までには参加する予定で、そうなりますと千葉県の人口は約600万人ですが、人口約300万人の二つのブロックにそれぞれ設けられた消防共同指令センター、即ち二つの消防共同指令センターで、県下全域の消防指令業務がカバーされることになります。
千葉県は、消防指令業務の共同運用のメリットを4つあげています。
その1は、単独で整備した場合に比較し、高機能化できる上、経費の節減が図れる。
その2は、専従の通信員の確保や通信員の節減が期待でき、効率的である。
その3は、大規模広域災害時において、情報の共有化が行なわれることで、規模の拡大や不測の事態に迅速に対応でき、また、応援体制がスムーズにできる。
その4は、119番の受信能力向上、効率的部隊運用確立による消防力強化が図れる。以上の、4つであります。
その1に云う、高機能化とは、119番通報を受信した場合、位置情報通知
システムにより、発信者の位置を瞬時に特定できるようになり、出動に要する時間の短縮が図れる、また、車両動態・位置情報管理システムによる消防部隊の集中管理が可能となる等、消防機能が高度化され強化されることであります。
それから、経費の節減が図れると云うのは、「ちば消防共同指令センタ―」の場合は、共同運用に参加している20の消防本部がそれぞれ単独で指令施設の整備を行えば、合算で約61億2千万円要したのが、共同の指令センタ―にしたことにより約45億8千万円で済み、約22億9千万円の経費節減が図れた等のことを指しています。
消防指令業務の共同運用のメリットについては、下関市・美祢市消防指令センターにおいても、ほぼ同様の内容の説明を受けたところであります。
課題としてあるのは、特に下関市・美祢市消防指令センターで伺ったことですが、指令センターの管制員が、土地勘のないところからの119番通報を受けた場合、向かうべき場所の正確な確認に時間を要するケースがあると云うことでした。119番の通報を受けて、現場に到着するまでの平均時間は、現時点では「ちばの共同指令センター」も、下関・美祢の指令センターも短縮するまでには至っていないと云うのが実情のようで、共同運用のシステムに習熟していけば、短縮されるようになるのでしょうが、その点は、今後の課題のようであります。
確かに、そのような克服すべき課題があるとしても、私は、消防指令業務の共同運用は、トータルとして消防力の強化が図られることになることから、是非とも全県的に推進すべき政策課題であると考えるものです。また、県も市町も財政運営が厳しい中で、将来を見通して必要な消防施設の整備を効率的に行っていくことと併せ、消防職員の効率的な運用により消防職員の増員を抑制しつつ消防力の強化を図ることが求められております。
広域的な視点から、消防通信指令施設の効率的な整備を図り、指令業務に専従する消防職員を節減して、その分を現場実働の消防部隊に充当することができる消防指令業務の共同運用は、そうした時代の要請に応える施策であります。
私は、消防指令業務の共同運用は、消防の広域化そのものではありませんが、消防活動の中枢をなす指令業務の広域化が図られることから、広い意味での消防の広域化であると見做すものです。以前、県が4消防本部体制からスタートして将来的には1消防本部の枠組みを目指す方向で、本県における消防の広域化を推進しようとした時、反対された市長さん達も、消防の通信指令を県域一つにすると云うことには賛成だとの感触を私は得ています。
消防の通信指令を県域一つにすると云うことは、本県の場合は、現在の12消防本部体制はそのままにして、指令業務を1つの指令センターで共同運用するということであります。
本来ならば、この取り組みを県が指導的役割を発揮して、県の消防長会の協力と県下の市町長の理解を得て、千葉県のように消防救急無線のデジタル化に合わせて実現を図ればよかったと思います。県は、国からの指導もあり、そのことを県消防長会に投げかけはしたものの、消防は市町の事業であり、市町の自主性を尊重すべきということで、積極的な推進を図らなかった感があります。
千葉県では、消防救急無線のデジタル化は、県域一体整備を図り、並行して消防指令業務の共同運用を行なう指令センターを整備しましたが、本県では、12消防本部が、それぞれ独自に消防救急無線のデジタル化を行ない、消防指令業務の共同運用は、下関市・美祢市間で実現したにとどまっています。
これまでの経緯はそういうことでありますが、本県における消防指令業務の共同運用を、全県的に実現しようとすれば、現実的対応としては、消防本部の通信指令台の更新が、概ね10年で行われることから、各消防本部の理解を得て、更新計画の調整に協力をいただき、今後10年以内を目途に取り組んでいくことが考えられます。
今後10年以内と言っても、指令業務の共同運用を全県的に実現しようとすれば、先ず、そのことについて県下の市町の理解を得なければなりませんし、その上で、県全域一つの共同運用とするのか、県域をいくつかのブロックに分けて共同運用を行うのか等の基本的な枠組みについて合意を得なければなりません。そういうことには、当然数年は要すると思われますので、私は、今から取り組みを開始しても、決して早すぎることはないと考えるものです。特に、全県的な方針は早く確定して、県下全域の消防関係者が、その方針を共有するようになることが望ましいと考えます。
加えて指摘しておきたいことは、消防指令業務の共同運用を全県的に実現していくためには、県が積極的に推進し、指導・調整の役割をしっかり果たしていくことが求められということであります。
以上、申し上げましたことを踏まえお尋ねいたします。
県は、消防指令業務の共同運用を、県全域で今後10年以内を目途に実現するとの方針を確定し、取り組みを開始すべきであると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

【回答】◎総務部長(渡邉繁樹君)

消防力の強化についての三点の御質問にお答えします。
まず、消防の広域化についてですが、県としても、消防力の強化を図る上で、消防の広域化は最も重要な課題であると認識しています。
平成二十年五月には、県内四消防本部からスタートし、将来的に一本部を目指す山口県消防広域化推進計画を策定しましたが、平成二十三年六月に、市長会の意見等を踏まえ、より現実的な組み合わせとして、宇部・山陽小野田地区と周南地区の二地域において広域化を推進する十本部案に修正し、これまで取り組んできたところです。
そのうち、宇部・山陽小野田地区では、平成二十四年四月に広域化が実現していますが、周南地区では引き続き、関係市町において、広域化に向けた研究・協議に努めていくこととされています。
消防広域化の効果に鑑みると、御指摘の全県一本部体制が理想ではありますが、これまでの経緯や現状等を踏まえると、現時点では実現が極めて困難であり、現計画の達成を県の方針として、関係市町に対し、強く働きかけてまいります。
次に、消防救急無線のデジタル化についてですが、平成十八年度に県、市長会等からなる検討委員会で策定した基本計画に即して、整備が進められてきたところであり、現在、七本部において運用が開始され、残る五本部も、移行期限である来年五月までに完了する予定です。
消防救急無線のデジタル化により、大容量のデータ伝達が可能となることから、例えば、消防・救急車両の位置や画像情報を活用した車両の効果的運用、支援情報の高度化や情報伝達の確実性が図られるなど、さらに消防力が強化されると考えています。
次に、消防指令業務の共同運用についてですが、お示しのとおり、指令業務の共同運用は、消防職員の効率的な運用や、通信設備の高機能化、消防本部相互の応援の円滑化などのメリットも大きく、消防力の強化につながります。
このため、県では、消防の広域化を推進する一方、広域化が困難な場合の選択肢として、デジタル化に伴う指令台の更新にあわせた導入について、市町に働きかけてきたところです。
一方、共同運用には、消防本部相互をつなぐ新たな中継局に要する多大な経費や、派遣元以外の管轄区域にふなれであるなどの課題もあり、お示しのとおり、下関市消防局と美祢市消防本部の一地域での導入にとどまっています。
県としては、こうした現状や、指令センターの更新時期にも配慮しつつ、市町及び消防本部に対し、先行事例のメリットやその課題もお示ししながら、指令業務の共同運用が進むよう、引き続き粘り強く働きかけていくこととしています。
今後とも、県民の安心・安全を確保し、昨今の大規模化・多様化する災害に的確に対応していくため、消防力の強化に努めてまいります。

