平成21年6月定例県議会 (1)難病患者のショートステイについて

(1)難病患者のショートステイについて

同僚県議でありました久保田后子さんが、宇部市長選に立候補いたしまして、見事当選を果たして山口県初の女性市長が誕生することは、まことに喜ばしいことでありますが、おかげで一人会派になりました新政クラブの合志でございます。通告に従い、早速一般質問を行います。
「この呼吸器を外して、一緒に死んでしまおうか」そんな気持ちに一瞬なることがあったと、奥さんは述懐されました。
この方の御主人は、平成十二年にALSが発病しました。ALSは、筋萎縮性側索硬化症と言いまして、病状が進むと呼吸困難に陥るため、人工呼吸器の補助が必要となる難病であります。
発病の翌年、当時の県立中央病院で気管切開、人工呼吸器装着等の医療措置を行い、その後、柳井病院に七カ月ほど入院して、平成十三年の十二月から在宅での療養を開始されました。
在宅療養は、家族に精神的にも、体力的にも大きな負担を強います。それでも、よくなる見通しがあれば励みにもなるでしょうが、難病の場合はそれも期待できません。
「お父さんも、よくなるわけではないし、いつまでこの状態が続くかわからない」奥様が在宅療養の御主人を見ながら、つい、そういう思いに駆られて、死んでしまいたいという絶望的な気持ちになられることがあったであろうことは、想像にかたくありません。
それでも、この奥様は頑張られて、平成十九年五月に御主人が亡くなられる直前まで約六年半、家で御主人を見られました。その上で、大きな支えになったのは、山口市にある身体障害者療護施設N園が、一月ないし二月に一度、二泊三日のショートステイを受け入れてくれたことでした。これがなければ、二人は、心中しておったかもしれないと、その奥様は語っておられました。
そして、「家族に難病の方がおられるところは大変と思うので、よろしくやってくださいませ」とお願いされました。
以上は、難病の主人を家で見られたSさんという方をお訪ねして、いろいろお話をお伺いしたときのことであります。
このときのことを思い起こし、今回で三回目になりますが、分権時代における県医療福祉行政の役割という観点から、改めて難病患者のショートステイについて質問いたします。
この質問の発端は、平成十九年の九月県議会で、障害者自立支援法についての質問を行うに当たり、障害者施設を訪問して実情を聞いて回ったときに、N園から難病患者のショートステイ事業を継続していくことに苦慮している旨の話を聞いたことであります。
医療ケアを必要とする難病の方のショートステイは医療機関でということに制度上なっているが、実際はショートステイは福祉の領域だということで、医療機関が受け入れないので、身体障害者療護施設であるN園に難病の方のショートステイ受け入れの要請が来る。その場合、看護師の配置を通常より強化して医療ケアもできるようにして受け入れてきた。難病の方をショートステイで受け入れた場合、医療機関での対応も、福祉施設での対応も医療的対応の中身は同じであるが、福祉施設の場合は医療ケアのための経費が評価されないため、医療機関と福祉施設とでは報酬単価に大きな差があり、施設経営上難病患者のショートステイ事業を継続すべきか苦慮しているとの趣旨の話でありました。
この話を聞いて、これは国の制度上の不備であり、それを補完するのが県政の役割であるとの観点から、難病患者のショートステイ報酬の、医療機関と福祉施設の差額分を、県で助成するよう求めたのが、このことに関しての第一回の質問でありました。
この質問に対しての部長答弁は、報酬単価の設定は、制度の根幹にかかわることから、国において検討されるべきものであり、県独自の助成は考えていないというものでありました。
再質問で、国の制度を補完するということでの知事見解を求めましたが、特に県として補完しなければならない政策ではないとの答弁でした。そこで、再々質問で、鳥取県が医療的ケアを必要とする重度障害児(者)のショートステイを、郡部地域において老健施設が受け入れた場合、福祉施設との差額分を助成する制度を創設した事例を紹介し、県の前向きの対応への期待を込め、要望で質問を締めくくりました。
難病患者のショートステイを一般質問で二回目取り上げたのは、昨年の十二月県議会でした。このときは、前回の質問時における、報酬単価は、国において検討されるべきものであり、県独自の助成は考えていないとの部長答弁を踏まえ、県は国に対し制度改正を要請すべしとの趣旨で質問いたしました。
制度改正の内容は、障害者療護施設が、看護体制の強化により医療ケアを伴う難病患者のショートステイを受け入れるケースを、ショートステイ事業の中に正式に位置づけ、それが可能な報酬単価の設定を求めるものでした。
