野田首相が誕生いたしました。私は、彼が言う「ドジョウの政治」、泥臭い政治というのはいいなと感じております。金魚の見ばえのいい政治じゃなくて、川底の底辺のどろどろした泥臭いところに身を置いて政治を進めていくという、「ドジョウの政治」という考え方はいいなと思いますね。
我々県議の役割あるいは県政に携わる執行部の役割も、やはりひとつ大事なことは、国の政策を地方の現場にあって検証して、そして現場から国の政策をよりよくしていく、いわゆる泥臭い政治というのは、現場に身を置いて現場にあるさまざまなどろどろした困難を一つずつ丁寧に解決しながら進めていく政治というふうに私は受けとめているところであります。
知事の場合は、住み良さ日本一の県づくりということでありまして、これも見ばえのいい住み良さ日本一ではなくて、本当に生活に苦労している人たちの現場に身を置いて一つ一つの課題を解決していく、そういうことで住み良さ日本一を実現していく、そういう県政であってほしいと思うわけであります。
そういう中で、いわゆる施設に入られる高齢者の方々というのは、本人はもちろんでありますが、本人の家族の方々も今は立場が弱いのであります。だからこそ、そういう介護施設の場合は、介護の質が保たれるようにきちっと政治が、行政が必要な取り組みをしていくということが重要であります。
私が、このたび特に老健施設でそのことが必要ではないのかということを申し上げましたのは、ある高齢者の方が老健施設に入所されて、栄養失調状態になってしまって、そしてまた、全身がむくんで肺に水がたまるような状況になってしまったと。その様子を家族の人が見て、これは大変だということでそこの施設の診断を受けるように、医者の診断を受けるように強くお願いして診てもらったところ、いわゆる栄養失調状態、肺に水がたまっているということがわかって、総合病院のほうに入院されたということであります。
やっぱり一人一人にちゃんと目が行き届いている施設もあれば、そうでない施設もあるわけでありまして、先ほど部長の答弁では、何か問題がある施設があった場合は、何か対処するみたいなことでありましたけれども、そういうことではなくて、そういうことにならないようにしていく取り組みが、平均的に標準的な水準のサービスが提供される施設にしていく、そういう取り組みは非常に、施設を整備することとあわせて重要だと思うわけであります。
介護サービス情報の公表制度につきまして、今、知事が必要と認めるときに調査するに変わるということでありましたが、じゃあガイドラインについて、衆議院の厚生労働委員会での質問に対して、老健局長が答えている部分があります。それを見ますと、最初の事業所の指定のとき、あるいは事業所としての指定を更新するときに調査に入ったりするようなことを検討したらどうかと考えているという答弁をしているんですね。
その指定の更新というのは何年に一遍行われるかというと、六年に一遍なんですね。だからそれだと毎年これまで行われておったものが、それなりの役割を果たしておったものが、六年に一遍の調査になってしまう、そんなガイドラインを示すのかと。まさしく現場を、実態を知らない官僚が制度をつくっているみたいなことが感じられまして、本当に見ばえのいいことばっかりやろうとしているのかと、何かちょっと怒りを覚える感じでありますね。
私としては、二井知事にぜひそういう施設に入っておられる方々の、あるいは施設に家族を預けている方々の思いのところに思いをいたして、そして、そういう方々にこたえる介護施設のサービスを確保していくためにはどうしたらいいのかということで、まずは介護サービスの情報の公表制度に係る県の調査の判断基準、それは策定してほしいと思うんですね、まずは。
それから、指導監査も四年から五年に一遍ということではなくて、少なくとも二年に一回は行われるというようなことを前向きに考えるべきだと思うわけであります。住み良さ日本一の県政総仕上げに向けて今取り組んでおられる二井知事に対しまして、このことについてお伺いいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
◎健康福祉部長(渡邉修二君)
二点のお尋ねだと思います。
一点は、国のガイドラインに基づいて、サービスの確保・向上になるようなガイドラインにぜひしてほしいということでございます、判断基準にしてほしいということでありますけれど、私を含めて恐らくここにいらっしゃる方は、介護保険サービスをいずれは何らかの形で受けられることになろうかと思いますので、その観点で、ガイドラインが出てきました時点で鋭意検討をさせていただきたいと思います。
それと、これまで国のほうに介護情報サービスの公表について要望した結果、御指摘のありましたように、今回の介護保険法の改正の中で、都道府県知事が認めるときには調査ができるということになってきております。
これは、基本的には介護サービス情報については全国的な共通の問題でございますので、その制度設計を担当しております国の責任において検討されることが必要と考えております。それで、この八月十日付で、中国・四国九県民生主管部長会議におきまして、この介護保険情報公表制度についても要望をいたしておりまして、制度設計を行う国の責任において、情報の正確性を担保できるような財源措置を含めて具体的な対策を講じるように要望したところでございます。
引き続き、必要に基づきまして、国に対して適切に対応させていただきたいと思っております。
(1)脱原発について
今、私たちは、かつて父祖の世代が廃墟となった戦後日本を見事復興したように、新たな日本復興のときを迎えております。
二万三千名を超える多くのとうとい人命が失われたこのたびの大災害、東日本大震災を単なる災害に終わらせてはなりません。東日本大震災は、今日の日本が内包する問題を浮き彫りにし、警告を発しています。
犠牲になられた方々の死を無にしないためにも、このことを真摯に受けとめ、真に安全で希望が持てる国、日本をつくっていくこと、そのことに向けて世代責任を果たしていくことが、今日生きているすべての日本人に求められています。
私が、このたび、上関原発について質問することといたしましたのは、東日本大震災に伴う福島第一原発事故は、原発大国化路線からの転換を日本に促す天の警告であったと受けとめているからであります。
そしてまた、山口県民の多くが、いまだ収束していない福島第一原発事故の報道に日々接し、本県の上関原発はどうなるのだろうと関心を向けているからであります。
それでは、通告に従い一般質問を行います。
私は、上関原発建設計画の中止とエネルギー政策の転換を国に求める立場を山口県は明確にすべきであると考えております。こうした考えに基づき、上関原発建設計画への県の対応についてお伺いいたします。
私は、石油や石炭等エネルギー資源のほとんどを海外に依存している我が国が、エネルギーの自給率を高めるために原子力発電に取り組むことは、国策として当然のことと考えておりました。また、発電時に二酸化炭素を出さないということで、地球温暖化対策としても、原子力発電は妥当な方向と思っておりました。
さらに、日本が世界の大国としての地位を将来にわたって保持していくためには、幾らかリスクがあろうとも、原子力の技術を、平和利用への限定は当然としても、持ち続けることが必要と考えておりました。
以上の意味で、私は、原発推進論者とまではいかなくても、原発肯定論者であり、容認論者でありました。
しかし、東日本大震災に伴う福島第一原発事故災害の深刻な事態を目の当たりにして、原発に関心を向け調べていくうちに、通常の生活、経済活動を原発に依存するのは間違っていると確信するに至りました。
原子力は、国家の存立や人類の生存のための最終的な非常手段としてはあり得ても、これを日常的なツールとして利用することは避けなければなりません。
理由は、二つあります。一つは、余りにもリスクが大き過ぎるということであります。その二は、原子力発電で生ずる放射性廃棄物の最終処理の方法技術は確立されておらず、別の形での深刻な地球環境汚染が進むということであります。
第一の理由、リスクが大き過ぎるということでありますが、私は、このたびの福島第一原発事故は、最悪の場合は、日本全土が放射能汚染で住めなくなる、まさしく国家壊滅の危機に瀕した事故であったと見ております。
我が国が商業用の原子力発電を始めることを決定した翌年、昭和三十五年に、科学技術庁の委託を受けて日本原子力産業会議が科学技術庁原子力局に提出した報告書があります。
「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」と題するこの報告書は、当時、我が国最初の商業用原子炉として計画が進められていた茨城県の東海発電所で最悪の大事故が起こった場合に、どれほどの被害が発生し、日本政府がその被害を補償できるか等を真剣に検討したものであります。