2015年9月30日

平成27年6月定例県議会【歴史教育について】

【質問】歴史教育について

私たち日本人は、我が国の過去の歴史、特に日韓併合や日中戦争などの近現代史にどのように向き合っていくべきなのでしょうか。ハッキリしていることは、向き合うことを避けるのではなく、真摯に向き合い教訓をくみ取っていかなければならないと云うことであります。
歴史に真摯に向き合うと言うことは、歴史を正しく学ぶということと同義であります。そこで、歴史を学ぶことの意味について、少し考察してみたいと思います。
歴史は、よく鏡にたとえられます。私たちが、鏡を通して自分の姿を見るように、現在の時代の姿を、私たちは過去の歴史の中に見出し、そこに映し出して正しく認識し、理解することが出来るのであります。そういう意味で歴史は、時代を映し出す優れた鏡であると云えます。「大鏡」「増鏡」などの我が国中世の歴史物語本の書名は、そのような考えに由来するものだと思われます。
私たちは、鏡に映った我が姿を見て正すことが出来ます。同様に、私たちは、歴史を通して今日の時代の姿を見、私たちが生きている時代を正し、将来に向かってよりよくしていくための具体的な考慮が出来るのであります。従って、歴史を学ぶ意味は、私たちが生きている時代を正しく認識し、よりよくしていくためであると言うことが出来ると思います。
歴史を学ぶ上で、最も大事なことは言うまでもなく、歴史上の出来事、歴史的事実を、可能な限り正しく知るということであります。ただ、ここで問題となるのは、「歴史的事実とは、何か。」ということです。
この問いを考える上で確認しておかなければならないことは、私たちは歴史的事実それ自体を知ることは出来ない、歴史的事実と思われているものは、歴史的事実の痕跡を通して想起された事実であるということであります。歴史的事実それ自体は、既に過ぎ去って過去のものとなり存在しません。ただ、歴史的事実の痕跡は、その関係者の記憶、その事実に関する記録、史料、文献、遺品、遺跡等々として残っており、それらを通して私たちは、歴史的事実が、どういうものであったかを想起するのであります。よって、歴史的事実というものは、その想起の根拠となる史料や文献等により、またその史料や文献の評価により異なることになります。そのため、ひとつの歴史上の出来事に対して複数の異なった見方が歴史的事実として主張されると云う事態が、往々にして生じます。
では、そういう場合、どの見方を歴史的事実として受け入れるべきなのでしょうか。参考になるのは、歴史哲学に関し深い考察をしている野家啓一氏の見解です。野家氏は、「物語としての歴史」と題する論考の中で、「ある物語文が真実であるか虚構であるかは、それが『証拠』に基いた『主張可能性』を有し、歴史叙述のネットワークの中に『整合的に』組み入れられるか否かにかかっている。」と、述べています。
この見解を私なりに解釈すれば、ある歴史上の出来事についての叙述が、歴史的事実と見做されていいか否かは、先ず第一に、叙述に用いられている史料や文献等の証拠により、歴史的事実であることを主張できる可能性が保証されているかどうか、第二に、その叙述の内容が、関連する他の諸々の歴史的出来事と整合しているかどうか、によって判別されると云うことであります。歴史上の事実と見做し得る基準についての見事な洞察が、ここに示されているのではないでしょうか。
この基準に則る時、歴史的事実と見做されている見方も、新たな史料等の発見により、事実であることを主張する可能性や整合性を失った場合は、その見方は修正を迫られることになります。そういう意味で、歴史的事実は、決して確定したものがあるのではなく、常に見直される過程の中に在るのであります。そうした留保の上で、今日の知見の中で最も真実の度合いが高いと思われる見方を歴史的事実と見做し、歴史の中に組み込み、歴史として学んでいくことが、日本の近現代史を含め歴史に真摯に向き合うことになると考えます。
以上、歴史を学ぶことに関連して所見を申し述べましたが、以下そのことを踏まえ、学校における歴史教育をより良いものにしていくためにということで、二点お伺いいたします。
言うまでもなく歴史教育は、良い歴史教科書と良い教師を必要とします。このことに県教育委員会が直接かかわることが出来るのは、高校の歴史教科書の採択と、中学校・高校で日本史を教える教員採用についてであります。中学校の場合は、正確には社会科の先生が、地理・公民と併せて日本史を中心とした歴史を教えることになりますので、社会科の教員採用についてということになります。
従ってお尋ねの第一点は、日本史の教科書の採択についてであります。
「1937(昭和12)年12月、日本軍は国民政府の首都南京を占領した。その前後数週間のあいだに、日本軍は南京市内外で捕虜・投降者をはじめ女性や子どもを含む中国人約20万人を殺害し、略奪・放火や女性への暴行をおこなった。」
これは、県内の4つの高校で使われている日本史A(日本史近現代)の教科書に書かれている南京事件についての記述で、出版社は実教出版です。私は、県内高校で使われている全ての日本史の教科書を見ましたが、表現に程度の差はあるものの、いずれの教科書にもほぼ同趣旨の記述があることを確認しました。
では、中学校の歴史の教科書は、どうなのでしょうか。南京事件については、山口市の中学校で使われている帝国書院の「中学生の歴史」では、「日本軍は中国南部からも進攻し、上海や当時首都であった南京を占領しました。南京では、兵士だけではなく、女性や子どもをふくむ多くの中国人を殺害し、諸外国から『日本軍の蛮行』と避難されました(南京虐殺事件)。しかし、このことは戦争が終わるまで、日本国民には知らされませんでした。」と、記述されています。
もう一つ紹介しますと、岩国市の中学校で使われている育鵬社の「新しい日本の歴史」では、「日本軍は12月に首都・南京を占領しましたが、蒋介石は奥地の重慶に首都を移し、徹底抗戦を続けたため、長期戦に突入しました。」と本文には書かれており、南京を占領のところに注がありまして、その注では、「この時日本軍によって、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)。この事件の犠牲者数などの実態については、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている。」と記されています。
私見を申上げれば、以上紹介した中で、南京事件に関しての記述で最も穏当だと思われるのは、育鵬社の教科書の記述であります。一方、ひどすぎる、なぜこういう記述が許されているのかと思われるのは、実教出版の教科書です。
日中戦争で南京占領の時、日本軍により多数の中国軍民が殺害されたことは厳然たる事実であり、これを否定することは出来ません。ただ、そうであるが故に、また、そういう事件を再び繰り返さないために、その事件の真実を明らかにしていくことは必要であります。
私は先ほど、「歴史的事実は常に見直される過程に在る。私たちは、最新の知見で最も真実の度合いが高いと思われる見方を歴史的事実と見做して学んでいくことが、真摯に歴史に向き合うことになる。」と申し上げました。ところが、実教出版の日本史教科書の南京事件に関する記述には、そういう姿勢が見られません。
この教科書では、南京事件において日本軍に殺害された数を20万人と書いていますが、これは東京裁判で示された数です。中国政府の公式見解は30万人で、この数は南京虐殺記念館に表示されていますが、実教出版の教科書は、その数を南京事件についての(注)で紹介しています。またこの(注)では、日本国内では、「10数万人」など他の説があるとしているのも、実際と違っています。
我が国で戦後、南京事件の事実発掘ということで最初に本格的に取り組まれた事業は、旧陸士卒業生などで組織する財団法人偕行社の機関紙『偕行』が、昭和59年4月号から1年かけて連載した「証言による南京戦史」シリーズであります。このシリーズは、参戦者の証言と戦闘詳報などの記録類を大規模に発掘整理したものですが、総括部分で、虐殺数を「3千乃至6千」とする推定と、「1万5千」とする概算を両論併記する形で示し、「中国人民に深く詫びるしかない。」と締めくくっています。戦史研究で著名な秦郁彦氏は、その著「南京事件」で、被害者数約4万人と推計しています。
実教出版の教科書が問題なのは、我が国における南京事件についての、このような実証的な取り組みに目を向けず、中国政府の公式見解や東京裁判の判決が示すものを、うのみにするかのごとき記述になっていることです。さらにこの教科書が、中島16師団長日記を掲載しているのも問題です。この日記に書かれている「捕虜ハセヌ方針ナレバ」の文言は、一般的には捕虜殺害の方針を示したものと解されていますが、実際、この16師団で捕虜監視の任務を担った兵士の証言には、「捕虜は逃がしてもよい。」というようなことであったので、夜間の監視を手薄にしたら捕虜の半数が逃げたという事例もあり、研究者の間でも解釈が分かれています。それを、日本軍の大量虐殺を裏付ける証拠として教科書に乗せるのは、誠に不適切であります。
では、この実教出版の教科書は、従軍慰安婦についてはどう書いているのでしょうか。その部分を紹介致しますと、「植民地や占領地では、日本軍も設置や監理に関与した慰安所に、朝鮮人を中心に、中国人・インドネシア人・フィリッピン人・オランダ人などの多数の女性を、日本軍兵士の性の相手である慰安婦として動員した。」と書かれています。
慰安婦問題については、このことに真摯に向き合い、日本と韓国が正確な理解に基づき和解に至るようにとの思いで書かれた朴裕河(パクユハ)著「帝国の慰安婦」という本があります。著者の朴女史は、韓国・世宗大学校日本文学科教授ですが、日本に留学して慶応義塾大学文学部を卒業後、早稲田大学大学院で日本近代文学を専攻し博士号を取得しております。
この書は、韓国では発行禁止処分を受けていますが、著者は、何よりも先ず元慰安婦たちに寄り添い、慰安婦問題の真の解決のためには、事実を事実として認め、日本と韓国が共通の理解に立つことが必要との思いで筆を取ったものだと思われます。私は、彼女の勇気ある発言に心から敬意を表するものです。そして、彼女にとっては不本意で迷惑かもしれませんが、私たちが慰安婦問題を正確に理解する上において、知っておくべきと思われるところを数点、この書から紹介したいと思います。以下、「帝国の慰安婦」からの引用です。