この質問に対する部長答弁は、自立支援制度においては、人工呼吸器を使用されているなど医療の必要性の高い場合は、医療機関のショートステイで対応することとされていることから、お示しのようなサービスの位置づけや報酬の改定について、改めて国に要請することは考えていないというものでありました。
この答弁には、残念な思いがいたしました。財政事情が厳しい中、県独自の助成は困難としても、現状認識や課題解決に向けての思いは共有しており、当然に国に対する働きかけには賛同してくれるものと期待していたからであります。
私は、県政の重要な役割は、県民の暮らしや地域づくりの根幹にある国の政策の現場検証であり、そのことを通して実情に合わないところは改めるよう国に働きかけ、国ができないことは補完して、県民の暮らしと地域づくりがよくなるようにしていくことであると考えております。
このような県政の役割は、地方分権が大きく進行している現在、一層高まっており、地方の現場の視点から国の政策形成に積極的にかかわり、参画していくことが、今日の県政には求められているのではないでしょうか。
そこで、このたびは、そうした観点から本県の医療福祉行政が、難病患者のショートステイ制度の改善に向けて役割を果たしていくことを期待し、私なりの現場検証に基づき、難病患者ショートステイの現状認識や課題等について御所見をお伺いいたします。
その第一は、医療ケアを必要とする難病患者のショートステイを受け入れる医療機関がないという現状認識についてであります。
自立支援法では、医療ケアを必要とする短期入所――ショートステイのことでありますが、医療ケアを必要とする短期入所は医療機関でということになっており、医療型短期入所事業所の指定を受けた医療機関が、受け入れることになっています。本県で、この事業所指定を受けているのは、山口宇部医療センター――旧山陽病院であります。この山口宇部医療センターと、重症心身障害児施設である鼓ケ浦整肢学園の二つでありますが、鼓ケ浦整肢学園は受け入れを休止しており、山口宇部医療センターも難病患者の一般のショートステイは受け入れていません。
県の医療福祉行政上は、医療型短期入所事業所の指定で、難病の方々のショートステイ受け入れの環境を整えたということになっているのでしょうが、実際はそれが機能していなくて、なきに等しいというのが実情であります。こうした現状についての認識があるのか、まずお伺いいたします。
第二は、在宅療養をしている難病患者のショートステイ先を、医療機関に限定する必要はないということであります。
難病の症状が重くなって、在宅療養では対応できなくなれば、当然に医療機関への入院となります。ショートステイは、基本的に在宅療養の代替であることから、難病の場合も、家での療養と同等の医療ケアを提供できるところであれば、必ずしも医療機関でなくても、受け入れは可能と考えます。このことにつき御所見をお伺いいたします。
第三は、ショートステイには、スポット的なものと定期的なものと二通りありますが、定期的な難病患者のショートステイ受け入れの必要性についてであります。
法事がある、結婚式がある等のスポット的な事情や緊急事態に対応して医療機関が、緊急入院という名目で難病の方を短期に受け入れることはあるようです。
そこで、難病患者のショートステイも、スポット的な面はどうにかクリアできていると思われますが、未解決の切実な課題として、定期的なショートステイ受け入れ先の確保があります。
さきに、医療ケアを必要とする難病患者のショートステイを受け入れる医療機関がないと申し上げましたが、実態を踏まえて正確に言えば、難病患者を定期的にショートステイで受け入れる医療機関がないということであります。
まことに、難病患者のショートステイ問題の核心は、実にこの一点にありまして、最初に紹介しましたSさんも、一月ないし二月に一度、定期的に受け入れてくれる施設があったから、難病の御主人を在宅で見続けることができたのであります。
そこで、お伺いいたします。県は、難病患者の定期的なショートステイ受け入れ先の確保が必要であり、そのことが政策課題としてあることを認識しておられるのか、御所見をお伺いいたします。
第四は、身体障害者療護施設は、看護機能を強化すれば、難病患者の定期的なショートステイ受け入れ先になり得るということであります。
医療ケアが必要な難病患者の定期的なショートステイを、医療機関が受け入れない現状にあって、医療機関にかわる受け入れ先として向いていると思われるのは、身体障害者療護施設であります。なぜなら、難病の方は身体に障害を生じて身体障害者療護施設にお世話になっているケースが多いからであります。
このような身体障害者療護施設は、ショートステイ時に医療ケアのための看護体制を常時とれるよう、看護師の配置を行うことができれば、十分難病患者のショートステイ受け入れは可能であり、定期的な受け入れ先になり得ると思われますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