それによると、事故が発生した場合の物的損害は、最高で、農業制限地域が長さ一千キロメートル以上に及び、損害額は一兆円以上に達し得るとされております。
東海発電所から半径一千キロメートル以内には、北海道から九州までがほぼ含まれますので、圏外は沖縄だけで、日本の国土ほとんどが農業制限地域になる可能性があるわけであります。
農業が制限されるのは、土地が放射能汚染されて、産出された農作物は人体に有害で食べることができないということでしょうから、それは人が住めなくなるのと同義のように思われますが、最悪、日本全体がそうした事態になる可能性があることをこの報告書は示唆しております。
この報告書が想定した東海発電所の原子炉は、出力十六万六千キロワットでしたが、福島第一原発の原子炉は、一号機四十六万キロワット、二号機・三号機・四号機・五号機は七十八万四千キロワット、六号機は百十万キロワットであります。
報告書が想定した東海原発の三倍から七倍の規模を持つ原子炉が六基も林立している福島第一原発事故が最悪の事態になった場合は、日本全土が、農業制限どころではない、もっと深刻な放射能汚染に見舞われ、日本壊滅が現実となるということを思うとき、福島第一原発事故終息に向けての取り組みは、国の存立をかけた原子力との戦争であります。
原子力発電によって得られる生活の利便さ、経済的利益は大きいものがあるかもしれない。しかし、それは国をつぶす危険を冒してまで追求すべきものではない。少し生活が不便になろうと、経済的利益が失われようと、原子力発電への依存は減らしていく方向へ我が国のエネルギー政策を転換していく、そのことが今求められています。
第二の理由についても触れておきたいと思います。
原子力発電は、CO2を出さないからクリーンだとの見方があります。これは、原発の半面だけしか見ていません。原子力発電が危険な放射性廃棄物を排出していることを見落としているからであります。
原発をよく「トイレなきマンション」に例えることがありますが、確かに、原子力発電で生じた放射性廃棄物を地球環境を汚染しない形で処分する方法、技術は、いまだ確立されていません。原子力発電は、技術体系としては未完のまま、見切り発車的に実用化されてしまったと言えます。
そのため、放射性廃棄物は、その数量は増加する一方であるものの、最終処分場が世界じゅうどこにもなく、原発を持つ国にとっては、その処理が厄介で困難な課題となっております。
放射性廃棄物は、放射能濃度により、低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物とに分類されますが、高レベル放射性廃棄物の主たるものは、使用済み核燃料であります。
原発で発電のために使用された核燃料は、三年ないし四年で新しいものと交換されます。その際、使用済みとなった核燃料は、容器である燃料棒ごと、当面は原発敷地内の燃料貯蔵プールに保管されます。
我が国では、この使用済み核燃料は、核燃料サイクルの方針に沿って、次は青森県六ヶ所村に建設された再処理工場に搬入されます。
この再処理工場で、使用済み燃料は、硝酸で溶かされ、それからプルトニウムとウランが再利用目的で抽出されることになっています。そして、残った廃液は、ガラスで固めてキャニスターという容器におさめられ、三十年から五十年間冷却しながら貯蔵した後、最終的には地層処分する計画になっております。地層処分とは、地下三百メートル以上の深い地中に埋めることであります。
以上は、我が国の核燃料サイクル計画で想定されていることでありますが、現時点では、ガラス固化体の貯蔵は行われていますが、最終処分となる地層処分の場所は決まっていません。
そこで、真摯な議論が求められるのは、地層処分の場所をどこにするかということではなく、高レベル放射性廃棄物を最終的には地層処分するというやり方が許されていいのかということであります。
高レベル放射性廃棄物をガラス固化体にして、キャニスターという容器におさめた一本の重量は約五百キログラムですが、これがどれほど強い放射能を有しているかということは、人がこれに触れれば二十秒で致死量に達する放射線を浴びるということからもわかります。
放射能の大きな単位にキュリーというのがあります。一キュリーの放射能で、一平方キロメートル全地域が立入禁止になるほどであります。
ガラス固化体の放射能をあらわすには、この単位が向いているようでありまして、ガラス固化体キャニスター一本の放射能は、これがつくられた当初一カ月は三百九十二万キュリーであります。
日本の国土面積は約三十八万平方キロメートルでありますので、一本で日本の十倍強の広さが立入禁止になるほどの放射能がある計算になります。
放射性物質は、時の経過とともに減っていきますが、このガラス固化体キャニスター一本の放射能は、一万年後も六百キュリー残っております。百万年たっても、同じ重量のウラン鉱石の五百倍の放射能があり、ウラン鉱石と同程度の放射能になるまでには、数千万年の時間の経過を要すると見られています。
二○○九年二月、アメリカ政府が「高レベル放射性廃棄物は、百万年の監視を要する」との見解を明らかにした背景には、こうした事実があると思われます。
こうした極めて高濃度の放射性廃棄物のガラス固化体が、六ヶ所村には、現在既に千三百本以上貯蔵されています。これらのガラス固化体は、実はフランスやイギリスで再処理されたものであります。
六ヶ所村再処理工場は、液状にした高レベル放射性廃棄物のガラス固化に成功しておりません。そのため、六ヶ所村工場には、高レベル放射性廃液が二百四十立方メートルたまっています。
これは、その一立方メートルが漏れただけでも、東北地方北部と北海道南部の住民は避難しなければならなくなるほど危険なものであります。
しかし、この技術的課題は克服されるとの前提で、我が国の原子力事業は進められているようで、現行の計画どおり原子力発電が行われていき、発生した使用済み核燃料を再処理してガラス固化していけば、その数量は、平成三十三年までにキャニスター四万本に達すると推計されています。
これが全部地層処分された場合、一万年後も一本に六百キュリーの放射能が残っていますので、総計二万四千(二千四百万)キュリーの放射能が地中に残っている計算になります。これは、日本国土の六十倍強の面積が立入禁止になるほどの放射能であります。
こうしたものを地層処分にするということは、自分やせめて子や孫の世代さえよければいいという、まことに身勝手な発想に由来するもので、環境倫理にもとるばかりでなく、これから数千年、数万年にわたって、日本列島、地球に生をうけることになるであろう人類に対する重大な罪であると考えます。
元東大総長の小宮山宏氏は、「原子力は、二十世紀後半から二十一世紀にかけての過渡的なエネルギーであり、二十二世紀は太陽エネルギーの時代に向かうであろう」と述べていますが、そうだとすれば、放射性廃棄物を出さない原子力発電の技術体系の確立に取り組まなければなりません。
今日の原子力発電が安全性や放射性廃棄物の問題を根本的に解決できていないのは、元来、米軍が軍事利用目的で原子力潜水艦のために開発した原子炉を民間用原発として実用化したものであるからです。
現在の原発は、要は、火力発電の燃料を核燃料にしたものであり、核燃料を使う危険性を、安全措置を何重にも施すという多重防護というやり方で封じ込め、安全性を確保しようとしています。
しかし、このやり方では、事故のたびに新たな安全基準を設定して防護策を強化するということを繰り返していくものの、あらゆる事態を想定して防護策を施すことは不可能に近いので、想定以上の事態に遭遇したとき、重大事故を引き起こしてしまいます。
福島第一原発事故が、まさしくそうした例であります。
ここでは、津波の高さは五メートルと想定されていましたが、実際は十五メートルの津波に襲われました。
原子炉で水素爆発は構造上起こらないと確信されていましたが、次々と水素爆発が起こり、原子炉建屋が破壊されて、大量の放射性物質が放出される結果となり、原発事故レベルは、チェルノブイリと同じ最悪事故レベル七となりました。
二十一世紀の人類生活のために原子力の平和利用は不可欠というのであれば、そのための原子炉は、安全性という点においては、化学原理、技術原理の上から重大事故を起こさない設計のものでなくてはならず、原子力利用のトータルなサイクルの中で、放射性廃棄物は解消され、地球環境を汚染しないものでなければなりません。
そうした設計思想に基づく新しい型の原子炉が開発されれば、私は、その原発の推進論者になりたいと思います。
しかし、現行の原発からは脱していくべきだと考えております。したがって、現行の型の原発を新設、増設していくことには反対であります。
前置きが長くなりましたが、福島第一原発で使われていた沸騰水型原子炉と基本的に同型である上関原発の建設計画の中止を求める論拠を明らかにするため、以上述べさせていただきました。