後日の「慰安婦」の前身は「からゆきさん」、つまり日本人女性たちである。

慰安婦証言集を読む限り、「日本軍に強制連行」されたと話している人たちはむしろ少数である。証言者の多くは、むしろこのような誘惑に応じて家を離れたと話している。

「慰安婦」を必要としたのは間違いなく日本という国家だった。しかし、そのような需要に応えて女たちを誘惑や甘言などの手段までをも使って「連れていった」のはほとんどの場合、中間業者だった。

「慰安婦」募集には同じ村の朝鮮人も加担していた。
挺身隊や慰安婦の動員に朝鮮人が深く介入したことは長い間看過されてきた。そしてそのことが慰安婦問題を混乱に陥れた原因の一つとなったのである。

慰安婦問題の根底には、売買春を許可し管理した公娼制度がある。

朝鮮人慰安婦をめぐる複雑な構造に向き合わずに、慰安所をめぐる責任の主体を日本軍や日本国家だけにして単純化したことは、逆にこの問題への理解を妨害し、結果的に解決を難しくした。

以上、「帝国の慰安婦」から引用に加えて、秦郁彦氏の指摘を一つ紹介しておきたいと思います。秦氏は、慰安婦でもっとも多かったのは、朝鮮人女性ではなく日本人女性であったことを、その著「慰安婦と戦場の性」で明らかにしております。彼は、残されている資料に基づき慰安婦の民族別構成についての見解を示していて、慰安婦全体を10とすれば、4が内地日本人であり、3が現地人、2が朝鮮人、1がその他ということで、日本人と朝鮮人の慰安婦の割合を2対1と推定しております。

以上の指摘からだけでも明らかなことは、従軍慰安婦のことを正確に理解し、伝える困難さです。そのことを考慮せず、従軍慰安婦に関して日本軍や日本国家の加害性に焦点を当てて単純化した記述が、高校生用のほとんどの日本史教科書に書かれていることに、私は疑問を感じています。
私は先般、上京して文部科学省の教科書担当の課を訪ねた際、従軍慰安婦については、朝鮮人を中心にと記述されている教科書が多いが、最も多いのは日本人慰安婦であったとする秦氏の指摘が事実とすれば、そうした記述は改められるべきではないかと申し上げたら、今の検定制度では「明確な誤り」ということでなければ訂正を求めることは困難という見解でした。
私は、我が国の日本史教科書の作成は、二つの制約のもとにあると見ております。その一は、日本史教科書を執筆する学者・教育者の思い込みです。日本史の教科書の執筆に携わる学者、教育者の中には、特に日本の近現代史においては、日本の加害の歴史を知らしめることが、日本が再び過ちを繰り返さないために必要と思い込んでいる人たちが多いように思われます。そういう思いで執筆された日本史教科書でも、現在の検定では歴史認識の問題には立ち入らないため、記述の内容が事実関係において明らかな誤りがない限り訂正は求められず、教科書として認められることになります。
その二は、近隣諸国条項です。これは、昭和57年の教科書検定で、中国への侵略を進出と書き改めさせたとの報道に、これは誤報だったのですが中国と韓国が抗議して外交問題となり、当時の政府が、事態の決着を図るために教科書の検定基準に新たに加えたものです。「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」との内容の近隣諸国条項が、検定基準に加えられたことにより、その後の日本史の教科書検定においては、訂正を求めた方がいいと思われる記述があっても、そのことで中国や韓国の反発が予想されると思われる場合は、訂正を求めることをしないと云う事態になっているのではないかと推察されます。
私が問題に思う、実教出版の日本史教科書における南京事件や従軍慰安婦についての記述が、日本軍や日本国家の加害性を強調する内容になっているのは、その一の理由からであり、それが検定で訂正を求められないのは、その二の理由からであると思われます。
現在の我が国の教科書制度では、学習指導要領に基づいて民間の出版社が著作・編集した図書を、文部科学省が検定し合格したものが教科書として使用されます。歴史教科書の場合、現在の検定基準では、繰り返しになりますが歴史観や歴史認識が適切かどうか等の評価はされず、記述の内容が事実関係において明らかな誤りがない限り訂正は求められません。従って、日本史の教科書の場合、様々なと言えば聞こえはいいですが、私からするとおかしなと思われるものも含めて様々な歴史観、歴史認識の図書が教科書として認められ、その中でどれを採択するかは地方に委ねられています。
日本史の場合、どういう教科書を良い教科書と見做すかは、色々な考えがあると思われますが、私は、日本の国の全体像について偏りのないイメージを描くための基礎的な知識が備わっており、公平な視点と国への愛情を持って書かれた教科書であることを望むものです。
そこでお尋ねです。高校における教科書の採択権は県教育委員会に在ることから、県教委は、特に高校の日本史教科書においては、様々な日本史教科書の中から、本県の高校にふさわしい教科書を採択して、使用されるように努めるべきだと考えます。つきましては、高校の日本史教科書の採択について県教育委員会はどのように取り組んでおられるのか、ご所見をお伺いいたします。
次にお尋ねの第二点は、日本史担当の教員採用についてということで、良い歴史教師の確保についてお伺いいたします。何をもって良い歴史教師と見做すかは、一概に断定できませんが、基本は教科書の場合と通ずることでありまして、事実を正しく知り追求する冷静な眼と、国への深い愛情がある教師が望ましいと思います。「愛のみ、よく真実を知る」という言葉があります。人が罪を犯した場合、なぜ罪を犯したかを知り、更生に導くのは、その人への愛であります。我が国の過去に罪を犯した歴史があるにしても、国への愛があって真実を知ることが出来てこそ、罪なき国への道筋が見えて来るのではないでしょうか。
先に述べたことですが、これまで、日本史の教育に携わってきた人たちには、特に近現代における日本の加害の歴史を伝えることが、過ちを繰り返さないために、また中国や韓国と仲良くやっていくために大事なことだとの思いを持つ人たちが多いようです。しかし、一歩進めて、帝国主義の時代、如何にして我が国の存立を図っていくかということで、苦悩し苦闘した日本の国の歩みへの理解を深め、どうすれば加害の歴史を歩まずに済んだのかということを問うていくことが必要であり、そういう姿勢は日本の国への愛から、自ずと生じて来るものではないでしょうか。
いずれにしても日本史の教師は、日本の国の歩みについて基礎的な知識があることは当然ですが、国への深い愛情があって日本史を教える教師であってほしいと望むものですが、県教委は、どういう方針に基づいて中学校の社会科、そして高校の日本史の教員を採用しておられるのか、お伺いいたします。

