平成26年3月定例県議会(2)上関原発建設計画の転換について

(2)上関原発建設計画の転換について

上関原発の建設計画は、最先端の石炭火力発電所の建設計画に転換すべきであると考えます。
3.11の福島原発事故以後、上関原発の建設は事実上不可能になりました。
原発による町興しの旗印を掲げて原発誘致に多年にわたり変わることなく取り組んできた上関町、そして上関原発の建設を最重要の電源確保のための事業と位置づけ多くの労力と資金を投入してきた中国電力は、今なお国のエネルギー政策において上関原発の建設計画が位置づけられることを期待し、その実現を目指す姿勢に変わりはありません。
しかし、本年度内に閣議決定される予定の新たな国のエネルギー基本計画では、「原発依存度を可能な限り低減させる。」という政策の方向性が明記される見通しであります。このことが単なる言葉の上だけのジェスチャーではなく、福島原発の過酷事故を真摯に踏まえての政策意思の表明であるならば、上関原発の建設計画は、実際上困難になったと見るのが妥当だと思います。
勿論、上関原発の建設を、原発依存を減らす方向の中に位置付け、その意義を主張することも可能であります。上関は、我が国において原発の新設が可能な最後の場所と思われることから、それが建設されても長期的には原発依存を減らすという方向に変わりはなく、将来にわたってのエネルギーの安定的確保のために、そうすべきだとの見方も成り立つからです。
しかし、そうした考えは、今日の国民意識と大きく乖離しており、電力事業者の論理としては成り立ち得ても、国民意識と不可分の政治の論理とは成り得ず、政治判断に基づき国策民営で推進されてきた原子力発電の事業において、実現の見通しは殆どないといっても過言ではありません。
現在、11基の新規原発の計画がありますが、原発依存を減らすという方向の中で受け入れられる可能性があるのは、常識的に見て大方の建設が完了している島根3号機および建設の進捗率が4割近くの大間原発までだと思われます。上関原発の建設計画も、当然この新規原発の計画に含まれていますが、以下三点の理由により、繰り返し申し上げますように建設計画が受け入れられる可能性はないと見ております。
理由の第一は、上関原発は、新設の建設計画であるということです。原発の新規立地は、新設、増設、建て替えの三通りが考えられます。増設は、1号機、2号機の原発があるところに3号機を建設するというケースであり、建て替えは、1号機の原発が廃炉になった後に新規に原発を建設するといったケースであります。新設は、既存の原発がないところに全く新たに原発を建設するケースであり、上関原発の建設計画がこれに相当します。原発依存を減らすという方向の中で、許容される新規の原発があるとすれば増設ないし建て替えが限度で、新設はあり得ないと考えます。
理由のその2は、上関原発は未着工であるということです。上関原発は、準備工事の段階であり、未だ設置許可はおりておらず未着工であります。原発依存を減らすという方向に、未着工の新規原発の建設はあり得ないと考えます。尚、未着工の新規原発建設計画は8基ありますが、その中で新設は上関原発の計画だけで、他はすべで増設であることを付言しておきます。
理由のその3は、上関原発は、中国電力の原発依存度を大きく高めるということであります。平成23年度の中国電力における原子力発電の電源構成比は、8%ですが、島根3号機が稼働するようになると、これが16%ほどとなり、加えて上関原発の1号機、2号機が計画通り稼働するようになると、原発の電源構成比は30%になる見通しであります。これは、福島原発事故の前年、平成22年6月に策定されたエネルギー基本計画、それは2030年までに総発電量の5割を原子力発電とするという原発拡大路線の内容となっていまして、福島原発事故以後白紙に戻して見直すこととされたものですが、その計画にある原子力発電の目標を中国電力管内において実現することになります。かかることが、原発依存を減らすという方向の中で許容されるものでないことは明らかであります。
縷々申し上げましたが、これを一言に要約すれば何度も申し上げますように、「上関原発は、建設出来ない。」ということであります。安倍総理が、昨年の暮12月27日の山口放送の番組で、上関原発など原子力発電の新規立地の見通しについて、「過酷事故を経験した。今は考えていない。」と述べたのも、同様の認識があってのことだと推察されます。
では、上関原発の建設計画はどうしたらいいのか。私は、石炭火力への転換を検討すべきだと思います。石炭火力発電は、CO2の排出量が多いという問題があると一般的には見られています。ところが現在、石炭火力の発電効率を上げてCO2の排出量を減らし、究極的にはCO2の排出をゼロにするという地球温暖化対策にも適合した石炭火力発電の実用化に向けた実証実験の事業が行われています。
この事業に取り組んでいるのは、広島県大崎上島町にある大崎クールジェン株式会社で、中国電力と電源開発株式会社が折半出資で設立した会社であります。私は、先般この会社を訪ね、大崎クールジェンプロジェクトと称して取り組まれている事業概要の説明を受け、建設中の実証試験施設を視察してまいりました。
このプロジェクトは、第1段階が平成30年度までで、石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証実験を行います。現在、石炭火力のほとんどは、石炭を破砕して微粉炭にし、これを燃焼させる微粉炭火力発電方式ですが、IGCCは、石炭をガス化してガスタービンによる発電を行うとともに、その排熱を利用して蒸気タービンによる発電を複合して行うことにより高効率の発電を実現するものであります。IGCCには、石炭ガス化炉に酸素を吹き込む方式と空気を吹き込む方式の2種類ありますが、ここでは酸素吹IGCCの実証試験を行います。
第2段階は、第1段階の酸素吹IGCCに、CO2分離・回収設備を追設して、CO2ゼロエミッション発電の基盤となる実証試験を行うものです。期間は平成28年度から30年度までの予定です。