それでは、これまで申し上げましたことを踏まえ、上関原発建設計画への県の対応について、数点お伺いいたします。
(1)脱原発について
菅首相は、五月十日の記者会見で、福島第一原発事故を受けた今後のエネルギー政策について語り、「従来の計画を白紙に戻して議論する」と述べ、原発への依存を減らす方針を表明しました。
また、小泉元首相は、五月二十八日、横須賀で講演し、「自民党政権も原発を推進し、過ちもあった。これからは原発をふやすのは無理で、大事なのは、いかにして原発への依存度を下げていくかだ」と述べました。
私は、こうした菅首相や小泉元首相が言う原発への依存を減らす方向も、脱原発だとみなしております。
脱原発にも、原発の新設・増設は認めないのはもちろん、現在稼働している原発も即刻廃止することを求める原理主義的脱原発と、原発の新設・増設はしないことから出発して、電力事情に応じて順次原発依存を減らしていく現実的脱原発の二通りあります。
今日、国民の多くは、現実的脱原発を支持しており、菅首相も小泉元首相も、その方向に進むべきことを表明したものと思われます。
脱原発は、決して時代便乗でもなく、大衆迎合でもありません。福島第一原発事故と真剣に向き合った結果であります。
そこでお尋ねであります。私は、山口県は原発の新設・増設は認めないが、現在使われている原発を減らしていくことは、電力事情に応じて対応していく現実的脱原発の立場に立つべきと考えますが、このことにつき知事の御所見をお伺いいたします。
【回答】(2)エネルギー基本計画の見直しと上関原発について 参照
(2)エネルギー基本計画の見直しと上関原発について
さて、菅首相が見直しを表明した従来の計画とは、昨年六月に閣議決定したばかりのエネルギー基本計画のことで、現在五十四基ある原発を、二○三○年までにさらに十四基新設・増設し、総発電量に原子力が占める割合を五○%とする原発拡大推進の内容となっておりまして、新設の原発に上関原発も含まれております。
菅首相は、このエネルギー基本計画を見直して、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーと省エネ社会実現を二本柱として重視する意向を示しました。
原発への依存を減らす方向での計画の見直しは、原発の新設・増設をやめるか減らすということになるでしょうから、私は、菅首相の意向に沿ったエネルギー基本計画の見直しが行われれば、上関原発建設計画は中止になる公算が高いと見ております。
二○三○年までに新設・増設予定になっている十四基の原発は、建設の進捗度合いにそれぞれ差があって、島根原発三号機のように、既に建設は完成し、本格稼働に向けて試運転の段階のものは中止の判断が難しいかもしれませんが、上関原発は、まだ国の正式な建設許可を受けておらず、準備工事の段階で、それもまだ緒についていない状況であるので、見直しの際は、当然に計画中止の原発の対象になると思われます。
ただ、本県が、上関原発建設計画について、「国のエネルギー政策に協力し、地元の政策選択を尊重する」との従来の対応方針で終始一貫した場合、見直しによる計画中止の原発に上関が含まれない可能性もあると見ております。
県が、祝島を含む上関町全体の意思を地元の政策選択として尊重するように、国は、上関町を含む山口県全体としての意思を上関原発計画に対する地元の政策選択として尊重するものと思われます。
その県の対応方針が「地元の政策選択を尊重する」ということで変わらず、また、その地元とは上関町のことであるとの認識に変更がなく、そして、その上関町が原発誘致の方針を変えなければ、国のエネルギー基本計画見直しの際、上関町の原発誘致が、県の政策選択として尊重されることになります。
果たして、そういうことでいいのか、疑問に思うのは私だけではないでしょう。私は、上関原発計画については、上関町が祝島も含む町全体の意思に基づいて政策推進してきたように、県が、上関町を含む県全体の立場に立っての意思を明確にし、国に対して、それを表明する時期に来ていると思います。
そして、県民の多くが支持する県の政策選択は、現実的脱原発の立場に立つことであり、そういう意味での上関原発建設計画の中止であると考えます。
そこでお尋ねであります。私は、国がエネルギー基本計画の見直しを行うに当たり、二井知事が、上関原発計画の中止をその内容に盛り込むよう国に対して意見表明されることを期待するものでありますが、そうするお考えはないのか、知事の御所見をお伺いいたします。
【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、脱原発についてとエネルギー基本計画の見直しと上関原発についての二点のお尋ねに、まとめてお答えをいたします。
これまで、国は、エネルギー基本計画において、原子力発電を我が国の基幹電源と位置づけ、安全の確保を大前提として、国民の理解と信頼を得つつ、積極的な利用拡大を図ってまいりました。
しかしながら、このたびの福島第一原子力発電所の事故を契機として、原子力発電に対する国民の信頼が大きく損なわれたところであります。
国におきましては、まずは一刻も早く事故を収束させ、事故原因の徹底究明と安全指針等の検証を行い、新たな知見に基づく安全指針等の見直しを早急に進めるべきであります。
その結果を踏まえた上で、エネルギー政策の見直しに取り組むべきであると考えております。
現在、国におきましては、このたびの事故を踏まえて、新成長戦略実現会議において、エネルギー政策について、これまでの原子力、化石エネルギーに加え、自然エネルギー、省エネルギーを柱に加えるなど、見直しの議論が始まったばかりであります。
お示しの、脱原発については、確立された定義はありませんし、国民の間にさまざまな意見がありますので、私が軽々に申し上げるべきではないと考えております。
エネルギーは、国民生活の安定向上並びに国民経済の維持・発展に欠くことのできないものであります。国の存立にかかわる重要な問題でありますから、国において、新たなエネルギー政策の中で、原子力発電をどう位置づけるのか、上関原電を含む原子力発電所の新増設計画をどう定めるのか、国民の幅広い意見を踏まえて、国民的合意を得ながら、慎重かつ迅速に議論を進めるべきであると考えております。
したがいまして、上関原電計画の中止についても、国に意見表明することは考えておりません。
いずれにいたしましても、上関原電計画につきましては、国のエネルギー政策に協力をし、地元上関町の政策選択を尊重するという基本姿勢に立って、今後の国の動向、また上関町の動向を注視してまいります。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。
(3)上関原発と新エネルギー政策について
さて、私は、上関原発建設計画がどうなるかは、今後の我が国のエネルギー政策の動向を示すものとして、重要な意味を持つと見ております。
上関原発の中止は、エネルギー政策が、原発推進から原発依存を減らす方向へ、そういう意味での脱原発へ転換したことを示すものとなります。
一方、上関原発が計画どおり建設されることになれば、福島原発事故を受けていろいろ議論はあったけれど、結局のところ、原発推進の現行路線は変更されなかったことになります。
そういうことで、上関原発については、建設か中止かの議論が、今後、全国レベルで展開されることも予想されますが、私は、より安全な地域社会をつくる、後世に地球環境汚染を残さないという原則的立場から、脱原発への転換となる上関原発の中止が、将来に向けての正しい選択と考えます。
こういうことを申し上げますと、「だったら、必要電力の確保はどうするのか。太陽光や風力の発電では、発電量が小さく、とても原子力発電の代替はできない」との反論の声が返ってきそうですので、このことを上関原発に即して考えてみたいと思います。
この問題は、上関原発建設計画では営業運転開始予定が平成三十年三月になっておりますので、上関原発を中止した場合、その予定年月以降の中国電力管内の必要電力の確保は可能かということになります。
私は、電力供給体制をこれまでの大規模集中効率型から小規模分散自立型に転換していくことを進める、あわせて、火力発電能力の向上強化を図ることで、上関原発を中止しても、必要電力は十分確保されるものと見ております。
電力供給体制を小規模分散自立型に転換していくというのは、太陽光・風力・小水力等の自然エネルギーによる発電と蓄電技術と、賢い送電網と訳されていますが、電力需給の最適化を自律的に図るデジタルネットワークであるスマートグリッド等の組み合わせにより、家庭や地域における電力自給率を高め、電力消費の平準化を進めていくことであります。