【回答】◎教育長(浅原司君)

歴史教育に関する二点のお尋ねにお答えします。
まず、日本史教科書の採択についてであります。
平和で民主的な国家・社会を形成する日本国民として必要な自覚と資質を養うためには、歴史上の出来事を史料や文献等により正しく認識する歴史教育が重要であり、各高校での日本史の授業においては、教科書とともに多様な史料を用いて歴史を考察し、みずからの考えをまとめる学習を計画的に実施し、歴史的な見方や考え方を身につけさせるよう努めているところです。
こうした授業を展開する上で、教科書は教科の主たる教材として重要な役割を果たしていることから、適正かつ公正な採択を行う必要があると考えております。
このため、県教委では、文部科学省の通知の趣旨に沿って定めた採択の基本方針に基づき、日本史の教科書についても、各学校の特色や生徒の実態等を踏まえながら、教育目標を達成する上で適切な教科書を年度ごとに採択しております。
具体的には、各学校に教科書の特徴をわかりやすくまとめた選定資料を示すとともに、校内に教科用図書検討委員会を設置し、静ひつな環境の中で、適正かつ公正な選定が行われるよう指導しているところです。
また、各学校が選定した教科書について、教育庁内の検討委員会において、それぞれの学校の教育目標や教育課程に即しているか、生徒の実態に応じているかなどの視点で厳正に審査した後、県教委が総合的に判断した上で採択を行っております。
お示しの南京事件や従軍慰安婦など、個々の歴史的事象についての具体的な取り上げ方や記述は教科書によって異なっているものの、いずれも文部科学省の検定基準に基づいて審査が行われており、教科書としての適正は確保できているものと考えております。
また、近現代史の学習においては、関連する歴史的史料も多いことから、教科書だけでなく、これらを補助教材として用いることにより、生徒自身が歴史的事象の背景や意味を多角的・多面的に考察し、公正に判断する能力を育成する授業を行っております。
県教委としては、今後とも適正かつ公正な教科書採択はもとより、多様な史料を用い、生徒自身が歴史的事象についてさまざまな立場から考察する力を養うことができるよう、歴史教育の充実に努めてまいります。
次に、中学校の社会科、高校の日本史の教員の採用についてであります。
教員は、中学校の社会科、高校の日本史の教員も含め、教育基本法に掲げられた幅広い知識と教養を身につけ、真理を求める態度を養うこと、伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する態度を養うことなどの教育の目標を達成するよう、児童生徒を指導する必要があります。
これらの目標を踏まえ、山口県では、教員に求められ期待される資質能力を、幅広い教養と専門的知識・技能を持っている人、強い使命感と倫理観を持ち続けることができる人など、山口県が求める教師像として具体的に示し、本県の教育を担う人材を求めているところです。
教員採用試験においては、全ての校種、教科、科目等において、教科の専門試験で学習指導に必要な専門的知識・理解及び技能について問うとともに、集団面接や個人面接等を実施し、教育的愛情、教育に対する情熱・意欲などを評価の視点として、人物を重視した選考を行っております。
今後とも、山口県の教育目標である「未来を拓く たくましい「やまぐちっ子」の育成」に向け、山口県が求める教師像に沿った教員の採用に努めてまいります。

2015年7月1日

平成27年2月定例県議会【地域医療について】(1)医療連携について

【質問】地域医療について

医療は、これから統合の時代に向かうと言われています。ここで云う医療の統合は、二つのことを意味しています。ひとつは、医療機関の統合です。もう一つは、医療と介護、福祉の統合です。医療機関の統合は、複数の医療機関をひとつに統合するケースと、医療機関の機能別統合と二通り考えられます。医療と介護・福祉の統合は、医療の領域が、治病から生活を支える包括ケアとしての医療に拡大していくことを意味しています。
こうした医療の統合を促す時代背景としては、今後高齢化が一層進展し、医療・介護需要の増加が予想されることがあります。特に団塊の世代が全て後期高齢者となる2025年以降においても、医療費・介護費の増大を抑制しつつ、介護を含む包括ケアとしての良質の地域医療を確保していくためには、医療資源の最適配分を実現していくことが求められ、そのことが将来を見通して医療提供体制を計画する上において主要課題となっております。
現在、厚労省が進めている病床機能報告制度と地域包括ケアシステムの構築という二つの取り組みは、そうした課題認識に基づくものであり、医療の統合という時代の流れに沿うものであると思われます。そこで、この度は本県の地域医療についてということで、医療の統合という方向を見据えつつ、数点お伺いいたします。

