(1)TPPと本県農業について
県政に携わる者の大事な役割は、地方の現場の視点から、地域と暮らしにかかわりの深い国の政策を検証し、それがより良いものになるよう発言し、行動していくことであります。
そういう考えに立って、この度は「TPPと本県農業について」ということで質問いたします。
ご案内のように、TPPに関しては、これに参加すれば日本の農業は壊滅し、諸制度はアメリカ化されて、日本は崩壊するとのTPP亡国論と、TPPに参加することによって日本はアジア・太平洋地域の成長を取り込み、経済的繁栄の道が拓けるとのTPP成長論があり、この二つの主張は激しく対立していて、未だ、我が国はTPPに関し国論は一つに収斂していない状況にあります。
そうした中、野田総理は、ホノルルAPEC首脳会合出席の前日、11月11日に記者会見し、TPP交渉参加に向けて関係国と協議に入ることを表明しました。事実上、TPP参加の方向を明確にしたものと言えます。
私は、我が国がTPPに参加することについては慎重論であり、どちらかと言えば反対の考えを持っていました。
しかし、TPP交渉参加の方向が明確になった今日、最終的にTPPに参加するかどうかは不確定とはいえ、その可能性は大きいと見なければなりません。よって、そうした現実を踏まえ、県としても、その場合に備えて特に影響が大きいと見られる農業分野において今から必要な施策を講じていくことが求められます。
そのことにつき、以下7項目、県のご所見をお伺いいたします。
質問の第一は、TPP交渉参加についてであります。尚、ここではTPP関係国との協議も、実質的な交渉参加と見做してお尋ねしていることをお断りしておきます。
さて。私は、TPP交渉に参加するに当たって、我が国は、二つの原則的立場を堅持すべきであると考えています。
一つは、これまで貿易に関する国際会議の場で、我が国が主張してきた「多様な農業の共存」という理念を守る立場であります。
TPPは、「例外なき関税撤廃」を原則としており、センシティブ品目ということで配慮を例外的に認める品目についても、一定の猶予期間を経て、全て関税をなくすことを目標としております。
しかし、人口増大による世界的な食糧不足が将来予測される今日、それぞれの国々が、適宜必要な農業生産基盤を確保しておくことは、食糧危機を回避する上からも重要なことであり、「例外なき関税撤廃」の原則は、「多様な農業の共存」という理念が求める実際上の要請に対して、運用上柔軟に対応することを認めるものであっていいと考えます。
その二は、食とくらしの安心、安全を守る立場です。
TPP関係省庁がまとめた「TPP協定交渉の概括的現状」という資料を見ますと、輸入食品の安全性や食品の安全基準については、「現在のところ、牛肉の輸入規制、食品添加物、残留農薬基準や遺伝子組み換え食品の表示ルール等、個別の食品安全基準の緩和は議論されていませんが、今後、提起される可能性も排除されません。」と報告されています。
我が国は、流通する食品の残留農薬に関する制度を、2006年にネガティブリスト制度から、ポジティブリスト制度に切り替えました。ネガティブリスト制度では、指定された農薬だけが規制され、それ以外の農薬は、いわば野放し状態であったものを、ポジティブリスト制度では、指定された農薬は勿論、それ以外の農薬にも全て残留基準の規制が適用されます。
こうした食品安全基準に関する規制の緩和が、TPP交渉では議論される可能性があることを、この資料は示唆していますが、その際、食とくらしの安心、安全を守る立場を堅持して交渉の望むべきであることは当然であります。
そこでお尋ねです。以上TPP交渉参加にあたって、我が国が守るべき原則的立場について私の考えを申し上げましたが、知事は、本県の農業及び県民の食とくらしの安心、安全を守る立場にあるものとして、我が国のTPP交渉参加に対し、どういうことを望んでおられるのかご所見をお伺いいたします。また、そのお考えを、どのようにして国にお伝えになるのか併せお伺いいたします。第二の質問は、農業の6次産業化への取り組みについてであります。
山口市阿東徳佐にある農事組合法人Kは、今年の秋、山口県農業振興賞を受賞いたしました。法人設立は平成19年で、農地面積は37ha、3分の2は、米をつくり、他に大豆、麦、玉ねぎ、白菜、キャベツなどの生産に取り組んでいます。