電力会社の発電設備は、電力の最大需要にこたえることができるよう整備されていますので、家庭や地域において電力の自給率が高まり、最大需要電力であるピーク電力を押し下げることになる電力消費の平準化が進めば、電力会社は供給余力が増加し、電力不足は生じなくなると思われます。
一方、火力発電能力の向上強化は、そうしたソフト的な取り組みの効果を見きわめつつ、万が一にも電力の需給ギャップを生じないよう電力供給能力を整えておくためと火力発電のクリーン度を高めるために、石炭火力を天然ガス火力に切りかえていく方向で進めていくことが望ましいと思われます。
天然ガス火力は、石炭火力に比べてCO2排出の面でも格段にクリーンであり、熱効率も高く、天然ガス自体は埋蔵量も豊富で、二百年以上は大丈夫と見られています。
そういうことで、私は、上関原発の営業運転開始が予定されている平成三十年までの時間に、それらの取り組みをしっかりやれば、上関原発を中止しても、電力不足は生じないと見ている次第であります。
そして、脱原発に向けた新エネルギー政策においては、この小規模分散自立型の電力供給が重要な柱の一つになると推察しています。
私は、この小規模分散自立型の電力供給地域モデルをつくることは、二十一世紀の新しい地域社会の可能性を示すものとして、極めて意義深い取り組みになるものと思っています。
世の中の動きも、これまでは「大きく集中して効率的に」でしたが、これからは「小さく分散して自立的に」という方向に転換していくように思われます。
そして、その方向転換が、東京一極集中、地方疲弊から脱して、地方復活、元気な日本の実現につながっていくのではないでしょうか。
そこでお尋ねであります。新エネルギー政策の重要な柱となり、二十一世紀の新しい地域社会の可能性を示す小規模分散自立型の電力供給地域モデル構築に向けて、本県が産学官共同で取り組むことを提案したいと思いますが、このことにつき知事の御所見をお伺いいたします。
以上で、一回目の質問を終わります。(拍手)
【回答】◎商工労働部長(森敏明君)
新エネルギー政策についてのお尋ねにお答えをいたします。
エネルギー政策は、本来、国において、エネルギーの安定供給の確保や環境への適合、経済効率性等に留意しながら、総合的、計画的に推進することが求められております。
しかしながら、太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーは、地球温暖化対策やエネルギー自給率向上に資するとともに、環境産業等地域経済への波及効果も期待できますことから、これまでも、「やまぐち環境創造プラン」等に基づきまして、太陽光発電システム等の導入促進や森林バイオマスの活用などに積極的に取り組んできたところでございます。
こうした中、今年度新たにスタートいたしました「新エネルギー利活用プロジェクト」におきまして、地域における水素の持続的な利活用や地産エネルギーを効果的に活用した、いわゆるスマートファクトリーの導入等に関する調査を、大学や水素供給事業者、太陽光やIT関連の企業等と連携して行うことといたしております。
特に、スマートファクトリーの導入に関する調査につきましては、中小企業の工場において、例えば、副生水素を活用した燃料電池による発電や、お示しのありました太陽光・風力・小水力等による発電と蓄電技術及び省エネルギー技術を融合させることにより、安定的かつ最適に電力を供給するハイブリッド型の低炭素工場モデルの構築を目指すものであります。
したがいまして、将来的には、中小都市が点在する本県の地域特性も生かしながら、御提案の、小規模分散自立型の電力供給地域モデル構築を視野に入れまして、密接な産学公連携のもと、「新エネルギー利活用プロジェクト」を積極的に推進してまいります。
きのう、中国電力の株主総会におきまして、副社長が「上関原発は中止しない」という考えを表明されたということが報道されております。
私は、中国電力がそういう判断をするのは当然であろうと思っております。
電力事業、特に原子力発電は、国策民営で進められてまいりまして、そういう方針のもと、電力事業者は原子力発電に取り組み、中国電力においては、島根原発があり、また上関原発が計画されているということでありまして、見直しという菅首相の意向が表明されておりますが、まだそういうものが明確でない現時点におきまして、「上関原発建設計画を中止しない」という考えを中電が表明するのは、当然であろうと受けとめております。
また、昨日は、玄海原発につきましても、海江田大臣が、地元町長や、あるいは佐賀県知事に会って、稼働の方向が見えてきたようでありますが、私も、このことは、先ほど申し上げました現実的脱原発の立場から、一定の理解をするものであります。
ただ、上関原発につきましては、将来にわたっての国のエネルギー政策がどうなっていくのかという方向づけにつながるものであって、まさしく、政治が明確に政治判断すべきことであります。
もちろん、その政治判断は、国が第一義的にすべきこと、あるいは国の責任においてすべきことでありますが、先ほど知事の答弁の中にも「幅広い国民の議論、意見を踏まえて」という、「合意が形成されるべきものと考える」と、こういう御答弁であったように思うんでありますが、その「幅広い国民の意見を踏まえ」ということの中におきまして、国がこれからエネルギー政策を決めていく上において最も重視するのは、原発立地が予定されている県の考えはどうかということであろうと見ているところであります。
六月二十八日、一昨日の読売新聞に、いわゆるエネルギー基本計画は来年改定すると、来年の半ばまでには改定するという方針を政府は固めたということが記事としてあります。
そうなりますと、それまでの間に、山口県はどう考えているのかという意見表明を国のほうから求めてくることがあると予想されます。そうなった場合に、どうするお考えなのか、お伺いいたしまして、二回目の質問といたします。
【回答】◎知事(二井関成君)
現在、国において、エネルギー政策を白紙から見直すということで検討されておりますから、その過程の中で国から私に対する意見が求められれば、その段階で、その時点での私の意見は申し上げたいと考えております。
以上です。
◆(合志栄一君)
国のほうから意見を求められれば、その時点で自分の考えを表明するということでありました。
知事は、これまで繰り返し、「国のエネルギー政策に協力し、地元の政策選択を尊重する」ということを繰り返し述べてこられました。その方針の前提としては、安全の確保が大前提でということでありました。
私は、この安全の確保ということに、もう一つ、放射性廃棄物を出さない、後世に負の負担を残さないという意味での放射性廃棄物を出さないということも、あわせて前提にすべきなのではないかと思うわけであります。
そういうことも含めまして、知事の任期中に、できれば国体の前に、上関原発は中止の方向の知事意見の表明がなされることを要望いたしまして、私の質問を終わります。
御清聴どうもありがとうございました。
◆附記(一般質問関係)
「高レベル放射性廃棄物は、100万年の監視を要する」
2009年2月、アメリカ政府は「高レベル放射性廃棄物は、百万年の監視を要する。」との見解を発表しました。
高レベル放射性廃棄物とは、原子力発電所から排出されるもので、主に使用済み核燃料のことをいいます。
この使用済み核燃料は、我が国では青森県の六ヶ所村再処理工場に搬入されることになっていまして、そこでは先ず溶かして液状にする処理がされます。
その後、それをガラス状に固めてキャニスターという容器に納めて30年から50年間冷却保存した後、地層処分ということで300メートル以上深い地中に埋める計画になっています。
問題なのは、このキャニスター1本の重量は500キログラムですが、猛烈に高い放射能を有していて、長期間それが残るということです。
放射能の大きな単位に、キュリーというのがありまして、1キュリーの放射能があれば、1平方キロメートルが立ち入り禁止になるほどですが、キャニスター1本だけで、当初1ヶ月は392万キュリーの放射能があります。
日本の面積は約38万平方キロメートルでありますので、その10倍強の面積が立ち入り禁止になるほどの放射能です。
それが1万年たっても600キュリーの放射線が残っており、100万年立っても同量のウラン鉱石の500倍の放射能が残っています。
アメリカ政府が、100万年の監視を要するとの見解を発表した背景には、こうした事実があります。
キャニスターに納められた放射性廃棄物は、現在六カ所村に1300本以上貯蔵されていますが、現行の計画通り我が国の原子力発電が続けられれば、平成33年までに、その数量はキャニスター4万本に達すると推計されています。
これらを地層処分するということは、後世に借金を残す以上に深刻な環境汚染の負の遺産を残すことになり、やってはならないことであります。