(1) 医療連携について
山口市には、総合病院と称する病院が三つあります。綜合病院山口赤十字病院、済生会山口総合病院、小郡第一総合病院の三つであります。総合病院とは、許可病床数が100床以上で主要な診療科が最低でも内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科の5科ある病院のことを言いますが、医療法上の規定は平成8年の改正で廃止されています。
従って、何か病気の症状があった時、「病院にかかるんだったら、総合病院がいい。」という会話が、私たちの日常生活の中でよくありますが、現在は医療法に基づく総合病院というものはなく、ただ一般的に多数の診療科を有していて、二次救急以上に対応する救急病院としての機能がある地域医療を担う中心的な病院のことを通称的に総合病院と言っています。そして、こうした意味で一般市民から総合病院と呼ばれている病院のほとんどは、最近、急性期病院と言われています。
急性期病院という言葉は、地域医療を論ずる際、頻繁に使われているにもかかわらず、医療法上の規定はなく、定義も明確でありませんが、要は慢性期病院との対比で使われている病院の呼称で、緊急の対応を要する生命にかかわる若しくは悪化の恐れがある病気やけがに対して手術等の高度な医療を行う病院を指しているようで、一般的に患者7人に対して看護師1人という看護体制がとられています。
今日は、この急性期病院が実際上、地域医療の中核的担い手になっておりますが、この急性期病院に従前の総合病院のような手術等の治療を受けた後、日常生活に復帰可能になるまでの入院を期待することは出来ません。急性期病院の役割は、生命にかかわる若しくは病状悪化の恐れがある病気やケガに対して緊急的な手術等の医療措置を行なうことであって、その処置により病状が安定するまでが医療上の守備範囲であります。従って回復期、療養期(慢性期)の医療は、別の医療施設あるいは在宅でということになり、急性期病院での平均在院日数は2週間ほどで、原則術後、病状が安定したとみなされれば、日常生活に復帰できるまでの回復には達していなくても、急性期病院での治療は終わったということで、退院もしくは転院ということになります。
私は、最近様々な医療関係者に、「一つの病院で、手術から回復、療養まで出来ませんか。」ということを聞きましたが、帰ってくる答えは同様で、「今の医療制度のもとでは、出来ない。」と云うことでした。今日の我が国の医療制度は、様々な観点からの批判はあるものの、基本的には高齢化が急激に進展して医療需要の増大が予想される中、医療費の増大を抑制しつつ、良質の医療提供を持続的に実現していくための仕組みと考えられることから、地域医療もこの医療制度に則ってやっていくしか道はありません。その医療制度を制度設計する上でのコンセプトは、医療機能の分化と連携であり、あらゆる医療機能をフルセットした総合病院は、現在の医療制度の中では経営存立が困難であることがわかってまいりました。とすれば、そのような医療制度のもと、住民の視点からのよりよい地域医療とは、機能別に分化された病院・診療所間の医療連携が、患者にとって恰も一つの病院のごとくスムースに的確、適切に行われようになることであり、そのことが冒頭申し上げた医療の統合という大きな時代の流れに沿う現実的な対応であると思われます。
そこで先ず最初に、医療連携について、国の動向等も踏まえつつ三つのことについてお伺いいたします。第一は、地域医療連携に向けての県の取り組み姿勢についてであります。
平成25年5月に策定された「山口県保健医療計画」では、地域医療連携の推進という節で、各地域において医療連携体制構築に向けた協議会を設置して、地域の医療関係者による自主的な医療連携体制の構築を進める旨、記されていまして、実際県下八つの医療圏ごとに協議会が設置されているところでございます。ただ、医療連携体制の構築が進むためには、県が各地域の医療関係者の自主的な取り組みを尊重するという姿勢で調整役に終始するだけではなく、地域ごとに目指すべき医療連携の具体案を持って、その実現に向けて強力な指導性を発揮するという姿勢が必要と考えますが、ご所見をお伺いいたします。
第二は、医療機能の分化と連携についてであります。
私は先程、我が国の医療制度の制度設計上のコンセプトは「医療機能の分化と連携である。」と申し上げましたが、村岡県政推進の指針となるチャレンジプランも「医療機能の分化・連携の推進」を、重点施策53として位置づけています。そして、そこに示されている施策の方向は、国が創設した病床機能報告制度に基づき平成27年度以降都道府県が策定に取り組むことになる地域医療構想(ビジョン)の基本図を先取りしたものであると思われます。
病床機能報告制度は昨年秋に施行されたもので、第一段階として医療機関に対し、その有する病床において担っている医療機能の現状と今後の方向を、病棟単位で、都道府県に報告することを求めています。第二段階では、都道府県が、その病床機能についての医療機関からの報告結果を踏まえて地域医療構想(ビジョン)の策定に取り組みます。この地域医療構想においては、団塊の世代が全て後期高齢者となる2025年に照準を当て、その時点での医療需要とそれに応える医療提供体制を実現するための施策を、二次医療圏等ごとに策定し、その内容は医療計画に新たに盛り込まれることになります。
この報告制度で注目すべきは、病床が担う医療機能を、高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能の四つに分けて報告を求めていることです。これまでの病床区分は、一般病床と療養病床の2区分でした。それが、4区分になる訳で、今後我が国の医療制度は、医療機能の分化と連携を基本に、医療提供体制を構築していこうとしていることが窺えます。
以上申し上げましたことを踏まえ、医療機能の分化と連携について2点お伺いいたします。第一点は、本県の地域医療を充実向上させていくために、医療機能の分化と連携に、どのように取り組まれていくのか、基本的なお考えをお伺いいたします。
第二点は、医療機能の分化と連携には、縦の関係と横の関係と二通りあるとの観点からお伺いいたします。
医療機能を、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の四つに分けて医療連携を実現していくのは、縦の関係における分化と連携です。一方、特に急性期の医療機能は、脳外科関係、循環器関係、消化器関係、産婦人科関係、整形外科関係あるいはガン診療関係等に分けることが出来ます。これまで急性期病院は、総合病院と云うことでこれらの医療機能を概ねフルセットで担ってきた訳ですが、それをこれからは急性期の医療機能の分化と統合を促し、各急性期病院を特徴化して、その連携を図っていくという横の関係における医療機能の分化と連携が考えられます。
そこでお尋ねいたします。医療機能の分化と連携は、縦の関係と横の関係の双方において実現していくべきと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
医療連携についてのお尋ねの第三は、地域連携クリティカルパスについてであります。この地域連携クリティカルパスは、地域における医療連携を充実していくための具体的な手法でして、治療経過や治療方針などの患者情報を地域の医療機関が共有し、適切な医療を提供するための診療計画であります。
私は、ここに山口地域脳卒中地域連携診療計画書を持っていますが、これがその地域連携クリティカルパスに相当するものであります。これを見ますと、急性期病院、回復期病院、維持期は入院と在宅に分けて、経過、目標、治療等を記入するようになっています。このような連携クリティカルパスは、疾患ごとに作成されると承知しておりますが、医療機関の現場の声として、書式の統一を図ることが望まれています。現状は、この連携クリティカルパスの書式が、急性期病院ごとにバラバラであることから、複数の急性期の病院から患者さんを受けるリハビリ・回復期の病院等は、急性期病院ごとに異なった連携クリティカルパスに対応しなければならないからです。
そこでお尋ねです。連携クリティカルパスの書式の統一は、その導入目的からして当然のことで、こういうことこそ医療行政に携わる者が果たすべき役割だと考えます。ついては、県は地域連携クリティカルパスの書式の統一に取り組むべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

 

【回答】◎知事(村岡嗣政君)

合志議員の医療機能の分化・連携に関する御質問のうち、私からは、取り組みの基本的な考え方についてのお尋ねにお答えします。
高齢化が進行し、医療需要の増大が見込まれる中、効率的で質の高い医療提供体制を構築していくためには、限られた医療資源のもとで、医療機関の役割分担と相互連携を進めることが極めて重要です。
このため、私は、チャレンジプランの重点施策に医療機能の分化・連携の推進を掲げて、病床機能の明確化や、医療機関の連携の推進に取り組むこととし、その実現に向けて地域医療ビジョンを来年度から策定することとしています。
まず、病床機能の明確化につきましては、病床機能報告制度や、将来の医療需要等についての客観的なデータをもとに、二次医療圏ごとの医療機能別の必要病床数を明らかにし、その達成に向けて、病床機能の転換や集約化、機能の分化を進めてまいります。
次に、医療機関の連携の推進につきましては、発症初期からリハビリ、退院まで患者の状態に応じた切れ目のない入院医療が提供できるよう、高度急性期から慢性期に至るまでのネットワークを構築するとともに、退院後の生活を支える在宅医療を推進するため、かかりつけ医と後方支援病院の顔の見える関係づくりを進めてまいります。
こうした取り組みは、医療機関や患者、保険者等の共通認識のもと、進めていく必要がありますことから、県内八医療圏ごとに協議会を設けて、調整や具体的な施策の検討を行うとともに、地域医療介護総合確保基金を積極的に活用して、支援していくこととしています。
私は、今後とも、医療機能の分化・連携を推進をし、本県の地域医療を充実してまいります。
その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。

【回答】◎健康福祉部長(小松一彦君)

地域医療についての数点のお尋ねにお答えします。
まず、地域医療連携についてです。
限られた医療資源の中で、高齢化の進行に伴う医療需要の増大に対応するためには、地域の医療機関が連携し、地域全体で医療を提供する地域医療連携を進めていくことが重要です。
このため、県としては、医療関係者等の共通理解のもと、連携体制の構築に向けた取り組みが進められるよう、がん、脳卒中、急性心筋梗塞など疾病ごとに求められる医療機能と、その機能を担う医療機関を、医療計画において示したところです。
この計画の策定に当たっては、地域の医療機関に対し、連携体制づくりへの参画を促すとともに、必要な機能を担う医療機関の役割分担の調整等を行ったところです。
また、この計画に基づき、具体的な連携が進められるよう、複数の医療機関が診療計画を共有する地域連携クリティカルパスの導入、参加を呼びかけるとともに、かかりつけ医と中核病院が患者情報を共有する地域医療連携情報システムの構築に向けて、導入検討会議を開催するなど、取り組みの促進を図っているところです。