法人構成員は9名で、年間粗収入は、補助金も含めて約5000万円です。作り手がいなくなった近隣集落の農地も、順次引き受けてきており、徳佐の地域農業を守る中核営農組織の一つとして、着実な歩みと続けております。
私は、先般11月中旬、この法人Kを訪ねました。訪ねた目的は、TPPについてどういう思いを持っておられるか、率直な生の声を聞きたいと思ったからです。また、農事組合法人の実態もよく知りたいとの思いもありました。
この法人の方々が、先ず語っておられたのは、法人が出来て、この地域と農業が守られていく基盤が出来たことの意義でした。また、法人が、コメ、大豆、麦、野菜の生産を、集積した農地を最大限活用する年間計画を立てて行うようになり、村の人たちには、時給ということではあるが周年働ける農事作業があって、賃金が支払われるので、法人化が農家の所得向上につながったことを強調しておられました。
自慢は、「うちのコメは魚沼より、うまい。」ということ、法人の事務所は、メンバーの納屋で、そうしたハード面には極力お金をかけず、将来の投資に備えて利益を蓄積する堅実な農業経営を、K法人は続けております。
以上、K農業法人を紹介したのは、現民主党政権が、農業政策の主要な柱に位置付けた「農業の6次産業化(これは、農業生産の1次と加工の2次と流通サービスの3次を足す若しくは掛けると6次になることからつくられた造語で、農業を生産のみならず、加工、流通サービスも含めたものにしていくことを云う)」を実現していくためには、こうした農業法人において6次産業化への取り組みがなされるようになることが大事で、そのためには、どういう政策が必要か、という視点から6次産業化の政策は検討されるべきと思うからです。
現民主党政権は、昨年3月に策定した新たな「食料・農業・農村基本計画」において、「戸別所得補償制度の本格実施」「農山漁村の6次産業化」「食の安全と消費者の信頼の確保」の三つを、新たな農政の柱と位置づけました。
そして、昨年11月には六次産業化法、正式な法律名は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」ですが、これを国会で成立させ、12月に公布しました。
さらに、政府は今年の10月25日に、TPP参加に対応する施策として「わが国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」を策定しましたが、ここで繰り返し強調されているのも、6次産業化であります。
6次産業化の理論的裏付けになっていると思われるものの一つは、平成17年に行われた国内の飲食費のフローについてのトータルな調査分析です。この調査では、食材として供給された食用農水産物10兆6千億円が、加工・流通を経て最終消費額は73兆6千億円となることが分析結果として示されています。
1次の生産物価格総額が、2次の加工、3次の流通を経て、最終消費額においては7倍強に拡大しています。そこで、1次生産の農業から、2次加工、3次流通の付加価値を取り込む農業に進化して、農業所得の向上確保を図る、これが、農業の6次産業化推進政策の背景にある考えであるといえます。
私は、こうした農業の6次産業化の推進は、我が国の農政の方向として正しく、大いに力を入れていくべきだと考えるものでして、現政権が6次産業化に着目して、農業政策の柱に据えたことは評価するものであります。
ただ問題は、6次産業化を実際担うのは農業法人であろうと思いますが、6次産業化に取り組む農業法人の在り方や、現在ある平均的な農業法人が、6次産業化していくための道筋が、具体的に示されていないということであります。
そこで、私が訴えたいことは、国に頼ることなく、国の政策を待つことなく、本県農業の課題として、TPP参加の可能性等将来を見通した上で、本県農業の6次産業化に取り組んでほしいということであります。そして、私が訪ねたような農業法人が、6次産業化できる具体的な道筋と法人経営の在り方を追求してほしいと思います。
ご承知の方も多いと思いますが、本県には、昭和60年頃から農業の6次産業化に着目し、それを実践して成功している農業法人があります。同じく、阿東徳佐にある船方農場が、それです。