第五は、身体障害者療護施設の中で、特に難病障害者受け入れの整備をした施設についてであります。
国は、平成十年度から身体障害者療護施設が、ALSによる難病障害者を受け入れることができるよう、体制整備を進めてきております。
身体障害者療護施設は、入所者が五十人規模の場合は、非常勤の嘱託医師が一名、常勤の看護師が三名いて、常時医療ケアを行っているわけではありませんが、必要が生じたときは、医療ケアができる体制になっていまして、入所者の健康管理と介護・生活支援を行っています。
国は、この施設にALS等の障害者のための人工呼吸器や喀痰吸引器――痰の吸引器でございますね、喀痰吸引器等の特殊な設備を備えた専用居室の整備を図ることとしたもので、本県では、国のこの方針を受けて整備された施設が二施設ありますが、実はSさんの御主人を受け入れたN園はその一つであります。
私は、こうした施設が、医療ケアを必要とする難病障害者を受け入れるケースを、自立支援法の短期入所(ショートステイ)の報酬単価区分の中に正式に位置づけて、通常の施設運営より看護師配置を強化した分を評価した報酬設定を行うことが、難病患者の定期的なショートステイ確保対策として、最も現実的で望ましい施策であると考えますが、御所見をお伺いいたします。
第六は、障害者福祉サービス報酬改定における医療連携体制加算についてであります。
国は、障害者自立支援制度の見直しに当たり、平成二十一年度の障害者福祉サービス報酬の改定においては、「医療連携体制加算」を新たに設けました。
これは、児童デイサービス、短期入所(ショートステイ)であります、共同生活介護、自立訓練、就労移行支援等において、医療的なケアを要する者に対し、医療機関との契約に基づく連携により、当該医療機関から看護職員の訪問を受けて提供される看護について評価を行うこととしたもので、利用者一人の場合、日に五千円の加算が認められることになったものであります。
東京都台東区に、「たいとう寮」という障害者の共同生活援助・共同生活介護のためのケアホームがあります。台東つばさ福祉会という社会福祉法人の施設ですが、ここでは、医療ケアを必要とする重度障害者や難病の方々のショートステイを予約制で受け入れています。その場合は、もちろん看護師がついているわけですが、その看護師の人件費を区が、台東区が見ていました。
こうしたケースが、医療連携加算では評価されることになったわけであります。
このことは、一歩前進ということで喜んでいいのですが、残念なのは、医療連携体制加算が認められるのは、ケアホーム「たいとう寮」のように、指定基準上、看護職員の配置を要しない施設ということになっていて、Sさんの御主人を受け入れたN園のような身体障害者療護施設は、対象になっていないことであります。
先ほど述べましたように、身体障害者療護施設は、必要に応じて医療ケアができるように看護職員の配置基準が定められています。こうした施設は、医療連携体制加算の対象になっていないのであります。この施設が難病の方をショートステイで受け入れるには、看護職員の配置を、必要に応じての医療ケアから常時の医療ケアへと、通常の場合よりも強化しなければなりません。
私は、このように、看護職員を配置している施設が、正当な事由から通常管理の場合に、より看護職員の配置を強化した場合も、医療連携体制加算の対象にすべきと考えますが、県の御所見をお伺いいたします。
第七は、以上の現状認識と課題把握に基づく、国への働きかけと県の補完施策についてであります。
県の要望として、国に働きかけていただきたいことは、これまでのお尋ねの中で述べていることですが、次の二点であります。
一つは、医療連携体制加算についてでありまして、看護職員を配置している施設が、正当な事由により看護職員の配置を強化した場合も、この加算の対象にするよう要望するということであります。
二つ目は、国の方針を受けてALS等の難病障害者を受け入れることができるよう施設整備した身体障害者療護施設が、難病障害者をショートステイで受け入れた場合は、短期入所の報酬単価区分の中に準医療型として正式に位置づけるか、医療型短期入所に含めるかして、評価するように求めることであります。
県が、補完施策として行うべきと考えますのは、これらの要望が自立支援制度の報酬見直しで実現するまで、関係市町と連携して、障害者療護施設が難病障害者をショートステイで受け入れた場合、医療ケアに伴う経費増分を助成することであります。
このたびの質問で、幾らかくどいと思われるほど、種々お尋ねしているのも、要は、今申し上げました国への要望と、県の補完施策の実現を求めて、実情を踏まえて言葉を尽くしている次第でありまして、このことにつき御所見をお伺いいたします。
