(1)介護サービス情報の公表制度について
人としての尊厳を保持する介護事業の第一義の大事は、まさにこの一点にあります。
平成十二年から施行されました介護保険法は、老齢になり、人の介護を受けないと生活維持ができなくなっても、人としての尊厳を保持して、ともに生きていくことができる仕組みを制度化したものであると言えます。
介護保険法は、平成十八年に改正された際、そうした法の趣旨をより明確にし、介護される者の尊厳の保持を、この法の目的を定めた第一条に明記いたしました。
そして、法の第五章、第十節において、介護サービス情報の公表を新たに制度化したのであります。
介護サービス情報の公表制度は、法の建前としては、介護保険法第百十五条の三十五において「介護サービスを利用しようとする者が、適切かつ円滑に当該介護サービスを利用する機会を確保するため」と記されているように、介護サービスの利用者がよりよいサービスを選択できるよう介護情報を公表する制度であります。
しかし、私は、この制度の真のねらいは、法改正で明記されました「介護を受ける人の尊厳を保持する」という目的に沿って介護サービスの質の保持向上を図ることであり、そのことを介護の仕事に従事する人たちの信条や善意、道徳心等に期待するだけではなく、介護サービスの事業者や従事者に促す仕組みをつくり、制度としての担保しようとした点にあると見ております。
介護サービス情報の公表制度が導入されてから、介護サービス事業者は、年に一回、手数料を払って県が指定した調査機関の調査を受けることになり、その調査結果は、インターネットで公表されるようになりました。
本県で調査機関に指定されているのは、県の社会福祉協議会とNPO法人やまぐち介護サービス評価調査ネットワークでありまして、この指定調査機関の調査活動に伴う費用及び調査結果のインターネット公表の費用等は、事業者が支払う調査手数料で賄われております。
ちなみに、この手数料は、本県では居宅系事業所は三万六千八百円、施設系事業所は四万三千円となっております。
介護サービス事業者には、この制度の施行に伴い、こうした費用負担や調査協力のための事務負担が新たに生じた上に、せっかく公表された情報が、余り利用されていない等々の事由から、制度スタート時点から、この公表制度を疑問視する声が強く、不評でありました。
また、指導監査や外部評価など類似の制度があり、介護サービス情報の公表制度を不要とする声もありました。
さらに事業者の多くは、そうした調査を受けるまでもなく、介護事業が経営として成り立つために、利用者が選んでくれるよう介護サービスの質の向上に努めているとの思いがあります。
こうした声を受けてなのか、厚労省は、平成二十四年度に予定されている介護保険法の見直しにおいて、すべての介護事業者に年一回義務づけてきた第三者機関による調査と、調査結果の公表を事実上廃止する方向で介護保険法の改正を行おうとしております。
調査が実施されるのは、都道府県知事が必要と認めた場合のみで、介護サービス情報公表制度の大幅な後退であります。
発端は、昨年七月六日に行われた当時の長妻厚労省大臣の記者会見における発言でありました。
このとき長妻大臣は、この情報公表制度の趣旨は大切であるとしながらも、公表制度にかかる事業者の手数料負担を廃止することを含めて抜本的見直しを次期制度改正時に行うよう事務方に指示したことを明らかにしました。
さきに紹介しましたように、介護サービスの情報公表制度における調査及び公表の費用は、調査手数料収入によって賄われているため、別途財源確保の手だてをしないままの手数料無料化発言は、事実上の公表制度の廃止を意味します。
ミスター年金で名をはせ、厚労大臣の座を射とめた長妻議員ですが、彼は、大臣として何らなすところなく、ただ、介護保険制度の質的低下を招いただけの大臣であったと断ぜざるを得ません。
介護保険制度の画期的な点は、従前、医療法人や社会福祉法人の領分と考えられていた介護を、NPO法人や株式会社など民間法人も事業としてできるようにしたことであります。
介護事業を民間法人にも門戸開放したことは画期的としても、それが評価に値するものとなるためには、介護サービスの質を確保する仕組みが制度設計されていなければなりません。
そうした考え方に基づく制度設計の大前提として、介護保険制度の施行に伴い、介護も行政機関が措置する制度から、利用者が介護サービス事業者と契約する制度に変わりました。