2015年3月5日

平成27年2月定例県議会【地域医療について】(2)医療圏について

【質問】(2)医療圏について

次に、医療圏についてということで、二次保健医療圏という意味においてでありますが、山口・防府医療圏についてお伺いいたします。山口・防府医療圏は、以前は山口医療圏と防府医療圏と別々でありました。それが、平成18年に一つの医療圏とされました。その背景には、平成の大合併時、山口市と防府市が、近隣市町と共に、県央30万中核都市の実現を目指して合併に取り組んだ経緯があると思われます。この合併への取り組みは、合併合意の最終確認時に防府市の反対表明があり、防府市を除く1市4町の合併となり、30万中核都市の実現には至りませんでした。
山口と防府の医療圏を一つにしたのは、実現しなかった山口と防府の合併を、医療圏において実現するものですが、現に合併が実現していないにもかかわらず、二つの市の都市規模にそう大きな差がなく、患者の動態においても二つの医療圏に分かれていたものを一つにしたことは、いろいろな面で不都合を生じているように思われます。
特に、山口医療圏からして一番問題と思われるのは、二つの医療圏を無理やり一つにした上で、一つの医療圏に一つあればいいという高次医療機能は、常に防府医療圏にある県立総合医療センターにという方向で整備が図られようとすることであります。先に紹介いたしましたように、これからは医療機能を高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能の四つに分けて医療提供体制を二次医療圏ごとに整備していく協議が進められることになると思われます。その際問題となるのは、高度急性期の医療を、現在ある急性期病院のうち何処が担うのかと云うことであります。おそらく国は、高度急性期の医療を行う病院は、一医療圏に一つと云う方針を示し、それを受けて県は、山口・防府医療圏においては防府市にある県立総合医療センターを、それにしようと図るであろうことが予想されます。
こうしたことは、二つの点で問題があると思います。一つは、山口市の地域医療の充実向上が妨げられるということであります。もう一つは、県立総合医療センターの在り方の問題です。この県立の医療機関が、患者の大半は防府市民であるというこれまでの経緯からして防府市民病院的な役割を担い、防府地域における高度急性期医療を担うようになることは理解するとしても、県立の医療機関である限りにおいては、基本的に全県的な医療ニーズに応える存在であるべきであります。従って、山口・防府医療圏における高度急性期の医療機能を、県立総合医療センターに集中しようとすることは、この医療機関を、山口・防府医療圏の基幹病院に位置付けることになり、それは県立の医療機関の在り方からしておかしいと批判されても止むを得ないのではないでしょうか。
山口・防府医療圏域における、高度急性期医療の提供は、防府地域においては県立総合医療センターが担うにしても、山口市においては日赤、済生会、小郡第一の三急性期病院が、高度急性期医療を疾患別に分担して、急性期病院としての特徴化と高度化を図り、相互に連携していくというようにしていくことが、望ましい整備の方向であると考えます。
以上申し上げましたことから、仮定上の話でございますが、仮定上のこととは云え、これまでの国の考え方からして十分予想されることでありますので、そのことに備えてあらかじめ議論しておく必要があるということでお尋ねいたします。
県は、病床機能報告制度に基づく報告を踏まえて平成27年度より地域医療構想(ビジョン)の策定に取り組むことになります。その際、国はその策定に当ってのガイドラインを今年度中に示すことになっていますが、国が示すガイドラインにおいて高度急性期医療を担う医療機関は、二次医療圏に一つと云う方針を示してきたら、山口・防府医療圏は、以前のように山口医療圏と防府医療圏に分離すべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】◎健康福祉部長(小松一彦君)

地域医療についての数点のお尋ねにお答えします。
まず、地域医療連携についてです。
限られた医療資源の中で、高齢化の進行に伴う医療需要の増大に対応するためには、地域の医療機関が連携し、地域全体で医療を提供する地域医療連携を進めていくことが重要です。
このため、県としては、医療関係者等の共通理解のもと、連携体制の構築に向けた取り組みが進められるよう、がん、脳卒中、急性心筋梗塞など疾病ごとに求められる医療機能と、その機能を担う医療機関を、医療計画において示したところです。
この計画の策定に当たっては、地域の医療機関に対し、連携体制づくりへの参画を促すとともに、必要な機能を担う医療機関の役割分担の調整等を行ったところです。
また、この計画に基づき、具体的な連携が進められるよう、複数の医療機関が診療計画を共有する地域連携クリティカルパスの導入、参加を呼びかけるとともに、かかりつけ医と中核病院が患者情報を共有する地域医療連携情報システムの構築に向けて、導入検討会議を開催するなど、取り組みの促進を図っているところです。
次に、医療機能の分化と連携における縦と横の関係についてです。
地域が必要とする医療連携体制の構築を図るためには、お示しのように、高度急性期から慢性期に至る病床機能の分化・連携といった縦の関係だけでなく、急性期における診療科の分化・連携という横の関係についても重要であると考えています。
このため、県としては、地域の医療提供体制の将来のあるべき姿を示す地域医療ビジョンを来年度から策定する中で、医療機能の縦・横双方の、分化・連携について検討してまいります。
次に、地域連携クリティカルパスについてです。
地域医療連携の推進を図る上で、地域連携クリティカルパスは重要な役割を果たしており、このため、県としても、その導入の促進を図ってきたところです。
その結果、各地域において、疾病別に導入が進められてきており、同一疾病においては、おおむね書式が統一されているところです。
しかしながら、お示しのように同一疾病で異なる書式が利用されている例もありますことから、今後、地域医療対策協議会等において、書式の統一化について検討してまいります。
次に、医療圏における高度急性期医療についてのお尋ねです。
本年度末に、国が示すこととしている地域医療ビジョン策定のためのガイドラインについては、現在、有識者からなる国の検討会において、医療需要の将来推計の方法等についての検討が行われています。
この中で、高度急性期、急性期、回復期、慢性期ごとの医療機能の必要量については、医療機関数ではなく、病床数を単位として検討が行われており、医療圏において、一つの医療機能を一つの医療機関のみが担うことは想定されておりません。