農業の6次産業化を、最初に提唱したとされる今村奈良臣東大名誉教授が、その着想を得たのは、昭和63年、船方農場が、朝日農業賞を受賞した際、同教授が、審査員として船方農場を視察したことがヒントになったのではないかという見方もあるほどです。
昭和60年代から、農業の6次産業化を唱え、悪戦苦闘しながら、それを実践して、1次の農業生産業、2次の加工業、3次のサービス業を、それぞれ独立の事業体としつつ、グループとして統括する形態にして事業経営を軌道に乗せ、現在更に発展を続けている船方農場の歩みは、農業の6次産業化を考える上で、多くの参考事例に満ちています。
私は、先般、船方グループの坂本代表から、同グループの、これまでの6次産業化への取り組みと成果につき説明を受け、その感を深くしました。
そこでお尋ねです。私は、本県の先進事例も参考にしつつ、本県農業の6次産業化に取り組むべきと考えますが、県のご所見をお伺いいたします。
質問の第三は、有機農業についてであります。端的にお伺いいたします。
第一点は、有機農業の技術体系の確立についてお伺いいたします。
本県は、平成19年に「山口県有機農業推進計画」を策定し、平成23年度までに、普通作物で1体系、園芸作物で1体系の有機栽培の技術確立に取り組むこととしました。普通作物は米で、園芸作物はホウレンソウと承知しているところでありますが、計画期限である本年度において、その技術体系の確立はどうなっているのか、お伺いいたします。
第二点は、有機認定の農家数及び圃場面積についてであります。
平成22年度における山口県の有機認定の農家数は9戸、圃場面積は359aであります。これは、47都道府県の中で、いずれも少ない方から2位であります。最下位は、いずれも東京であります。全国平均を見ますと、農家数は85戸、圃場面積は19290aであります。山口県は、全国平均と比較しても、少ない方へ大きくかけ離れています。
こうした数値から見ますと、本県は、有機農業への取り組みに熱心でないとの見方が成り立ちますが、県は、有機認定の農家数及び圃場面積の現状を、どう受け止めているのか、お伺いいたします。
第三点は、今後の有機農業への取り組みについてであります。
農薬や化学肥料を使わない自然循環型の農法である有機農業は、健康な体をつくる安心・安全の農作物を求める消費者ニーズに答えるものであり、環境負荷が少なく、自然環境と調和した永続性のある農業であることから、大いにその普及が図られて然るべきと考えます。
国が、平成18年「有機農業の推進に関する法律」を制定したのを受けて、県は平成19年に「山口県有機農業推進計画」を策定し、その取り組みを進めてきたところでありますが、普及の実は上がっていない感があります。
ついては、今後本県は、有機農業の普及にどう取り組むお考えなのか、お伺いいたします。
質問の第四は、土地改良事業についてであります。
TPPを含む高いレベルの経済連携と農業再生を両立させるというのが、現政権の方針でありますが、農業再生ために強調されているのは、6次産業化であって、農業生産基盤の整備という観点からの具体的政策が伴っていないことは、残念であります。
TPP対応のために10月25日に決定された「農林漁業再生のための基本方針」を見ても、既に区画整備されている水田を、畦畔除去等により更に大区画化を進めるとのことは述べられていますが、水田の汎用化についての言及がないことは納得がいきません。米、野菜、畑作の計画的作付が可能になる水田の汎用化は、農業経営を強化する上において不可欠の生産基盤整備であるからです。
土地改良事業費は、国においても、県においても平成22年度から大幅に減っております。国の予算で見ますと、平成21年度は5772億円であったのが、平成22年度には半分以下の2129億円となっております。
本県予算では、平成21年度は144億円であったのが、翌22年度には、108億円と、3分の1近く減っております。
こうしたことの影響が、本県でも圃場整備事業に取り組んでいるところに及んでおり、当初計画通りの予算が確保できないため、事業の進捗が遅れて関係者が苦慮する事態が生じております。
以上、土地改良事業が現在置かれている状況の一端を申し上げましたが、本当に強い農業をつくるというのであれば、ソフト、ハード両面からの取り組みが必要であり、ハード面での主たる施策となるのが、農業生産基盤を整備する土地改良事業であります。