このことは、介護を含む我が国の福祉事業のあり方の根本的な転換でありますが、介護事業を民間に門戸開放したことに伴う当然の対応であったと言えます。
事業者は、よりよい介護サービスを提供して、利用者から選ばれるよう努めなければ、事業経営が成り立たなくなりますので、おのずと介護サービスの質の向上に取り組むこととなります。
こうした契約制度のもとで、事業者は当然に介護サービスの向上に努めていること、また、指導監査や外部評価が制度化されていること等を理由に、介護サービス情報の公表制度は不要であるとの意見もありますので、本当にそうなのか、点検しておきたいと思います。
契約制度のもとにおいて、事業者の多くが介護サービスの向上に向けて努力していることを私も認めるものでありますが、実際問題として、利用者に選択の余地がほぼなきに等しくなるケースがあることを指摘しておかなければなりません。
例えば、有料老人ホームがその一角に介護サービスの事業所を設けたとした場合は、そのホームへの入居者は、他の事業所を選ぶことは困難と思われます。
また、ケアマネジャーが利用者の希望ではなく、所属法人の関連事業所を優先的に使用するよう指示されている例も聞きます。
こうしたケースも含め民間の事業者が、すべて等しく一定水準の介護サービスを維持していくためには、定期的に第三者の調査の目が入ることは必要と考えます。
行政機関から指導監査があるから類似の調査は必要ないとの声もありますが、事業者に対し、個別の実地指導を伴う監査を行うのは、三ないし五年に一回というのが実情であります。
介護保険制度で、介護サービスの事業は、民間法人も可能となって、事業者の数が飛躍的に増加したためであります。
三ないし五年に一回の監査で、介護サービスの水準保持を制度として担保していることになるのか疑問であります。指導監査があった年に重ねての調査は不要と思いますが、年に一度は、第三者の調査の目が入るようにすることは、介護サービスの事業を民間に門戸開放したことに伴い当然に制度化すべきことではないでしょうか。
外部評価制度があるから必要ないとの意見もありますが、外部評価の対象となるのは、グループホーム、小規模多機能の事業所でして、現在二千四百を超す本県の介護事業所のうち二百ほどに過ぎません。二千二百を超える大多数の事業所は外部評価の対象になっておりません。
私は、介護サービス情報の公表制度を見直すというのであれば、現行の仕組みは基本的に維持した上で、実地指導の監査があった年は不要とする、外部評価制度の対象施設は外す、一定のサービス水準を保持するようになった事業者の調査は隔年にする、小規模事業者の調査手数料は減額する、事務負担の軽減のため調査様式の改善を図る等々のことを検討すべきだと考えます。
ところが、厚労省が現在やろうとしている見直しは、手数料の無料化に伴う事実上の現行の公表制度の廃止であって、介護サービスの低下を防ぐ防波堤の役割を果たしていると思われる公表制度が機能しなくなるのではないかと危惧されます。
以上申し上げましたことを踏まえ、介護サービス情報の公表制度について数点お伺いいたします。
その一は、現行の介護サービス情報の公表制度が果たしている役割の認識についてであります。
この制度は、介護サービスの利用者がよりよいサービスを選択できるため、指定調査機関が確認した調査情報を公表することを目的とする制度とされておりますが、私は、そうした第三者機関による定期的な調査と公表が介護サービス事業の質の保持向上に資する役割を果たしていると見ておりますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
その二は、厚労省が現在進めている介護サービス情報の公表制度の見直しについてであります。
調査手数料の廃止を先行させて、第三者機関による介護サービス事業の調査と、そのことに基づく情報の公表を、都道府県知事が必要と認めた場合以外はやめてしまう見直しは、介護サービスの質の保持向上を制度として促し担保しようとする介護保険制度の設計思想からして、間違った方向への見直しと私はみなすものですが、このことにつき御見解をお伺いいたします。
その三は、平成二十三年度における本県のこの公表制度の運用方針についてであります。