2015年3月5日

平成27年2月定例県議会【地域医療について】(3)がん診療連携拠点病院について

【質問】(3) がん診療連携拠点病院について
山口赤十字病院が、がん診療連携拠点病院ではなくなるのではないかと云うことが懸念されています。山口・防府医療圏では、最初県立総合医療センターが、がん診療連携拠点病院に指定されていましたが、山口地域に加え萩地域をも含めてがん対策を担うということで、次いで山口赤十字病院も、原則一医療圏ひとつと云う国の方針の中で特例的に指定が認められたものであります。
それに応えて山口赤十字病院は、がん診療において二つの柱でありますがんの治療と緩和ケアにおいて立派にその役割を果たし、特に緩和ケアにおいては全国のモデルとなる高いレベルの医療を提供してきているところであります。
それが、かん診療連携拠点病院を指定する要件の見直しに伴い、人材配置要件の強化の一環と云うことで、病理診断の医師の常勤が必須化されたため、山口赤十字病院は、苦慮しているところであります。
現在、当病院は四人の非常勤医師による病理診断を行っていますが、病理診断に携わる医師の絶対数が不足している中で、その常勤医師を確保することは極めて困難な見通しのようです。
私は、国が新たな指定要件にした病理診断の医師の常勤化により、非常勤の場合より病理診断能力が高まるというのであれば、そうした要件の変更は、合理的なことと評価するにやぶさかでありませんが、関係者の話を聞くと必ずしもそうではないようであります。
一人の常勤者よりも、非常勤であっても複数いた方が病理診断能力は高まるとの見方もありますし、ICT技術を活用した画像診断医療システムも実用化され、遠隔地にいてもその場にいるのと同様に病理診断が出来る時代になって来ているのに、何故病理診断の医師の常勤化を必須の要件にしなければならないのか疑問であります。病理診断については常勤化した場合と同等の診断能力が確保されればいいのであって、原則常勤化を求めるも、それを必須の要件にする必要はないと考えます。
先程触れたことですが、病理診断に携わる医師の絶対数が少ないという現況の中で、がん診療連携拠点病院の要件として病理診断の医師の常勤化を厳格適用することは、むしろ地域医療におけるがん対策の後退になるのではないかと憂慮します。
そこでお尋ねです。がん診療連携拠点病院の新たな指定要件とされている病理診断に携わる医師の常勤必須化は、見直すよう国に求めるべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】◎健康福祉部長(小松一彦君)
次に、がん診療連携拠点病院についてです。
県民が、身近な地域で、状態に応じた適切ながん治療を受けることは重要であることから、県では、これまで、国の指定する、がん診療連携拠点病院等を整備するなど、地域において質の高いがん医療が受けられるよう、その体制づくりに努めてきたところです。
こうした中、がん拠点病院間の診療実績等に格差があったことから、国において、診療実績や人員配置などの指定要件を強化し、質の向上と一定の集約化を図ることとされたところです。
病理診断医の配置要件についても、手術中の迅速な診断を行うのみならず、患者の治療方針の決定などに当たり、担当医との日常的な協議が不可欠であることから、常勤が必要とされたところです。
このため、病理診断医の常勤配置の要件を見直すよう国に求めることは考えておりませんが、このたび、新たに医師研修資金等を拡充し、病理診断医の育成・確保を図ったところです。

2015年3月5日

平成27年2月定例県議会【地域医療について】(4)医師不足対策について

【質問】(4) 医師不足対策について
平成27年度から、山大医学部附属病院での臨床研修を予定している医学生が一桁の9人になったことが、本県の医学関係者の間では衝撃をもって受け止められています。以前は、60名から70名ほどが山口大学で研修を受けていたそうで、現在既に医師不足の対応に苦慮しているのに、将来一層深刻になることが予想されます。
今日、特に地方での医師不足が顕著になった背景には、2004年から導入された新しい臨床研修制度があると言われています。それまで医学生の研修は、基本的にそれぞれの大学医学部系列病院で行なわれていたものが、新しい制度のもとでは研修先を自由に選べるようになり、優れた研修環境にあると思われる大きな都市部の病院に集中するようになったからです。その傾向は、本県でも同様で、一旦研修医として県外に出るとなかなか県内に帰って来ないため、医師不足に歯止めがかからない状況が続いています。
県としても、知事指定の医療機関に医師として一定期間勤務すれば返済が免除される、医学生や研修医に対する修学・研修資金の貸付制度を設けるなど、医師不足の解消に向けた施策を様々講じていますが、医師不足の深刻さを思えば、もっと踏み込んだ強力な取組みが必要ではないかと思われます。
2004年に改正された臨床研修制度では、医学生は医師免許取得後、2年間の臨床研修が義務付けされましたが、全国の大学病院や一般病院等の臨床研修指定病院の中から自由に選択して、研修を受けることが出来るようになりました。従いまして、県内に医学生が医師免許取得後、研修医として残りたいと思うような、また県外から研修医が来たいと思うような魅力ある医療環境がある県にしていくことが、現行の臨床研修制度のもとにおいては有効な医師不足解消の抜本対策になるのではないでしょうか。
そこでお尋ねです。若い医療人が魅力を感じる世界水準の最先端の医療技術が学べる医療環境が整った県にしていくことが、医師不足解消に向けた有効な抜本的対策になると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

【回答】◎健康福祉部長(小松一彦君)
次に、医師不足対策についてです。
若手医師の県内での就業・定着を図っていくためには、県内の臨床研修環境を整備充実していくことが重要です。
このため、県医師臨床研修推進センターを設置し、指導医の資質の向上等を図るとともに、地域医療再生基金を活用して手術ロボットを山口大学附属病院に導入するなど、最先端の治療・診断機器の整備充実を進めてまいりました。
こうした取り組みにより、臨床研修制度導入後、落ち込んでいた県内研修医数は、導入当時の水準に回復するなど一定の成果を上げてきましたが、お示しのとおり研修医数が再び減少傾向にあることから、臨床研修推進センターでその要因を分析したところ、指導体制や研修プログラムの改善の必要性が明らかになりました。
このため、県としては、国内外から著名な指導医を臨床研修病院に招聘するなど、指導医の資質向上を図るとともに、研修医のニーズに対応したオーダーメードの研修プログラムづくりを進め、医学生が魅力を感じるような研修環境のより一層の充実に努めてまいります。
県としては、こうした取り組みを通じて、県内外から多くの研修医を確保し、若手医師の県内定着に努めてまいります。