私が、6月県議会で、原発への依存を減らすという意味での脱原発に国のエネルギー政策は転換すべきであり、山口県は上関原発中止の立場を明確にすべきと表明したのも、原発には安全性の確保問題と併せて、以上申し上げました放射性廃棄物処理の問題があるからです。(合志栄一)
◆法と経済ジャーナルに掲載される◆
合志県議の6月定議会での一般質問「脱原発について」が、7月17日に、法と経済ジャーナルのトピックスに、山口県議の唱える「現実的脱原発」として掲載される。
(1)介護サービス情報の公表制度について
人としての尊厳を保持する介護事業の第一義の大事は、まさにこの一点にあります。
平成十二年から施行されました介護保険法は、老齢になり、人の介護を受けないと生活維持ができなくなっても、人としての尊厳を保持して、ともに生きていくことができる仕組みを制度化したものであると言えます。
介護保険法は、平成十八年に改正された際、そうした法の趣旨をより明確にし、介護される者の尊厳の保持を、この法の目的を定めた第一条に明記いたしました。
そして、法の第五章、第十節において、介護サービス情報の公表を新たに制度化したのであります。
介護サービス情報の公表制度は、法の建前としては、介護保険法第百十五条の三十五において「介護サービスを利用しようとする者が、適切かつ円滑に当該介護サービスを利用する機会を確保するため」と記されているように、介護サービスの利用者がよりよいサービスを選択できるよう介護情報を公表する制度であります。
しかし、私は、この制度の真のねらいは、法改正で明記されました「介護を受ける人の尊厳を保持する」という目的に沿って介護サービスの質の保持向上を図ることであり、そのことを介護の仕事に従事する人たちの信条や善意、道徳心等に期待するだけではなく、介護サービスの事業者や従事者に促す仕組みをつくり、制度としての担保しようとした点にあると見ております。
介護サービス情報の公表制度が導入されてから、介護サービス事業者は、年に一回、手数料を払って県が指定した調査機関の調査を受けることになり、その調査結果は、インターネットで公表されるようになりました。
本県で調査機関に指定されているのは、県の社会福祉協議会とNPO法人やまぐち介護サービス評価調査ネットワークでありまして、この指定調査機関の調査活動に伴う費用及び調査結果のインターネット公表の費用等は、事業者が支払う調査手数料で賄われております。
ちなみに、この手数料は、本県では居宅系事業所は三万六千八百円、施設系事業所は四万三千円となっております。
介護サービス事業者には、この制度の施行に伴い、こうした費用負担や調査協力のための事務負担が新たに生じた上に、せっかく公表された情報が、余り利用されていない等々の事由から、制度スタート時点から、この公表制度を疑問視する声が強く、不評でありました。
また、指導監査や外部評価など類似の制度があり、介護サービス情報の公表制度を不要とする声もありました。
さらに事業者の多くは、そうした調査を受けるまでもなく、介護事業が経営として成り立つために、利用者が選んでくれるよう介護サービスの質の向上に努めているとの思いがあります。
こうした声を受けてなのか、厚労省は、平成二十四年度に予定されている介護保険法の見直しにおいて、すべての介護事業者に年一回義務づけてきた第三者機関による調査と、調査結果の公表を事実上廃止する方向で介護保険法の改正を行おうとしております。
調査が実施されるのは、都道府県知事が必要と認めた場合のみで、介護サービス情報公表制度の大幅な後退であります。
発端は、昨年七月六日に行われた当時の長妻厚労省大臣の記者会見における発言でありました。
このとき長妻大臣は、この情報公表制度の趣旨は大切であるとしながらも、公表制度にかかる事業者の手数料負担を廃止することを含めて抜本的見直しを次期制度改正時に行うよう事務方に指示したことを明らかにしました。
さきに紹介しましたように、介護サービスの情報公表制度における調査及び公表の費用は、調査手数料収入によって賄われているため、別途財源確保の手だてをしないままの手数料無料化発言は、事実上の公表制度の廃止を意味します。
ミスター年金で名をはせ、厚労大臣の座を射とめた長妻議員ですが、彼は、大臣として何らなすところなく、ただ、介護保険制度の質的低下を招いただけの大臣であったと断ぜざるを得ません。
介護保険制度の画期的な点は、従前、医療法人や社会福祉法人の領分と考えられていた介護を、NPO法人や株式会社など民間法人も事業としてできるようにしたことであります。
介護事業を民間法人にも門戸開放したことは画期的としても、それが評価に値するものとなるためには、介護サービスの質を確保する仕組みが制度設計されていなければなりません。
そうした考え方に基づく制度設計の大前提として、介護保険制度の施行に伴い、介護も行政機関が措置する制度から、利用者が介護サービス事業者と契約する制度に変わりました。
このことは、介護を含む我が国の福祉事業のあり方の根本的な転換でありますが、介護事業を民間に門戸開放したことに伴う当然の対応であったと言えます。
事業者は、よりよい介護サービスを提供して、利用者から選ばれるよう努めなければ、事業経営が成り立たなくなりますので、おのずと介護サービスの質の向上に取り組むこととなります。
こうした契約制度のもとで、事業者は当然に介護サービスの向上に努めていること、また、指導監査や外部評価が制度化されていること等を理由に、介護サービス情報の公表制度は不要であるとの意見もありますので、本当にそうなのか、点検しておきたいと思います。
契約制度のもとにおいて、事業者の多くが介護サービスの向上に向けて努力していることを私も認めるものでありますが、実際問題として、利用者に選択の余地がほぼなきに等しくなるケースがあることを指摘しておかなければなりません。
例えば、有料老人ホームがその一角に介護サービスの事業所を設けたとした場合は、そのホームへの入居者は、他の事業所を選ぶことは困難と思われます。
また、ケアマネジャーが利用者の希望ではなく、所属法人の関連事業所を優先的に使用するよう指示されている例も聞きます。
こうしたケースも含め民間の事業者が、すべて等しく一定水準の介護サービスを維持していくためには、定期的に第三者の調査の目が入ることは必要と考えます。
行政機関から指導監査があるから類似の調査は必要ないとの声もありますが、事業者に対し、個別の実地指導を伴う監査を行うのは、三ないし五年に一回というのが実情であります。
介護保険制度で、介護サービスの事業は、民間法人も可能となって、事業者の数が飛躍的に増加したためであります。
三ないし五年に一回の監査で、介護サービスの水準保持を制度として担保していることになるのか疑問であります。指導監査があった年に重ねての調査は不要と思いますが、年に一度は、第三者の調査の目が入るようにすることは、介護サービスの事業を民間に門戸開放したことに伴い当然に制度化すべきことではないでしょうか。
外部評価制度があるから必要ないとの意見もありますが、外部評価の対象となるのは、グループホーム、小規模多機能の事業所でして、現在二千四百を超す本県の介護事業所のうち二百ほどに過ぎません。二千二百を超える大多数の事業所は外部評価の対象になっておりません。
私は、介護サービス情報の公表制度を見直すというのであれば、現行の仕組みは基本的に維持した上で、実地指導の監査があった年は不要とする、外部評価制度の対象施設は外す、一定のサービス水準を保持するようになった事業者の調査は隔年にする、小規模事業者の調査手数料は減額する、事務負担の軽減のため調査様式の改善を図る等々のことを検討すべきだと考えます。
ところが、厚労省が現在やろうとしている見直しは、手数料の無料化に伴う事実上の現行の公表制度の廃止であって、介護サービスの低下を防ぐ防波堤の役割を果たしていると思われる公表制度が機能しなくなるのではないかと危惧されます。
以上申し上げましたことを踏まえ、介護サービス情報の公表制度について数点お伺いいたします。
その一は、現行の介護サービス情報の公表制度が果たしている役割の認識についてであります。
この制度は、介護サービスの利用者がよりよいサービスを選択できるため、指定調査機関が確認した調査情報を公表することを目的とする制度とされておりますが、私は、そうした第三者機関による定期的な調査と公表が介護サービス事業の質の保持向上に資する役割を果たしていると見ておりますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
その二は、厚労省が現在進めている介護サービス情報の公表制度の見直しについてであります。