本県の、土地改良事業の整備目標は、「やまぐち食と緑のプラン21」に示されていまして、平成22年までに圃場整備率85%を達成することであります。
そこで、一点目のお尋ねですが、現時点での圃場整備率はどうなっているのか、お伺いいたします。
次に二点目は、本県の今後の土地改良事業の方針と計画についてお尋ねです。
今後、県は、水田の汎用化や水田区画の拡大等について具体的に整備目標を定めた土地改良事業の方針と計画を策定して、本県の農業生産基盤の整備を強力に進めるべきと考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。
質問の第五は、自給率の向上についてであります。
平成5年に94歳で逝去するまで40年近く世界経済調査会の理事長職にあって、戦後歴代内閣の経済指南番と呼ばれた木内信胤氏の代表的な著作の一つに「当来の経済学」というのがあります。
私が、この本を買い求めたのは昭和55年で、30年ほど前、山口市議会議員になりたての頃ですが、以来折々にこの本を読んでは様々なことで示唆を受けてきました。
この本に、「国民が求める農政の目標は何か」という文章があります。農業のことを考える上で参考になる内容ですので、先ずその一部を紹介したいと思います。
「自給度は、あまり無理がなくて出来る範囲で、成るべく向上して欲しい。」
「少数の優秀な専業農家があることはもちろん非常に望ましいが、日本農業の担い手は兼業農家であっていい。」
「人間は天地の間に身を置き、天然自然の理に従って生きている。その事実をまともに表現しているのが農業だから、これに従事することによって人間は、自然自然に天然自然の道というものを会得して行く。」
「零細な兼業農家が、なお農業を棄てないのは、農業のこのような性質による。だからこれからの日本の農業は、今の兼業農家主体をさらに一歩進めて、〝老若男女を問わず、できるだけ多くの日本国民が、一生のうち、一年のうち、一週間のうち、いくらかは農事に携わる機会を持つ″ということになればいい。」
木内氏は、このような考え方を新しい意味での「国民皆農思想の登場」と呼び、「日本国民が真に求めている農政の目標」は、かくの如きものであるに違いない、との考えを表明しています。
私は、こうした考え方に共感し、日本農業の目標として、その方向に進むことを支持するものです。
国民の多くが、生活の一部に、土に親しむ農を取り込むようになることは、国民の暮らしの在り方が、より健康的なものとなり、国全体としても、健全で落ち着いた国になるように思われるからです。
そして、そうした意味での国民皆農が、我が国の農地を守り、農政の目標である食料自給率の向上にもつながるように思う次第です。
ご案内のように、現在の我が国農政の目標は、カロリーベースで食料自給率40%の現状にあるのを、50%までに引き上げようというものであります。
目下、そのことに向けて様々な諸施策が推進されていますが、私は、そういう施策の一つとして、家庭の食料自給率を高める施策を推進してほしいと思っております。各々の家庭が、少しでも農に携わるようになれば、自ずと家庭の食料自給率は高まるでしょうから、このことは、木内氏の言う国民皆農に通ずる施策の推進であるとも言えます。
先ほど紹介した船方グループ代表の坂本多旦(かずあき)氏は、自らの農業経営に打ち込む一方、農林水産省の農業・農村政策審議会委員として、多年国の農業政策の形成にかかわり、日本の農業はどうあるべきかの課題にも真剣に取り組んでこられました。そして最近、新たな農地利用体系の確立を提言した「日本農業の課題と対応策」というレジメをまとめられました。
このレジメは、農地を、自然的な環境や社会的な環境の視点から、経済的には成立しなくても政策として守るべき「環境農地」と、経営活動としては活用しにくいが兼業及び自給農業に向いている「自給農地」と、農地の面的な集積をはかり経営的に活用できる「経営農地」の三つに分けて、我が国の農業を組み立てていくことを提案しています。