以上で、一回目の質問を終わります。
【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、難病患者のショートステイの現状認識についてお答えをいたします。
難病は、原因不明で治療法がいまだ確立をされておらず、長期にわたる療養を要しますことから、患者本人のみならず、その家族にとりましても、介護や精神的な面において負担は大きいものであると認識をいたしております。
このため、県といたしましては、難病患者やその家族の不安を和らげ、安定した療養生活が確保できるよう、健康福祉センターを中心に、関係機関からなるネットワーク会議を開催しながら、家庭訪問による相談援助や患者・家族交流会の開催などに取り組んでおりまして、また、経済的な負担軽減を図るための医療費助成を行うなど、支援の充実に努めております。
こうした中、難病患者のショートステイは、在宅療養を支える上で重要なサービスであると考えております。お示しの障害者自立支援法のみならず、介護保険法に基づくサービスなど、多様な制度を活用し、それぞれの患者の状態に応じて総合的に対応しているとこであります。
私は、難病対策につきましては、国において全国的な制度として実施されるべきものであると考えております。これまでも、保健・医療及び福祉関連サービスの充実などについて、全国知事会等を通じて要望しているところであります。
今後とも、難病対策につきましては、福祉分野や医療分野での制度的な見直しが必要であると考えております。難病患者やその家族の生活の質の向上が図られるよう、国に必要な働きかけを行いますとともに、市町や関係機関等と連携をして、対策の推進に努めてまいりたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。

【回答】◎健康福祉部長(今村孝子さん)
難病患者のショートステイ先の確保について、数点のお尋ねにお答えいたします。
まず、ショートステイの受け入れ先についてですが、難病には多くの疾患があり、多様な病態がある中で、医療の必要性には個人差が多く、個々の状況に応じた対応が求められております。
こうしたことから、難病患者のうち医療の必要性の低い方は、通常、社会福祉施設等のショートステイを利用されていますが、医療の必要性の高い方については、緊急時に直ちに医師が対応でき、また医療機器が十分そろっているなどの理由から、医療機関において対応されることが必要であると考えております。
次に、定期的なショートステイについてですが、県といたしましては、患者さんや家族の状況に応じて、福祉施設や医療機関のショートステイが適切に利用できることは重要と考えております。障害者自立支援制度や介護保険制度等を活用しながら、受け入れ先の確保に現在努めているところです。
次に、身体障害者療護施設における定期的なショートステイについてです。
この施設は、原則として、常時の介護を要するが医療の必要性は低い障害者を対象とする福祉施設でありますことから、看護体制について一定の強化を図ったとしても、多様な病態がある難病患者の受け入れには、おのずから限界があるものと考えております。
次に、お示しのALS等の専用居室を持つ身体障害者療護施設におけるショートステイについてです。
昨年実施したALS患者の調査では、何らかの医療措置を受けている方は、すべて医療機関のショートステイを希望しておられること、また、介護保険制度等により医療機関が利用できる仕組みとなっていますことから、現時点では、お示しの、自立支援制度における報酬上の評価まで行う必要は低いものと考えております。
次に、医療連携体制加算についてですが、この加算は、看護職員の配置を要しない事業所でも、日常生活における医療ケアに、ある程度対応できるよう設けられたものであり、既に看護師が配置されている施設の看護体制をさらに強化するものとは、趣旨を異にしているものと受けとめております。
最後に、国への働きかけと県の補完施策についてですが、自立支援制度における報酬上の措置等については、本来、制度設計者である国において、施設のあり方を踏まえて検討されるべきものであると考えております。県といたしましては、難病患者やその家族の生活の質の向上が図られるよう、必要な措置については、国に対し要望してまいります。
また、難病患者のショートステイについては、医療や福祉を取り巻く環境の急速な変化の中、医療と福祉の役割分担のあり方、福祉施設における受け入れ機能の強化、人材の確保などの課題がありますことから、県といたしましては、今後、こうした課題を踏まえ、必要な措置について検討してまいりたいと考えております。

2009年6月30日