調査手数料の廃止を先行させて、第三者機関による介護サービス事業の調査と、そのことに基づく情報の公表を、都道府県知事が必要と認めた場合以外はやめてしまう見直しは、介護サービスの質の保持向上を制度として促し担保しようとする介護保険制度の設計思想からして、間違った方向への見直しと私はみなすものですが、このことにつき御見解をお伺いいたします。
その三は、平成二十三年度における本県のこの公表制度の運用方針についてであります。
平成二十四年度から公表制度の調査手数料は無料化するという方針が示されている中、前年度の平成二十三年度は、全国四十七都道府県中、十七都道府県は、現行制度による運用を継続するように承知しておりますが、本県は、どうする方針なのかお伺いいたします。
その四は、本県独自の介護サービス水準の保持向上に向けた取り組みについてであります。
事実上、第三者機関による介護サービスの調査公表が廃止となる見直しは問題であると思いますが、その方向での介護保険法の改正方針が定まっている以上、本県が独自に介護サービス事業の質的低下を防ぎ、その水準の維持向上を図る仕組みづくりに取り組むことが期待されます。
ついては、住み良さ日本一の元気県づくりを目指す二井県政の総仕上げとなる平成二十三年度において、この課題に取り組まれることを求めるものでありますが、御所見をお伺いいたします。
その五は、介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保についてであります。
介護サービス事業を本当に評価調査できるようになるためには、相当期間経験を重ねて習熟することが必要と思われまして、おおむね三年ほどで人事異動がある県や市町の担当職員に、そのことを求めることは無理なのではないでしょうか。
よって、行政組織とは別個の評価調査機関があって、そこにおいて介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保が図られることが、本県の介護保険制度の水準向上のために必要と思われますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
【回答】◎健康福祉部長(今村孝子さん)
介護サービス情報の公表制度についての数点のお尋ねにお答えいたします。
まず、第三者機関による調査・公表の果たす役割についてですが、お示しの介護サービスは、利用者本人による選択を基本的な理念として、これを実現するためには、すべての介護サービス事業者や施設について、サービスの内容や運営状況など、利用者の選択に役立つ正確な情報の公開が不可欠です。
また、この情報は、第三者が、客観的に調査・確認し、調査結果を定期的に公表することにより、利用者が事業者を比較検討でき、みずからのニーズに応じた良質なサービスを選択することが可能となります。
本県では、介護サービス情報の公表制度を開始して以来、「情報が実際と異なる」といった苦情もなく、円滑に実施されております。このことが事業者のサービス改善への取り組みを促進し、介護サービス全体の質の保持向上に一定の役割を果たしてきたものと認識しております。
次に、厚生労働省の見直しに対する見解についてです。
現行制度は、利用率が低いことや、事業者の費用負担が重いといった問題があることから、今回の見直し案が示されましたが、その中には、客観的な調査の仕組みを廃止することも盛り込まれております。
このことは、情報の公開に当たって最も重要である正確性を確保する上で懸念があるものと考えております。
このため、県といたしましては、昨年十一月に、国がブロック単位に開催しました公表制度に関する国と県との協議の場で、国において、情報の正確性を担保できる方策を講じるよう要望したところです。
次に、本県における平成二十三年度の本制度の運用についてです。
国の見直し方針を受け、本年一月、速やかに高齢者保健福祉推進会議介護・地域ケア部会を開催し、事業者や利用者、さらには指定調査機関などから、平成二十三年度の運用について、幅広く意見を伺ったところです。
多くの委員から、情報公開の必要性は認められるものの、手数料や事務の負担が重い、公表内容が複雑で利用しづらいなどから、現行制度を早急に見直してもらいたいとの意見がありました。
このため、こうした意見を踏まえ、平成二十三年度においては、既に調査を受けた二十二年度の情報を引き続き公表し、現行方式による調査の実施や手数料の徴収は行わないこととし、現在、関係者の理解と協力が得られるよう調整に努めているところです。
次に、お尋ねの本県独自の介護サービス水準の保持向上に向けた取り組みと介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保については、介護保険制度を運営する上で、いずれも全国共通の問題でありますことから、制度設計を担当する国の責任において適切に検討されるよう、国に対し要望してまいりたいと考えております。
(2)森林づくりについて
山口県では、「やまぐち森林づくりビジョン」が平成十六年に策定され、森林・林業の抱える課題に確実に取り組まれてきています。
この「やまぐち森林づくりビジョン」は、将来を見通して、本県の森林づくりについての基本的な考え方を明確にし、目指す方向を具体的に示したもので、森林政策の指針となる、まことに立派なビジョンであります。
このビジョンは、「未来へ引き継ぐ、みんなで育む豊かな森林」を基本理念として、百年先を見据えた山口の森林づくりに取り組んでいくことを提唱しております。
ビジョンが策定され、はや七年が経過しようとしており、やまぐち森林づくり県民税を活用した森林整備事業も積極的に推進されてきているところであります。
また、近年、県民の森林に対する関心、認識も非常に高まってきておりまして、ビジョンの基本理念にある「みんなで育む」の精神に呼応するかのごとく、県下各地で、森林ボランティア、竹林ボランティア等のグループが森林・環境問題をテーマに活動しています。
そうした中、平成二十二年度より森林づくり活動支援事業として、森林ボランティアの団体、NPO等に活動費の助成がされるようになったことは、大変評価できるものであります。
そこで、まず第一に、この森林づくり活動支援事業についてお聞きいたします。
森林ボランティア団体等の多くは、会員が会費を払いながら活動しているのが実態の任意団体でして、活動のための資材費等の捻出にも苦労していますことから、県や市からの助成は、活動の充実を図る上で大いに役立っています。
ただ、このような活動は、長期間活動を継続することによって成果があらわれてくるものでありますことから、森林づくり活動支援事業については、単年度一回限りとせず、複数年の助成も検討されていいと考えますが、御所見をお伺いいたします。
第二としまして、モデル森林づくりについてお尋ねいたします。
森林づくり県民税を使って、間伐による公益森林整備事業や竹繁茂防止対策事業が県下各地で実施されていますが、これらの整備事業は、マイナス状態を解消する事業であります。私は、一方でプラス状態をつくり出すモデル森林づくりへの取り組みがあっていいと考えます。
そこで、これまで推進してこられた「やまぐち森林づくりビジョン」が目指す百年先を見据えた森林づくりを、具体的に体感、実感できるモデル森林づくりへの取り組みを提案したいと考えます。
現在、森林づくり県民税を使って間伐を行う公益森林整備事業や竹繁茂防止対策事業をやったら、こうなりますよという意味でのモデル林は県内各所にありますが、これが百年先を見据えた森林づくりのモデルですよというのは見当たりません。
百年先を見据えたモデル森林といっても、森林がある地域の地理的条件、地質、気候、植生等の自然環境や、その森林にどういう役割を期待するのか等々のことにより、さまざまなモデル森林図があろうと思います。
例えば、現在山口市徳地では、森林セラピー基地としての整備に力を入れており、多くの方が訪れています。自然の状態の森林ではあるが、単なる公園や森林公園では味わえない空間。林内に入って、見て、触って、いやしを感じられ、抽象的ではありますが、心が豊かになる、夢を持てるような、そのような森林づくりを目指すことも、百年先を見据えたやまぐちの森林づくりの一つではないでしょうか。
そうした例も含め、「やまぐち森林づくりビジョン」が目指すモデル森林の具体像を実現した森林づくりに取り組むことは、目に見える形で森林づくりの指標、模範を示すことになり、その意義は大きいと考えます。
ついては、以上申し上げましたモデル森林づくりに、県内に適地を求め取り組むべきと考えますが、御所見をお伺いいたします。
第三に、広葉樹林対策についてお尋ねいたします。
これまで、森林づくり県民税を使っての森林整備は、スギ、ヒノキの人工林を主体に施業が実施されてきていますが、山口県の人工林率は四四%と全国平均でありまして、まだまだ広葉樹林が広く残っています。