坂本氏ならではの的確な提案で、早く国の農地政策として採用されたらいいと思いますが、この三つの農地の中で、農地を守るために支援と工夫を最も要するのは自給農地であります。自給農地の多くは中山間地であり、そこでの農業の担い手は、ほとんど兼業農家ですが、離農や耕作放棄地が増えていて、中山間地直接支払制度で何とか食い止めようとしているのが現状です。
そこで、坂本氏が想定するように中山間農地の農業の担い手として兼業農家の外に、自給農業を楽しむ一般市民が新たに加わるようにすることは、謂わば国民参加で中山間地の農地を守るようにして行くことであり、家庭の食料自給率を上げ、ひいては国の食料自給率を上げることにもなり、誠に望ましい方向だと思います。
そこでお尋ねです。以上申し上げてきましたことから、食料自給率の向上にもつながる施策として、中山間地の農地において、一般市民が自給農業を楽しむことができる環境の整備に取り組むことを提案したいと思いますが、ご所見をお伺いいたします。
質問の第六は、フードバレーの形成についてであります。
農業を成長産業にすることに、世界の中で最も成功している国はオランダであります。オランダは、農業立国の農業大国であり、米国に次ぐ世界第二位の食料輸出大国であります。そうしたオランダ農業の核になっているのが、ワーヘニンゲン大学を中心とするフードバレーの存在です。
フードバレーは、「農と食のシリコンバレー版」ともいうべきもので、「農と食と健康に関する科学と技術とビジネスの集積地」と理解していいと思います。
私は、このことを平成22年11月県議会で取り上げ、本県農業を成長産業にし、新しい産業集積を実現していくために、フードバレーの形成に取り組むことを提案いたしました。
これに対し、二井知事から「産学公が知恵や技術を持ち寄り、本県のポテンシャルを活かした魅力ある産業の形成を図っていくこと、いわゆるフードバレー的発想が重要であり、私もそのことが農林水産業の成長にもつながるものと考えております。」との答弁をいただきました。フードバレー的発想が重要であるとの認識を表明いただいたことで、この質問も意義があったと思っています。
さて現政権は、農業を6次産業化して成長産業にするとの戦略を打ち出しておりますが、それもフードバレーの形成があって、本格的なものになると思われます。
そこでこの度は、フードバレーの形成について、さらに一歩踏み込んだ具体的な提案をしたいと思います。
私は、本県で新たな産業集積の可能性がある地域は、新山口駅の南部に広がる一帯であるとみております。現在、新山口駅から国道2号線までは市街化しておりますが、国道2号線から南に阿知須のきらら浜に至る一帯は、農業地帯が広がっております。私は、この地域が本県におけるフードバレーの形成地としてふさわしいのではないかとみております。
この一帯は、近くに空港があり、新幹線の駅もあり、道路網も整っていて新たな産業の集積地としては高いポテンシャルを秘めております。
ここに如何なる新たな産業の集積を図っていくかに、大げさに言えばこれからの山口県の将来がかかっていると私は見ておりますが、穀倉地帯が広がるこの一帯は、例えば自動車産業等の製造業の集積地としては相応しくなく、フードバレーの形成地として適地であるとみている次第であります。
平成17年に、小郡町、阿知須町は合併により山口市となりましたので、この一帯はすべて山口市でありますが、山口市は今、商工会議所が中心になって、アクティブエイジングシティ構想の実現に取り組もうとしております。
アクティブエイジングとは、1999年からWHO(世界保健機構)により提唱された取り組みで、健康寿命を伸ばし、すべての人々が、年を重ねても生活の質が低下しないように、健康で安全に社会参加できるよう促すことです。
そういう方向で、山口市を世界一のアクティブエイジングシティにすることを目的に、山口アクティブエイジングシティ構想は策定され、その構想は、山口市の総合計画に盛り込む方向での検討と、もう一つは、この構想が、経団連の「未来都市モデルプロジェクト」に選定されており、日立製作所等経団連会員企業や山口大学、県立大学等を構成メンバーとする協議会で構想具体化の検討が始まろうとしております。
私は、この構想とフードバレーの形成ということはマッチングしており、新山口駅の南から阿知須きらら浜方面に広がる一帯にフードバレーを形成していくということは、農振地域の土地利用計画の見直し等も必要になってくることから、すぐすぐにというわけにはいきませんが、将来に向けて長期展望の中で実現すべきビジョンとして、県・市共同して本格的な検討を始めていいのではないかと思う次第です。