平成二十四年度から公表制度の調査手数料は無料化するという方針が示されている中、前年度の平成二十三年度は、全国四十七都道府県中、十七都道府県は、現行制度による運用を継続するように承知しておりますが、本県は、どうする方針なのかお伺いいたします。
その四は、本県独自の介護サービス水準の保持向上に向けた取り組みについてであります。
事実上、第三者機関による介護サービスの調査公表が廃止となる見直しは問題であると思いますが、その方向での介護保険法の改正方針が定まっている以上、本県が独自に介護サービス事業の質的低下を防ぎ、その水準の維持向上を図る仕組みづくりに取り組むことが期待されます。
ついては、住み良さ日本一の元気県づくりを目指す二井県政の総仕上げとなる平成二十三年度において、この課題に取り組まれることを求めるものでありますが、御所見をお伺いいたします。
その五は、介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保についてであります。
介護サービス事業を本当に評価調査できるようになるためには、相当期間経験を重ねて習熟することが必要と思われまして、おおむね三年ほどで人事異動がある県や市町の担当職員に、そのことを求めることは無理なのではないでしょうか。
よって、行政組織とは別個の評価調査機関があって、そこにおいて介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保が図られることが、本県の介護保険制度の水準向上のために必要と思われますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
【回答】◎健康福祉部長(今村孝子さん)
介護サービス情報の公表制度についての数点のお尋ねにお答えいたします。
まず、第三者機関による調査・公表の果たす役割についてですが、お示しの介護サービスは、利用者本人による選択を基本的な理念として、これを実現するためには、すべての介護サービス事業者や施設について、サービスの内容や運営状況など、利用者の選択に役立つ正確な情報の公開が不可欠です。
また、この情報は、第三者が、客観的に調査・確認し、調査結果を定期的に公表することにより、利用者が事業者を比較検討でき、みずからのニーズに応じた良質なサービスを選択することが可能となります。
本県では、介護サービス情報の公表制度を開始して以来、「情報が実際と異なる」といった苦情もなく、円滑に実施されております。このことが事業者のサービス改善への取り組みを促進し、介護サービス全体の質の保持向上に一定の役割を果たしてきたものと認識しております。
次に、厚生労働省の見直しに対する見解についてです。
現行制度は、利用率が低いことや、事業者の費用負担が重いといった問題があることから、今回の見直し案が示されましたが、その中には、客観的な調査の仕組みを廃止することも盛り込まれております。
このことは、情報の公開に当たって最も重要である正確性を確保する上で懸念があるものと考えております。
このため、県といたしましては、昨年十一月に、国がブロック単位に開催しました公表制度に関する国と県との協議の場で、国において、情報の正確性を担保できる方策を講じるよう要望したところです。
次に、本県における平成二十三年度の本制度の運用についてです。
国の見直し方針を受け、本年一月、速やかに高齢者保健福祉推進会議介護・地域ケア部会を開催し、事業者や利用者、さらには指定調査機関などから、平成二十三年度の運用について、幅広く意見を伺ったところです。
多くの委員から、情報公開の必要性は認められるものの、手数料や事務の負担が重い、公表内容が複雑で利用しづらいなどから、現行制度を早急に見直してもらいたいとの意見がありました。
このため、こうした意見を踏まえ、平成二十三年度においては、既に調査を受けた二十二年度の情報を引き続き公表し、現行方式による調査の実施や手数料の徴収は行わないこととし、現在、関係者の理解と協力が得られるよう調整に努めているところです。
次に、お尋ねの本県独自の介護サービス水準の保持向上に向けた取り組みと介護サービス事業を評価調査する専門員の育成確保については、介護保険制度を運営する上で、いずれも全国共通の問題でありますことから、制度設計を担当する国の責任において適切に検討されるよう、国に対し要望してまいりたいと考えております。