先日、近隣の広葉樹林を視察いたしました。六十年ないし七十年生の広葉樹林だったと思いますが、幹の径は三十センチないし四十センチで、樹高二十メートル以上もあるような常緑樹、落葉樹が茂っていました。
地表を見ると落ち葉も少なく、草木は何も生えていません。以前、スギ、ヒノキの間伐手おくれの森林を見たときと全く同じ状況でした。案内をしてくれた方の話を聞きますと、「スギ、ヒノキの針葉樹の人工林の荒廃も問題であるが、広葉樹林、特に常緑の広葉樹林の高齢林化した森林も、放置された針葉樹の人工林の場合と同様に地表の植生は全く見られず問題だ。一雨降れば一気に雨水が流出する状況だ」とのことでした。視察した現地でも表土が流出し、根が洗い出されているところがありました。
以前は、パルプ用材、薪、木炭等の燃料としてこのような広葉樹は多く利用されていましたが、現在は古紙のウエートが高くなり、また、輸入材のウエートも七○%と高く、国産パルプ用材の需要が激減しておりまして、国内の広葉樹林は高齢林化していく一方であります。
現在、全国的に問題となっているナラガレ病――カシノナガキクイムシの被害も古くなったコナラが原因だとも言われています。隣の島根県でも、かなりの被害が出ているようで、本県への影響も懸念されます。
そこでお尋ねであります。森林づくりビジョンが目指す、百年先を見据えた森林づくりを進めていく上においては、このような高齢林化した広葉樹林の再生も含めた森林整備が必要ではないかと考えますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、森林づくりに関するお尋ねのうち、百年先を見据えたモデル森林づくりについてお答えいたします。
県土の七割を占める森林は、木材の生産や水源の涵養、県土の保全、保健休養などの機能とともに、近年、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収源としての役割など、県民の暮らしや産業を支える多面的な機能を果たしております。
一方で、木材価格の長期低迷や農山村の過疎化、担い手の減少や高齢化など、森林・林業を取り巻く厳しい経営環境を背景に、間伐などの手入れが行き届かず、スギやヒノキの人工林の中には荒廃するものが増加をし、また、全国有数の面積を有する竹林の繁茂により、森林の持つ多面的な機能の発揮が懸念される状況になっております。
このために、お示しがありましたように、平成十六年三月に、百年先を見据えた健全で豊かな森林を県民の皆様と協働ではぐくみ、県民共有の貴重な財産として次世代に引き継ぐための指針である「やまぐち森林づくりビジョン」を公表し、そのビジョンの中で、「水と緑を育む森林」や「循環利用される森林」など四つの態様に区分をし、その保全や整備の方向性をお示しをしたところであります。
また、このビジョンをもとに、平成十七年度から全国に先駆けて森林づくり県民税を導入し、荒廃した人工林の再生等に取り組みますとともに、木材の利用を通じた森林の整備を促進するために、平成十七年十二月から実証実験を開始した森林バイオマスエネルギー利用システムの具現化や、翌十八年度から、県産木材利用促進制度の導入を行うなど、本県の豊かな森林づくりを進めるための具体的な取り組みを進めてまいりました。
この結果、県民税関連事業の公益森林整備事業の施行地では、間伐等の手入れがされず荒廃していた人工林が、今では下草が生え、広葉樹が回復しつつあるなど、年々豊かな森林環境に変わってきている様相を、県民の皆様にも見ていただくことができるようになっておりますし、木材利用の面では、バイオマス利用で年間三万トンの利用体制が構築をされますとともに、住宅分野での利用も促進をされ、本県の森林の再生と森林整備につながる仕組みづくりを進めることができたと考えております。
したがいまして、私は、この取り組みを着実に進めることで、百年先の豊かな森林づくりが確かなものとなると考えておりますので、県内市町や森林組合など関係団体とも連携をしながら、県内の森林すべてを、いわばモデル森林としてとらえて、その特性にあわせた保全や整備を適切に進めていきたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。
【回答】◎農林水産部長(藤部秀則君)
森林づくりについての数点のお尋ねのうち、まず、森林づくり活動支援事業についてのお尋ねにお答えします。
本事業は、森林ボランティア団体やNPO法人、自治会等を対象に、身近な竹林の整備など森林の整備に必要な資機材などを助成する事業として、平成二十二年度から実施しているものでありまして、今年度は十九団体から応募があり、森林づくり推進協議会の意見もお聞きして審査した結果、いずれも基準を満たしていたことから、この十九団体に助成しているところであります。
本事業は、貴重な財源である森林づくり県民税を活用して、県民の皆様の森林づくり活動への参加を広く促すものであり、限られた財源の中、できるだけ多くの団体に取り組んでいただくために、基本的には、助成は五十万円を上限として一団体一回としているところであります。
しかしながら、森林ボランティア団体は、規模や活動内容がさまざまであることから、各団体の実情に応じた取り組みができるよう、助成限度額五十万円の範囲内で複数年にわたった取り組みについても柔軟な対応を図っているところであり、今後とも活動団体の実情等も踏まえながら、効果的な運用方法について検討してまいりたいと考えております。
次に、広葉樹林対策についてであります。
本県森林面積の約四割を占める広葉樹のほとんどは、自然の力によって成立した天然林であるため、おのずから地域に適した多様な樹種から構成され、気候・地形・地質・土壌といった、現地の自然環境への適応力が高い森林となります。
このため、県としては、このような自然の力にゆだねられて成立した広葉樹天然林については、基本的には、人の手による人工的な整備ではなく、その植生を自然に推移させる、いわゆる天然更新による管理が適切と考えております。
なお、お示しのあった現地のように、荒廃し、土砂流出など災害発生のおそれのある広葉樹林のケースは、余り多い例ではないと考えられますが、そのような事例があれば、地権者の同意を得ながら保安林の指定を行い、保安林整備事業などを実施することにより、適切な整備や保全に努めてまいります。
(3)花粉交配用ミツバチの確保対策について
数年前、「Fruitless Fall」という本がアメリカで出版されて話題を呼びました。フルートは果物を、フォールは季節の秋を意味しますので、「フルートレス フォール」は、直訳すれば、「果物なき秋」ということで、「実りなき秋」ということになるでしょう。
この本は、日本では、「ハチはなぜ大量死したのか」という邦題で翻訳出版されています。
著者は、ローワン・ジェイコブセンというジャーナリストで、農薬使用への警鐘を鳴らした古典的な著書、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」と対をなすこの本は、ミツバチのいなくなった世界を端的に表現し、そのことを通して今日の世界に警鐘を鳴らしています。
テレビでも幾たびか報道されたのを見られた方もおありと思いますが、二○○七年ごろから我が国を含めミツバチの減少が世界的な傾向としてあり、農作物の生産に深刻な影響を与えています。
御案内のように、ミツバチはハチみつをつくるだけではなく、花粉交配という野菜や果物が実るために不可欠な大事な働きをする昆虫であります。
ミツバチが直接つくるハチみつやローヤルゼリー等の国内総生産額は、一九九九年のデータでは七十二億円であります。
一方で、ミツバチが花粉交配に貢献する農作物の総生産額は三千四百五十二億円であります。実に五十倍近くも開きがあり、ミツバチの働きぶりはハチみつ以上に野菜や果物に影響を及ぼします。
お配りした参考資料に、ミツバチを利用する主要農作物一覧を載せてありますが、多くの野菜や果物で花粉交配でミツバチが貢献していることが、おわかりのことと思います。ミツバチが減ると、こうした農作物の生産に支障が生ずるのであります。
日本で最もミツバチが利用されているのはイチゴ栽培で、我が国では約十万群の花粉交配用のミツバチが飼われていますが、その半分は、ハウス内でのイチゴ栽培に使われています。ここでいう群とは、一匹の女王バチとたくさんの働きバチと、それにわずかな雄ハチで構成されるミツバチの集団のまとまりのことであります。
我が国では、一九八○年ごろから、蜜源となる花や樹木の減少や養蜂家の高齢化などにより、花粉交配用ミツバチは穏やかな減少傾向にありました。それが、二○○八年秋から急激に減少しています。この最大の理由は、女王バチの輸入ストップであります。
実は、我が国で養蜂農家に飼われているミツバチはニホンミツバチではなくセイヨウミツバチなのであります。セイヨウミツバチが、業としての養蜂には向いているからであります。
