(2)上関町の産業力・観光力強化支援について
「座して待つ訳にはいかない。」、上関町の今日の思いを一言で表現すれば、そういうことだと思われます。
上関町は、上関原発の建設計画が中止になった場合、町の振興と住民への行政サービスの確保を如何にして図っていくかの課題に現在真剣に取り組んでいます。
勿論、原発誘致による町興しの基本方針は変わっていません。しかし、福島原発事故以後、国民世論の大勢が「原発依存を減らす。」という方向になっている中において、 我が町の繁栄のためにということで原発建設を声高に求めることはしてはならないと自制しています。そして、原子力発電所が立地されない場合を想定して、 原発関連の財源収入がないという状況のもとで、町の財政運営をどうしていくのか課題に取り組んでいる訳です。
国がエネルギー計画において上関原発建設の方針を明確にすればそれに協力する姿勢を堅持する。しかし、上関原発が立地されなくなった場合は、それはそれとして受け入れ対応していく、 上関町はそう腹を固めております。よって、一番困るのは、上関原発が建設なのか中止なのか定まらないまま中途半端な状態が続き、将来に向けて町の展望を描けないことであります。
ところが、現在の国のエネルギー計画策定に向けての動きを見ていますと、上関原発を含む11基の新設・増設の原発の建設計画がどうなるのかの判断は、随分先になるように思われます。
年内に策定予定の国のエネルギー基本計画においても、大局的、中長期的な観点から方向性を示す内容に留まり、電源構成をどうしていくかを具体的に示すものとはならない見通しであります。
現在、国の原子力政策における最大の関心事は、既存の原発の再稼働であります。この再稼働を認めるかどうかの審査は、原子力規制委員会が行ないますが、この規制委員会は、 三つの審査チームを設け、今年7月に策定予定の新しい安全基準に基づき一つの原発を約半年かけて審査する方針です。従って、既存の原発は50基あることから、順調にいっても全ての既存の 原発について審査が完了するまでには、8年以上かかる計算になります。
また現在、政権党である自民党は、「10年以内に、電源構成のベストミックスを確立する。」と公約しています。電源構成のベストミックスをどうするかについての最大の焦点は、 総発電量における原子力発電の割合をどうするかということであります。
こうしたことから、上関原発を含め新規の原発建設計画をどうするかについて国の考えが定まるまでには、この電源構成のベストミックスと既存原発の再稼働についてその全体像が 具体的に見えてくることが必要との観点に立てば、今後10年近く要することになります。
しかも、国のエネルギー政策が、原発ゼロではなくても「原発依存を減らす」という方向に進むのであれば、原発の新規計画の中でも増設ではなく純然たる新設であり、 未だ準備工事段階であって正式な建設許可が下りていない上関原発は、計画中止になる公算が高いと常識的には思われます。
その間、「座して待っている訳にはいかない。」、上関町がそう考えるのは、当然のことであります。
私は福島原発事故以後、上関原発の建設計画は中止すべきとの立場を明確にしてきましたが、原発による町興しを上関町が政策として選択して来た所以は理解する必要があると考え、 上関町の現状や歩みを知る努力をしてきました。
そして、記紀万葉の古代から、瀬戸内海の海上交通の要衝として栄えてきた歴史があること。それが、船が帆船の時代から動力機関を備えた船舶の時代に移行すると共に、 主に潮待ちの港としての上関の役割が薄れていったこと、それでも明治時代から終戦後頃までは人口が一万人ほどであったのが、戦後の復興、高度経済成長、 都市化の進展の中で上関町では人口流出、過疎化が続き現在は人口が、3千数百人にまで減少していること、町のほとんどが山地であり平地が少なく、以前は水道もなく産業振興、 企業誘致の有効な策がなかなか見いだせなかったことから、原発誘致で活路を切り拓こうと町を挙げて取り組むことになったこと等のことがわかってまいりました。
それが、3.11福島原発事故以後、原発立地が不透明となり、それがない場合を想定した町振興の課題に取り組まざるを得なくなりました。このことは、私は上関町にとっては幸いであったと見ております。
確かに、原発誘致は数十年の賑わいをもたらしてくれるかもしれません。しかし、原子炉の寿命は原則40年とされており、その後は高レベル放射性廃棄物としての廃炉が残ります。
さらに、使用済み核燃料も核燃料サイクル確立の見通しが立っていないことから、原子炉に併設される核燃料プールに保管されたままになる可能性が高いと思われます。
福島原発事故で、最も憂慮されたことの一つは、4号機の燃料プールが余震や水素爆発で崩壊したり、若しくはプールの水が蒸発してなくなってしまい、 そこに保管されている核燃料が露出してしまうことでした。そうなった場合は、首都圏を含めた3000万人避難という最悪事態も想定されていました。
使用済み核燃料が安全な状態になるまでには少なくとも10万年は要すると見られており、その間の安全管理をどうしていくかの解決策は、未だ確立されていません。 原発立地は、そうしたものを併せ抱え込んでしまいます。
上関は、記紀万葉の時代のみならず、遺跡からすると縄文時代にさかのぼって住民の生活があった地域であることがうかがえ、これからもまた、 数千年以上にわたって人々の暮らしが営まれる地域であることを思えば、出来れば困難な道であっても原発立地に頼らず町の振興を図っていくことが、 上関町にとって望ましいことのように、私には思われます。