2015年3月5日

平成26年11月定例県議会【地方創生】(1)林業振興

林業振興について

安倍政権の看板政策となった「地方創生」が、単なる政治的なパフォーマンスで終わるのかどうかの試金石は、林業振興に関して実効ある政策を推進することになるかどうかにあると見ております。
我が国は豊かな森林資源大国であるにもかかわらず、その天与の恵みを生かし切れていないのは、まことに残念なことであります。私は、我が国における林業に政治の不在を感じております。
日本学術振興会特別研究員である白井裕子氏は、その著「森林の崩壊」において、一人が一日に生産する木材の量は、一九五〇年ごろには、北欧諸国ではおよそ一・五立米で、日本とそう違いがなかったのが、二〇〇〇年には、北欧諸国では三十立米にも達し、林業の高度化、生産性の向上が格段に進んだのに対し、日本は三ないし四立米にとどまっていることを指摘して、このような木材の産出に関する生産性の大きな格差は、戦後五十年ほどの間に開いたものであることを明らかにしております。
我が国における林業振興への取り組みは、そのような北欧諸国との間に開いた林業に関する生産性の格差を解消する取り組みであると言えます。私は、安倍政権が「地方創生」の柱の一つとして、そうした方向での強い政治意思に基づく林業政策を推進するようになることを期待するものであります。
ただ、このたびの「地方創生」に向けての国の基本姿勢は、地方の自主的な取り組みを基本とするということであり、要は、国がアイデアを出して引っ張るというのではなくて、地方の現場から出たすぐれたアイデアを国が支援するという方針であります。それに応える形で、本県が来年度予算要望において「地方創生」に向けた取り組みとして、林業の成長産業化の先駆モデルとなるスマート林業実証プロジェクトの実施を政策提言したことを評価するものであります。
しかし、我が国の林業には、そのような最先端の林業モデルの実現に向けて、解決しておくべき足元の課題があります。私は本県が、まずそのような林業振興の土台となる課題解決においてモデルとなることを期待し、以下林業振興について二点お伺いいたします。
その一は、山林の境界明確化と公図作成についてであります。
山口県においては、山林原野に関する地図は、地籍調査が行われたところ以外は、法務局登記所に備えつけられていません。そのため、山林の所有者、境界、面積等の権利関係が、公的に不確定のところが多く、このことが森林整備、林業の大きな障害になっております。
県が森林法に基づいて森林資源の把握のため作成した森林簿・森林計画図はありますが、これは関係者の確認を経ていないため、個々の山林の所有者や境界等土地に関する諸権利を証明するものではないとされています。
そのため、林業関係者が一様に懸念していることは、山林の境界がわかっている人がいる間に、早く境界を公的に確定した山林の公図をつくっておかないと、後になるほどそれが困難になるということであります。
所有権、財産権に対する法的な保護が強い我が国においては、山林といえども所有者の同意、了解なしには立ち木一本切ることもできないし、森林施業のための作業道をつくることもできません。
山林の所有者や境界等を明確化し公図を作成することは、林業に関するさまざまな計画の策定や施業の実施、林業への新規参入者の受け入れ等がスムーズに行われるために不可欠な山林の基礎データであります。山口県は、林野面積が四十三万九千ヘクタールで林野率七二%は全国平均を上回っており、本県林業は産業としても大きな可能性を有していると思われ、産業政策の面からも山林の境界明確化と公図の作成が急がれます。
そこでお尋ねいたします。山林の境界を明確化し公図を作成することは、県や市町が林業振興のため最優先で取り組むべき喫緊の課題であり、県下全域での実現に向けて、早急にかつ集中的に取り組むべきであると考えますが、御所見をお伺いいたします。
その二は、木材の安定供給と循環的森林整備についてであります。
山口市に本社工場を立地する大手の製材会社である大林産業は、山口テクノパークに杉のみを扱う分工場を建設して操業していますが、そこで製材する杉の素材の七割は、現在九州産であります。県外産の素材の確保は、運賃コストが高くなるため、でき得れば七ないし八割は県内産にしたいのですが、県内木材市場では、その確保が困難なためであります。
杉は、大体林齢五十年ころのものが伐採されて、主に建築用構造材として使用されることから、この大林産業の分工場も当然そのような杉の素材を求めています。
実は、戦後植林された人工林の杉林で、今日最も多いのは、その林齢五十年前後の杉でして、本県も同様であります。したがって、需要に応じて県産の杉が供給されていいはずなのですが、そうなっていません。山に必要とする杉は十分育っている。しかし、それが木材市場には必要量供出されていない。そのため、県外産の木材を求めざるを得ない。これが実情であります。
こうしたことから明らかに、山口県における林業の課題を、需給関係から見ますと、解決すべき課題が多いのは供給の側であります。本県林業は、需要に応え得る供給力を発揮していません。御案内のように、県産木材を一定の基準にのっとって使用する住宅建築に対して五十万円の助成を行う県産材利用促進の制度があり、その制度の意義は認めるものですが、本県林業の現状からして、より重要なのは木材の供給力を強化する施策の実施ではないでしょうか。
では、どうすれば本県の木材の供給力は強化されるのでしょうか。結論ははっきりしています。県下の森林組合が、皆伐に取り組むようにすることであります。
山林から切り出した丸太を素材と申しますが、本県の素材生産量は、平成二十五年が二十二万五千立米であります。そのうち搬出間伐によるものが三万八千立米でありますので、皆伐による素材生産が八三%と大部分を占めています。ただ問題は、その皆伐を主に行っているのは民間の素材生産業者であり、そのほとんどが零細であることから、そこに素材の供給力の強化を期待することはできないということであります。
ちなみに、平成二十二年の調査によりますと、本県における民間の素材生産業者の雇用数は、平均は五・一人であります。一方、県下には森林組合が九組合ありますが、平成二十一年の調査では一組合の林業従事者雇用数は、平均五十六・七人で、民間業者の十倍強であります。この森林組合が行っている伐採の施業は、現在は、ほとんどが搬出間伐で皆伐はわずかであります。その最大の理由は、搬出間伐には国の補助があるが、皆伐にはそれがないということで、森林組合の経営上、そのような施業の選択になっています。
森林組合の伐採の施業は、ほとんど搬出間伐になっていることは、将来を見通しての森林整備の上からも問題があります。搬出間伐だけだと、植林が行われません。そのため、将来の世代が必要な木材を確保できなくなることが予想されます。林業は、今だけよければいいというものではなく、将来の世代のためにはかるという思いが根底になければなりません。そういう意味から林業は、林齢が平準化した循環的森林整備を目指すべきであります。そしてそのためには、一定量の皆伐と植林をセットで行っていく取り組みが不可欠であります。
そこでこのことに、森林組合が経営上の判断からも取り組めるよう施策を講ずることが求められます。そうすることが、本県における素材の供給力強化となり、木材の安定供給を可能にすると同時に、あわせて循環的な森林整備の促進にもつながるものと思われるからであります。
島根県では、循環型林業に向けた原木生産促進事業ということで、皆伐と植林をセットで行う場合、搬出素材一立米当たり五百円補助する制度を単県で設けて、素材生産量の増加を目指し、安定供給に力を入れております。
そこでお尋ねいたします。本県において、素材の供給力を強化して木材の安定供給を図るとともに、将来を見通して循環的森林整備を推進していくためには、一定量の皆伐と植林をセットで行うようにしていくことが必要であり、その事業に特に森林組合が取り組むことができるよう施策を講ずるべきであると考えますが、御所見をお伺いいたします。
また、平成二十四年度においては、人工林の皆伐面積が三百九十七ヘクタールであるのに対し、再造林面積は百八ヘクタールで、人工林皆伐後の植林面積は、皆伐面積の約四分の一であります。これは、主に皆伐を行っているのは民間の素材生産業者ですが、その皆伐後に植林が行われてないところが多いことを示しています。そこで、循環的森林整備を推進していくためには、民間の素材生産業者が皆伐を行った後に、適宜再造林が行われるようにしていくことが、あわせ必要であると考えますが、御所見をお伺いいたします。

【回答】◎農林水産部長(野村雅史君)

林業振興についてのお尋ねにお答えをいたします。
まず、山林の境界明確化と公図の作成についてです。
お示しのとおり、森林施業を進めるためには、森林の所有者や境界等の情報の整備が不可欠であり、所有者が高齢化や不在村化している中、所有者を特定し、境界の明確化を進めることが課題となっております。
土地の所有者や境界の公的な確認と地図の作成は、市町が実施する地籍調査によって行われており、本県の地籍調査の進捗率は、全国平均の五一%を上回っているものの、六一%にとどまっております。
このため、引き続き、地籍調査を着実に推進するよう働きかけますとともに、国の交付金を活用しながら、森林組合等が実施する境界確認と簡易測量等を支援し、その成果が地籍調査に活用できるよう努めてまいります。
次に、木材の安定供給と循環的森林整備についてです。
杉・ヒノキの人工林の多くが利用期を迎える中、林業の振興を図っていくためには、森林の多面的機能に配慮しつつ、原木の供給力を強化し、森林資源の循環利用につながる森林整備を推進することが重要であると考えております。
このため、県では、県森林組合連合会と製材工場との安定取引協定の締結を推進し、木材需要に的確に対応できる原木供給体制の整備を進めていますが、本県では、一ヘクタール未満の森林所有者が多数を占めており、効率的な施業や規格・品質のそろった原木を大ロットで供給することが難しい状況にあります。
こうした課題を克服し、原木供給の拡大を図るためには、分散した森林所有者の合意形成を図り、小規模森林をまとめて一体的に整備を進めることが重要です。
このため、現在、森林組合を主体とし、路網整備を初め、森林所有者が定期的な収益を確保でき、多面的機能を維持できる搬出間伐を推進するとともに、あわせて、多面的機能への影響が小さい小面積の皆伐にも取り組んでいるところです。
こうしたことから、お尋ねの一定量の皆伐と植林をセットで行う取り組みにつきましては、本県では、大規模に実施することは困難でありますが、小規模皆伐を対象とする国の補助事業を活用し、森林組合等が皆伐・植林をモザイク状に順次行う、一体的な整備を推進してまいりたいと考えております。
また、民間素材生産業者の皆伐後の植林については、昨年度から、素材生産業者と森林組合が木材の生産及び再造林に関する協定を締結し、伐採作業と植林作業を連携して効率的に行う取り組みを推進しているところであり、今後とも、伐採跡地の適切な植林を推進してまいりたいと考えております。

2014年11月30日