地域教育力の向上と地域協育ネットについて
人が生まれてから義務教育課程である中学校を卒業するまでの十五年間は、人間形成の基礎が定まる期間でありますが、その大事な十五年間の子供の成長を、地域ぐるみで育む仕組みづくりが、山口県において平成二十三年度から全県的に推進されています。
地域協育ネットという仕組みで、幼児期から中学校卒業程度までの子供たちの育ちや学びを地域ぐるみで見守り、支援することを目的に、中学校区を一まとまりとして設立され、活動が推進されています。なお、協育ネットの「協」は、教えるの「教」ではなく、協力の「協」でして、このネーミングには、学校、家庭、地域が協働して、子供たちの生きる力を育むという思いが込められています。
この地域協育ネットの仕組みづくりは、公民館や学校運営協議会などの既存の組織を生かし、それを推進母体にする形で行われているところがほとんどですが、中学校区を一まとまりとするということで、生まれてから中学校卒業までの子供たちの成長を、一貫して支援する地域教育体制の構築を目指している点が、従来の組織と違い、また、そのことにこの仕組みづくりの意義があると思われます。
参考資料としてお配りしています「あたりまえ十箇条」は、山口市の大内中学校区である大内・小鯖地域協育ネットが作成配布して周知を図っているものであります。この十箇条は、内容も立派ですが、私が素晴らしいと思うのは、生徒たちがみずから策定した十箇条であることです。
大内中学校区では、ことしの二月、地域協育ネット設立に向けて準備会を開催した後、中学校区内にある大内小、大内南小、小鯖小の三つの小学校の五年生・六年生を対象に、よりよい学校にするために、自分たちに必要なことは何かということで、アンケート調査を実施しました。それを、大内中学校の生徒会が中心になって集計し、自分たちが日ごろから当たり前に実行していく活動等について「大内中学校区児童・生徒あたりまえ十箇条」としてまとめて、ことしの三月末に制定しました。
七月に正式に設立された大内・小鯖地域協育ネットは、この十箇条の周知徹底こそ取り組むにふさわしい事業だということで、十箇条の看板を作成して校区内の小中学校や地域交流センターに設置し、また、「あたりまえ十箇条」や地域協育ネットについてのチラシをつくって、地域住民に配布し協育ネットの活動への支援協力を呼びかけています。
私は、九月下旬に大内中学校で、この十箇条の看板の除幕式があることを知って赴いたのが、地域協育ネットについて知ることになったきっかけであります。
この地域協育ネットは、中学校区を一まとまりとする、生まれてから中学校卒業までの子供たちの学びと育ちを支援する、そのことに向けて地域のあらゆる資源(組織・人材等)を総動員する等のことが特徴的で、そういう点は共通していますが、具体的な協育ネットのあり方や活動内容は、地域それぞれの実情に応じたものになっており、さまざまであります。大内中学校区だけではなく県下各地ですぐれた地域協育ネットの活動が展開されており、そのことについては実践事例集がまとめられていますので、それで知ることができます。
このような中学校区を一まとまりとした地域教育力向上の取り組みを、全県的に推進しているのは、全国の都道府県の中でも山口県だけであります。国は、平成十八年の改正教育基本法で、第十三条に、学校、家庭及び地域住民等の相互の連携・協力を新たに規定し、平成二十年に策定した教育振興基本計画では、学校、家庭、地域の連携・協力を強化し、社会全体の教育力を向上させるために取り組むべき施策を示しております。本県の地域協育ネットの取り組みは、こうした学校、家庭、地域が連携・協力して地域教育力を向上させていくという国の施策の方向を、全県規模で実現したもので、全国のモデルともなり得るものと思われ高く評価いたします。
以上、申し上げてきました地域協育ネットは、また地域の力を教育という面から引き出し、結集する仕組みであり、それはそのまま、地域活性化、地域づくりにつながるものであり、そのことと表裏一体の取り組みであると言えます。そういう意味において、本県が国に対する来年度予算要望で、「地方創生」の実行に向けた政策提案ということで、地域協育ネットを推進強化していくための政策を提案し要望していることは、時宜を得た的確な対応であります。
その政策提案は、社会総がかりによる地域教育力の強化ということで、一、学校、家庭、地域が一体となった取り組みを実施できる交付金の創設など、財政支援制度の充実、二、統括コーディネーターの全中学校区への配置や地域連携担当教員等への支援制度の充実、三、コーディネーターの計画的な育成や、地域住民の研修を実施するための財政支援制度の充実の三項目であります。いずれも地域協育ネットの活動を推進する中で、直面している課題を解決するための具体的な政策提案となっております。
私が、山口市内の幾つかの地域協育ネットの関係者を訪ねた際、伺った課題もほぼ同様で、ふさわしいコーディネーターの確保や事業費等への財政支援のことでありました。
そこでお伺いいたします。本県が推進している地域協育ネットの活動は、地域教育力の向上ということにおいて、全国のモデルとなるものであり、かつまた、「地方創生」を教育面から実現していくすぐれた取り組みであります。ついては、地域協育ネットの活動が、一層活発になり充実していくよう、必要な財政支援を実現していくべきだと考えますが、このことにつき今後の取り組み方針について御所見をお伺いいたします。
【回答】◎教育長(浅原司君)
「地方創生」についてのお尋ねのうち、地域協育ネットの活動推進と充実についてお答えいたします。
近年、子供を取り巻く環境が大きく変化し、核家族化や地域のつながりの希薄化が進行している中、地域の教育力の向上は喫緊の課題であります。
このため、県教委では、「未来を拓く たくましい「やまぐちっ子」の育成」を教育目標とする山口県教育振興基本計画の緊急・重点プロジェクトとして地域ぐるみの教育推進プロジェクトを掲げ、保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクールの設置促進や中学校区で学校関係者、地域住民がネットワークを形成し、子供の育ちや学びを支援する地域協育ネットを推進してきたところです。
お尋ねの地域協育ネットの活動推進と充実を図るためには、コミュニティ・スクールの取り組みを促進させるとともに、中学校区における小中連携をしっかりと進め、コミュニティ・スクール同士がつながり、地域全体が子供たちを見守る温かいきずなで結ばれることが重要であり、これまで地域住民等を対象とした研修会の実施や、好事例の発表、普及啓発のための広報活動、とりわけ学校と地域人材を結ぶキーパーソンとなるコーディネーターの養成に取り組んでいるところです。
今後、こうした取り組みをさらに充実させるためには、活動経費の充実や核となる人材の育成と確保、より多くの方々の参画促進が必要なことから、このたび国に対し中学校区において総合調整を行う統括コーディネーターの配置や財政支援制度の充実などを要望したところであります。
県教委といたしましては、引き続き国に対し、財政支援制度の充実について働きかけるとともに、市町教育委員会と連携して、現在国において進められている学校を核とした地域力強化プラン等の諸制度を最大限に活用するなど、必要な財源の確保に努め、現在策定中の未来開拓チャレンジプランに掲げる学校、家庭、地域が一体となった、社会総がかりによる地域教育力日本一の取り組みの推進に向け、全力で取り組んでまいります。