ただ上関町は、国のエネルギー計画に上関原発の新規立地が位置づけられない可能性もあることから、その場合に備えての検討を真剣に行った次第で、 検討会においては、原子力発電所の是非については一切議論されていません。
私は、上関町のこのような今日の事態への対応姿勢は、誠に的確であると思うものでして、その結果、原発立地如何にかかわらず、上関町の地域資源を生かす施策を、 ハード・ソフト両面から推進することが、町政運営の中軸となりつつあることを評価するものであります。そして、そうした上関町の取り組みを県も支援すべきであると考え、 「上関町の産業力・観光力強化について」ということで、端的に以下三点お伺いいたします。
第一点は、財政支援についてであります。
今後、上関町への原発関連の交付金が、どれだけ確保されるか不透明な中、少なくとも向こう10年にわたって上関町が、今日の行政水準を維持し、 将来に向かって町の振興のために政策投資が出来るよう県も必要に応じて財政支援をすべきであると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。
第二点は、観光力強化への支援についてであります。
上関町のキャッチフレーズは、「花咲く海の町」ですが、上関町は加えて歴史の町であり、様々なストーリイの観光ルートの設定が可能であります。
また、かって昭和40年代、NHKの朝の連続ドラマ「鳩子の海」や、山田洋次監督の映画「愛の讃歌」の舞台になったこともあり、観光面での潜在的ポテンシャルは大きいと思われ、これを最大限生かしていくことが町振興の重要な柱の一つであります。
そこでお尋ねです。山本県政が全力を挙げて取り組む最優先課題の一つが観光力の強化でありますが、上関町を含む広域観光ルートの開発を図るなど、上関町の観光力の強化について、どう支援していかれるのか、ご所見をお伺いいたします。
第三点は、漁業の6次産業化への支援についてであります。
上関大橋の室津側のたもとに整備される「ふるさと市場(仮称)」は、来年秋オープン予定であります。ここでは、上関の海産物をはじめとする特産品が展示販売されますが、その中には勿論祝島の海産物、特産品もあります。
この「ふるさと市場」を、しっかりしたものにしていこうという点では、原発への賛成、反対は関係ありません。私は、素晴らしいことだと思います。
上関町で基幹産業に育つ可能性がある産業分野と言えば、やはり漁業ということになると思いますが、そのためには加工・流通のみならず観光も含めた漁業の6次産業化への取り組みが不可欠であり、 「ふるさと市場」の開設は、そのことに大きく寄与するものと期待されています。
また上関は、海産物の加工という点では、「平天が、うまい。」ということはよく知られており、私も上関に入ったら必ず平天を買って帰りますが、 こうした製品が、「ふるさと市場」の開設で、より広く知られることになり、さらには新たな製品が次々と開発される契機になることが期待されます。
そこでお尋ねです。上関町において漁業を基幹産業に育てていくためには、観光を含む漁業の6次産業化を進めていくことが不可欠であり、 「ふるさと市場」の開設は、このことに大きく寄与するものと期待されています。ついては、こうした取り組みに対し、県もしっかりした支援をしていくべきと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
【回答◎総合企画部長(藤井哲男君)
上関町への財政支援についてのお尋ねにお答えします。
上関町では、平成二十三年十一月に、地域ビジョン検討会を立ち上げ、八回にわたり、今後の町財政運営や地域振興策について検討し、先般、その議論の取りまとめを公表されました。この中で、定住促進策は最優先、産業・雇用創出のための事業の新しい展開が必要、交通システムの再編・確立は優先的課題などの方向性は示されているものの、今後の具体策については、さらに検討を深め、町民のコンセンサスを形成していくことが課題であるとされております。
市町が取り組むまちづくりにつきましては、県では、これまでも地域のニーズ等を踏まえた市町の意向を尊重し、市町との適切な役割分担のもと、支援を行ってきたところであります。
上関町のまちづくりにつきましても、こうした基本的な考え方に立って、同町における今後の検討の状況を注視しながら、適切に対応していきたいと考えております。
【回答◎商工労働部長(木村進君)
上関町の観光力強化の支援についてお答えします。
上関町における昨年の観光客数は、鳩子の湯の開設効果等もあって、前年の二倍を超える約十五万八千人となりましたが、宿泊者数は千七百人余りと伸び悩んでおり、ほとんど日帰り・通過型エリアとなっているのが現状です。
こうした中、県としては、全県的な課題である宿泊滞在型観光の充実を図るため、年間延べ宿泊者数五百万人の実現を新たな目標に掲げ、宿泊客の誘致拡大に向けた重点的な取り組みを進めることとしております。
その一環として、本年度は、お示しの広域観光ルートの開発等を狙いとした広域観光力強化事業に新たに取り組んでいるところであり、先般、県下全市町に対し、広域市町エリアでの実施地域の募集を行い、上関町からの応募はありませんでしたが、岩国・柳井・周防大島エリアなど、県下三地域から要望をいただき、取り組みをスタートさせたところです。
県としては、こうした取り組みに加え、さらに、「食」や「温泉」「歴史」等をテーマとした全県的な観光資源の掘り起こしや戦略的な情報発信に積極的に取り組んでいくこととしており、今後とも、上関町から広域観光等についての要望があった場合には、これらの取り組みを通じ、適宜適切な支援に努めてまいります。