つきましては、以上申し上げましたことを踏まえ、改めて本県におけるフードバレーの形成につき、ご所見をお伺いいたします。
質問の第七は、志ある農業についてであります。
「安全な食べ物という農業の原点に戻ろう。」 秋川実さんが、そう決意して秋川牧園を創業したのは、今から約40年前の昭和47年のことでした。
当時は、昭和40年から始まった海外鶏いわゆる「青い目の鶏」の輸入攻勢で、国内に約千四百軒あった養鶏業者のほとんどが、廃業倒産か下請に追い込まれていました。
秋川さんが、専務理事をしていた養鶏農協も、御多分にもれず、懸命に防戦するも力尽き、昭和42年倒産、以来秋川さんは10年間、負債整理の茨のむしろに座することになります。秋川牧園創業は、そうしたさなかのことでありました。
「あれから40年」は、綾小路きみまろのブラックユーモアの常とう文句でありますが、あれから40年。創業以来、理想の農と食を追求し続けて秋川牧園は、現在年商は40億円を超え、農業の会社としては日本で初めて株式上場し、健康で安全な食べ物の提供を、生産者、消費者と共に実現するリーディング・モデルカンパニーとして、着実な発展を続けております。
以上、山口市仁保にあります会社、秋川牧園を紹介いたしましたのは、農業においても大事なのは、原点の思い、そういう意味での志なのだ、ということをこの会社の歩みから感じたからであります。
「食は、命なり。」「食正しければ、命正し。」と言われますが、正しい食事が、健康な人づくり、健康な地域づくり、健康な国づくりの基本で、そのことは健康な体をつくる食料の生産から始まります。
戦後、国民を飢えさせないために食料増産を課題としてきた日本農業の、これからの課題は国民の体を健康にする農業への進化であります。」
私は、そういう意味でこれからの日本農業は、「健康な体をつくる食料の生産と流通を実現する。」との志に立ち、そういう農業として世界一になることを目指すべきだと考えます。
そういう日本農業は、たとえTPPに参加することになろうとも、日本国民の支持を得て守られ、世界の中で成長発展していくものと確信します。
勿論、志ある農業も、技術と経営が伴って成り立つものですが、経済的利益が先立つのではなく、志が先立つことが重要だと思う次第です。
「食料増産の農業から、健康な体をつくる農業へ。」「儲かる農業から、志ある農業へ。」、こうした方向で本県の農業が日本一になることを期待するものですが、このことにつきご所見をお伺いいたしまして、今回の質問を終わります。ご静聴ありがとうございました。
【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、TPPと本県農業についてのお尋ねのうち、TPP交渉参加についてのお尋ねにお答えいたします。
TPP問題に関し、議員からは、多様な農業の共存と食と暮らしの安心・安全を守ることの二つの原則的な立場を堅持すべきとの御指摘がありました。
私も、仮に、農業分野で関税が撤廃され、安価な農産物が大量に輸入されることになれば、我が国の農業・農村は深刻な打撃を受けることが危惧され、多様な農業の共存の観点から、持続可能な農業を構築することの適切な措置を講ずることが必要であると考えております。
一方、食と暮らしの安心・安全を守ることにつきましては、食品表示制度等の規制や残留農薬の基準が緩和された場合に、例えば、ルールなき遺伝子組み換え食品等が流通すれば、国民の間で大きな不安が生ずることも懸念されるなど、まさに食の安心・安全の確保は、TPP参加の大前提となるものだと思います。
また、TPPは、農業分野のみならず、多くの分野で関税や非関税障壁の撤廃を目指す協定でありますので、各分野や国益全体に及ぼす影響等について、当然ながら慎重に議論し、取り組むことが必要であります。
しかしながら、政府におきましては、どの分野で関税や非関税障壁の撤廃を行うのか、今後の交渉はどう進めるのかという基本姿勢さえ明らかにしないままで、関係国との協議を開始するとの意向が示され、このことは国民に大きな不安と混乱を与える結果となっております。