ハチを生むことができるのは、雌バチでも女王バチだけで、あとの雌バチは、働きバチとして働くだけであります。そのセイヨウミツバチの女王バチを我が国は主にオーストラリアから輸入していましたが、そのオーストラリアのミツバチにノゼマ病という伝染病が発生したため、二○○七年十一月以降、それが一切不可能となったのであります。
加えて農薬によるハチ群の被害やミツバチヘギイダニというダニの寄生による働きバチの減少などが、ミツバチ減少の主な理由として考えられているようであります。
また、世界的に生じている蜂群崩壊症候群――CDDと言われていますが、蜂群崩壊症候群という現象が我が国でも生じています。蜂群崩壊症候群というのは、ハチの群が、女王バチとわずかな働きバチを残して消失してしまう現象であります。
こうしたことから、ついに二○○九年四月、日本国内でその花粉交配用ミツバチが不足する事態となりました。
花粉交配用のミツバチは、花蜜採集用のミツバチとは別に数えられていまして、その数は二○○八年の統計で約十万二千群であります。この数は、前年比で一○%減っています。それが、二○○九年の春になりますと、二○○八年より事態は深刻となり、ミツバチを飼っている養蜂農家は、この花粉交配用ミツバチを十分に用意できませんでした。
花粉交配に活躍する昆虫のことをポリネーターといいますが、ミツバチにポリネーターとして働いてもらわなくてはならない農家にとって、このことは大きな打撃でありました。
千葉県の農業団体が、農林水産省を訪ねて、当時の石破茂農水大臣に対策を要望したのは、こうしたときでありました。石破大臣は、それを受け、記者会見で「生産者の立場に立って、全力を挙げて取り組む」と表明。この大臣表明を受けて、農水省は、ミツバチの需給調整システムを立ち上げ、また、花粉交配用ミツバチの安定的な確保のための緊急支援事業として、蜜源になる植物の作付の支援や女王バチ増殖機材の購入支援等の予算として、各都道府県に上限二千万円の補助を行ったのであります。
以上は、吉田忠晴玉川大学教授著「ミツバチの不足と日本農業のこれから」からの要点の引用紹介であります。
私は、山口市の養蜂農家から、この本に書かれているミツバチ不足や蜂群崩壊症候群という現象が、本県でも生じていることを知らされました。そして、ミツバチの不足が、本県農業の振興、山口県の食料自給率向上の行動計画にも係る大きな問題であることに思いが至った次第でありまして、以下このことに関し、県の対応について四点お伺いいたします。
その第一点は、本県の花粉交配用ミツバチの確保対策についてであります。
本県においても、花粉交配用ミツバチの確保は、特に施設園芸農家にとって不可欠と思いますが、その確保のためどういう対策をとっておられるのか、まずお伺いいたします。
第二点は、養蜂農家や施設園芸農家への助成についてであります。
養蜂農家は、飼っているミツバチをハチみつ採集で使った場合は、一群で四ないし五万円の売り上げになるようであります。これを花粉交配用に施設園芸農家に貸し出した場合は、十月下旬から翌年三月までのワンシーズン貸し出した場合、本県では一群二万円のようであります。
この貸出料は、他県と比べると安いようですが、本県の施設園芸農家の生産コストを低く抑えるために、そうした価格の設定になっているようであります。
養蜂農家からすれば、花粉交配用に貸し出した場合は、安い上に、七ないし八割のハチが損傷して割が合わないとの思いがあるようです。しかし、花粉交配用のミツバチの貸出料が高くなれば、施設園芸農家が困る事態となります。
そこで、養蜂農家が花粉交配用にミツバチを貸し出した場合、単市で養蜂農家に補助している市も県内にはあるようであります。ただ、こうした場合、問題なのは、市外の施設園芸農家から要請があったとき、それにこたえても補助対象にならないということであります。
よって、養蜂農家も一定の利益が確保されるが、施設園芸農家の花粉交配用ミツバチ使用の費用も極力抑制できるような助成の仕組みを、養蜂農家支援・施設園芸振興の観点から県と市町が連携して、全県的な仕組みとして創設することが望ましいと考えます。つきましては、このことにつき御所見をお伺いいたします。
第三点は、女王バチの育成についてであります。
さきに紹介いたしましたように、我が国におけるミツバチ減少の最大の理由は、女王バチが輸入できなくなったことでありまして、その対策として、女王バチを国内で育成、生産する取り組みが重要になってきております。
本県では、美祢にあります畜産試験場で、女王バチの育成に取り組んでいたのを、数年前にやめたように伺っておりますが、私は、これを復活し、さらに女王バチの人工授精による生産にも取り組み、山口県は、女王バチの国内における供給県になることを目指すべきだと考えますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
第四点は、蜜源となる樹木の計画的植栽についてであります。
ミツバチの飼育支援のためには、街路樹等において、ミツバチの蜜源となる樹木を計画的に植栽していくことが必要と思われますが、こうした取り組みにつき御所見をお伺いいたします。
以上で一回目の質問を終わります。
【回答】◎農林水産部長(藤部秀則君)
次に、農業問題について、花粉交配用ミツバチの確保対策に関する数点のお尋ねにお答えいたします。
まず、花粉交配用ミツバチの確保対策についてであります。
平成二十年度に、病気によると思われる働きバチの減少等により、全国的なミツバチ不足が懸念されたことから、本県では、平成二十一年四月以降、県と養蜂農協、JA、園芸農家が連携して、需要と供給の調整を適切に進めているところであります。
この結果、園芸農家の要望に応じて、毎年度八百群以上が供給されるなど、イチゴ、メロン等の花粉交配用ミツバチは、十分に確保されております。
次に、養蜂農家や園芸農家に対する支援についてであります。
本県では、関係者の努力により、花粉交配用ミツバチが安定的に確保・供給されていることなどから、養蜂農家や園芸農家に対する直接的な支援や、市町と連携した新たな制度の創設は考えておりませんが、引き続き、養蜂農協やJA、園芸農家の要望などを踏まえ、ミツバチの需給調整や、農薬による事故防止、環境に適した管理方法、さらには、花粉交配が必要なイチゴ栽培施設の整備などを通じた支援等を適切に実行していくこととしております。
次に、女王バチの育成についてであります。
本県では、平成三年度以降、養蜂農協の強い要望を踏まえ、優良な女王バチの系統を選抜して養蜂農家に供給する事業を実施してきましたが、平成二十一年二月に養蜂農協が本事業の中止を決定したことに伴い、十八年間実施してきた事業を廃止し、女王バチの供給を取りやめたところであります。
現在は、養蜂農協みずからが女王バチの育成に取り組んでおり、県としては、女王バチの作出技術講習会の開催や、育成技術指導などを通じて、ミツバチが適正に確保・供給されるよう努めてまいります。
次に、蜜源となる樹木の計画的な植栽についてであります。
ミツバチの蜜源となる花の咲く樹木を街路樹として植栽することは、道路の維持管理上難しい点もありますが、森林づくり県民税事業による竹林伐採跡地などに、地元住民やボランティア団体、養蜂関係者等が広葉樹の植栽を行う場合や、緑化基金を活用して、公共・公益施設への緑化木の無償提供を行う場合において、ヤマザクラ、クリ、トチノキ、ユリノキ等、蜜源となる樹木の植栽を働きかけるなど、養蜂農家の蜜源対策に配慮してまいりたいと考えております。
介護サービス情報の公表制度の見直しについてでありますけれども、私は、この介護保険法は、この平成十八年の改正時に、この公表制度が導入されたことによって制度に魂が入ったというふうに見ております。
このたび平成二十四年度に行おうとしている改正は、その介護保険制度の魂のところをまた抜くような改正だなと感じているところであります。先ほどの部長答弁におきましても、懸念の意が示されたところであります。
現在、政権与党であります民主党は、「国民の生活が第一」を標榜されていますね。自民党は、「国民政党」を標榜しておりますし、公明党は「福祉の党」でありますね。共産党は、「庶民の味方」ですかね。社民党は、「暮らしと安全」と、そういうことであろうかと思いますが、そういう掲げる旗印が本当であれば、こういった間違った方向への介護保険法の改正の動きは、それをさらに見直すように働きかけていくべきではないかと思っているところであります。
先ほどの部長答弁で、昨年十一月に国が意見を聞いたときに、山口県の考え方は伝えたということでありますが、県におかれましても、県民生活をあずかる現場にある者として、この情報公表制度がよりよいものになっていくように国に対して引き続き要望していかれることを要望いたしまして、私の質問を終わります。