したがいまして、私としては、まずは、国民の食の安心・安全の確保を前提に、政府の基本姿勢を明確にした上で、多様な農業の共存などの観点も含めて、想定される分野や影響、その対策等について多様な角度から国民的な議論を行っていただくことを強く願っております。
また、こうした視点に立って、引き続いて、全国知事会や中国地方知事会などあらゆる機会を通じて、私の考えを、国にしっかりと伝えていきたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。
【回答】◎農林水産部長(松永貞昭君)
TPPと本県農業について、数点のお尋ねにお答えします。
まず、本県農業の六次産業化への取り組みについてお答えします。
本県では、農業者が加工・販売分野に主体的に進出する六次産業化の取り組みは、所得の向上や農村の活性化に重要であると考えており、各種施策を推進した結果、農産加工品の開発・販売などによる集落営農法人の経営の多角化や女性グループの起業化の取り組みが拡大しております。
今後におきましては、六次産業化法の制定に伴う国の新規事業を活用し、山口県食品開発推進協議会と連携して、本年七月に設置した「山口六次産業化サポートセンター」において、専門知識を有する三名のプランナーが経営計画、資金計画などの策定を支援し、きめ細かな指導・助言を行うこととしております。
こうした取り組みを通じて、TPPのみならず貿易の自由化や産地間競争など、厳しい競争に的確に対応できるよう、農業法人を初め、農業者の六次産業化の取り組みを促進し、農業所得の向上に努めてまいります。
次に、有機農業についての三点のお尋ねにお答えします。
まず、有機農業の技術確立についてであります。
本県では、平成二十年度から、農林総合技術センターで水稲とホウレンソウの有機農業の栽培技術を確立する研究に取り組んでおります。
水稲では、鶏ふんをペレット状にした肥料や、六十度のお湯による種もみの消毒、機械による雑草防除などを組み合わせた技術を開発し、また、ホウレンソウでは、菜種油かすと魚の骨を加工した肥料、太陽熱を利用した土壌消毒、防虫ネットによる害虫の進入防止などを組み合わせた技術を開発し、それぞれ現地で適応性試験を実施し、平成二十四年度から県内各地に普及していくこととしております。
次に、有機JAS認定の現状についてであります。
有機JAS認定は、水稲や野菜では二年間連続して化学肥料、化学農薬を使用していない圃場で栽培していること、周辺から化学肥料や化学農薬が飛来、流入しないよう措置することなど、農業者の負担が大きい制度であることから、本県では、件数、面積とも伸び悩んでおります。
次に、今後の有機農業の普及についてであります。
TPPなどを背景に、有機農業は安心・安全な農産物を県民に供給する有効な手段の一つであると考えております。
このため、現在開発している技術の普及・定着の加速化、有機JAS認定よりも農業者の負担が軽減できる本県独自のエコやまぐち農産物認証制度の一層の推進、有機農業に取り組む経費の一部を助成する新たな制度の活用、山口県有機農業推進団体協議会と連携した情報交換会、技術研修会の開催などを通じて、有機農業の一層の普及・定着に取り組んでまいります。
次に、土地改良事業についての二点のお尋ねであります。
まず、圃場整備率についてであります。
圃場整備率については、お示しの「やまぐち食と緑のプラン21」において、要整備面積三万一千ヘクタールに対して八五%の整備目標を掲げておりますが、平成二十二年度末までの整備面積は、約二万二千六百ヘクタール、七二・七%の整備率にとどまっております。
この要因としては、経営面積が比較的小さい農家や兼業農家が多いこと、さらには、農業者の高齢化、後継者不足等により、地元の合意形成が遅延しているためと考えております。
次に、今後の土地改良事業の方針と計画の策定についてのお尋ねであります。
お示しのように、本県の農業生産基盤の整備を計画的に進めるためには、具体的な整備目標を定めた土地改良事業の方針と計画のもとに行うことが必要でありますが、TPP問題など農業をめぐる環境は大きく変化しており、まずは国が明確な方向を示すべきであると考えております。
県はこれまで、圃場整備や水田汎用化などの農業生産基盤に係る具体的な整備目標を定めた「やまぐち農業農村整備推進プラン」に基づき、各種基盤整備事業を推進してきたところでありますが、このプランは平成二十四年度を終期としております。
現在、国において、本年三月の東日本大震災を受け、一年前倒しをして、次期土地改良長期計画の策定作業が進められていることから、県としては、今後の国の動向を注視するとともに、市町はもとより農業生産法人や土地改良区などの農業関係団体の意向も踏まえ、生産基盤整備を着実に進めるための新たな推進プランの策定に向け、検討を進めてまいります。
次に、食料自給率の向上についてであります。
本県では、安心・安全な県産農水産物に対する県民の期待にこたえるため、地産地消の取り組みを核として、集落営農法人などの担い手を中心とした生産対策や、学校給食・販売協力店などと協働した需要拡大対策を一体的かつ積極的に推進し、県内食料自給率の向上に努めているところであります。
御提案のありました自給農業については、直接、食料自給率の向上にはつながらないものの、楽しみながら農作業を体験することにより、農業・農村に対する理解を深め、食料の大切さを実感できるなどの意義はあるものと考えております。
次に、フードバレーの形成についてお答えします。
農林水産物を活用して、加工、流通などの幅広い分野で、民間企業、研究機関、大学などの産学公と連携し、新たな加工技術や商品の開発、販路の開拓などを総合的に進めていくことは、本県の農林水産業の成長につながるものとして重要であると考えております。
このため、県としましては、平成十九年に産学公で構成する山口県食品開発推進協議会を設置し、その知識や技術を結集して、県産農水産物を素材にした外郎、焼き抜きかまぼこ、ジェル状の食酢加工品などの新商品を開発してきたところであります。
また、当協議会と連携し、六次産業化法の制定に伴う国の新規事業を活用して、本年七月に「山口六次産業化サポートセンター」を設置し、商品開発等の専門知識を有する三名のプランナーを配置するなど、農林漁業者が加工・販売分野に主体的に取り組む六次産業化を積極的に支援しております。
さらに、地産地消の取り組みが県内に幅広く普及・定着し、県産農水産物を利用する意識が高まる中で、食品加工や流通業者などと協働した取り組みを積極的に進めてきた結果、県産原料一○○%の豆腐、清酒、かまぼこなどの加工品の開発・販売に加え、県産食材一○○%の食のカタログギフトを制作・販売するなど、多くの成果が得られているところであります。
今後とも、これまでの成果を踏まえ、フードバレー的な視点も持ちながら、引き続き、さまざまな分野と連携して、県産農水産物を活用した技術開発、商品開発、販路開拓などの取り組みを一層拡大することとしております。
また、お示しのありました山口市南部におけるフードバレーの形成については、このような取り組みを進める中で、民間企業、市、関係団体などの機運が高まれば、検討に着手してまいりたいと考えております。
最後に、志ある農業についてのお尋ねであります。
担い手の減少・高齢化やTPPを初めとする貿易自由化の動きなど、農業を取り巻く環境が一段と厳しさを増す中で、県民の安心・安全な食を支える本県農業が持続的に発展していくためには、志ある人材を地域農業の中核となる担い手として確保・育成していくことが、何よりも重要と考えております。
このため、まず、農業に夢と志を抱く若者が円滑に就農し、定着できるよう、全国に先駆けて実施している就農相談から経営安定まで一貫したきめ細かな県独自の支援対策を一層充実強化し、農業・農村の活性化に不可欠な新たな人材を確保してまいります。
また、若者や女性・高齢者など多様な人材が活躍できる集落営農法人の設立を加速化するとともに、志を持ったリーダーを初め、法人経営の複合化・多角化を担う人材の育成に努めてまいります。
さらに、志を持ってすぐれた農業経営を実践している農業者を指導農業士として認定するなど、安心・安全な農産物の生産や青年農業者の育成の面から、本県農業を牽引する人材を幅広く確保していくこととしております。
県としましては、引き続き、こうした志を持った多様な人材の総力を結集して、足腰の強い本県農業を構築することにより、住み良さ日本一の元気県づくりにつなげていく考えであります。