第3段階は、酸素吹IGCCに、石炭ガス化で生じた水素を燃料とする燃料電池を組み合わせた発電、これを石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)と申しますが、このIGFCによる発電をCO2分離・回収型で行おうとするもので、究極の高効率発電とCO2ゼロエミッションを目指す実証試験であります。期間は平成30年度から34年度までの予定です。
中国電力は、この実証試験を経て実用化の見通しが立ったならば、旧来の石炭火力発電所を、このIGCCもしくはIGFCの石炭ガス化複合発電所に更新していくことを計画していると思われますが、実際上計画実現が困難となった上関原発の建設予定地に、CO2分離・回収型IGCCもしくはIGFCを建設することを検討すべきではないでしょうか。
このことを、私に示唆されたのは、一橋大学の橘川武郎教授です。橘川教授は、電力事業を含め我が国の産業史に詳しく、国のエネルギー基本計画策定のために設けられた有識者会議、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員であります。私は、昨年秋この橘川先生を訪ねたのですが、その際新たに策定予定のエネルギー基本計画においては、「個々の原発計画について、どうすべきか判断できる基準となるものを示す内容とはならないであろう。」との見通しを述べられました。また、上関原発の建設計画については、その実現が困難との認識から、「中国電力は、元々石炭火力が強い。これまで原発建設に向けて協力してきた上関町のためには、世界最先端の石炭火力発電所をつくるのがいいのではないか。」との趣旨を語られ、酸素吹IGCCのことを紹介されました。
この話を聞いた後、私はその可能性をこの目で確かめたく、上関の原発建設予定地を視察し、IGCC、IGFCの実証試験施設の建設現場を訪ねた次第です。そして、素人目ではありますが、「中国電力がやる気になれば、上関の原発建設予定地に、石炭ガス化複合発電所、即ちIGCCもしくはIGFCを建設することは可能である。」との結論に至りました。
現在、我が国で実用化されている最高効率の石炭火力発電は、USCと言われる微粉炭式石炭火力発電で、従来の石炭火力では、発電効率が36%程度だったのが、USCでは41%まで向上し、燃料費とCO2の排出量が、1割以上低減されています。
2008年の主要国の電源別発電電力量構成比を見ますと、石炭火力の割合は日本は26.8%ですが、人口第一位の中国は78.9%、第二位のインドは68.6%、第三位のアメリカが49.1%でありまして、世界の中で人口上位3カ国において石炭火力発電の割合が高いことがわかります。しかも、この三カ国の石炭火力の発電効率は、我が国の石炭火力と比べると低いので、この三カ国に、USCのような日本で運転されている最新式の石炭火力発電が普及すれば、CO2排出量が年間13億4700万トン削減されると試算されています。
これは、鳩山元首相が、国連で2020年までに、我が国のCO2排出量を、1990年比で25%削減すると公約した量(3億2千万トン)の4倍強、1990年の日本の温室効果ガス総排出量の107%に相当します。先ほど紹介しました橘川教授は、このことを指摘して、我々が直面しているのは、「日本環境問題」ではなく「地球環境問題」であるから、我が国の世界トップレベルの石炭火力発電技術の海外移転を推進して、鳩山公約以上の地球温暖化防止に向けたCO2排出量の削減に、我が国は貢献すべきであると主張しておられます。
そのことはともかく、私が注目するのは、かように世界の中で抜きんでている我が国の石炭火力発電技術を、更に進化させて一層の高効率発電と低炭素化を実現しようとするのが、大崎クールジェンプロジェクトであるということです。先に触れました最新の微粉炭火力発電USCの発電効率は41%でありますが、このプロジェクトではIGCCでこれを48%までに、IGFCでは更に55%まで高める実証試験に取り組んでいます。発電効率が高まればCO2の排出量も低減されて、IGFCは、USCに比してCO2の排出量が25%削減される見通しです。しかも、その上で排出されるCO2は、全て分離・回収してゼロエミッションを実現することを、このプロジェクトは目指しています。
現在も、世界の電源の主力は石炭火力であり総発電量の4割を占めています。しかも、石炭は、人類社会の需要に向こう100年以上応え得る埋蔵量があると見做されていることから、このプロジェクトで取り組まれている石炭火力発電技術の実用化は、地球温暖化対策とエネルギー安定供給の両立を実現するものであり、21世紀の人類社会に希望と光明をもたらすものであります。
以上申し上げましたことを踏まえ、三点ほどご所見をお伺いいたします。

第一点は、中国電力への要請についてであります。
新たに策定予定の国のエネルギー基本計画では、「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。」と記されており、上関原発の建設計画を、高効率の石炭火力発電の建設計画に転換することは、国の新たなエネルギー政策に沿うものです。また、先の県知事選挙で読売新聞が行なった世論調査では、上関原発に関しては、「建設を中止すべき」が45%、「建設を凍結すべき」が29%、「建設を続けるべき」が17%で、74%が上関原発の建設には否定的との結果が出ており、原発から高効率・低炭素石炭火力への計画転換は、こうした県民の意識に応えることになると思われます
そこでお尋ねです。県は、中国電力に対して、上関原発の建設計画を、大崎クールジェンプロジェクトで実用化予定の石炭火力発電所の建設計画に転換するよう要請し促すべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

第二点は、国への要望についてであります。
上関町の原発建設計画が、石炭ガス化火力発電の計画に転換された場合は、懸念されることは原発立地予定の自治体ということで交付されていた電源三法による交付金が途切れることであります。電源三法交付金が交付されるのは、原子力・水力・地熱の発電所の立地が予定されている自治体であり、今後新たに計画される火力発電所については、立地地点が沖縄県にある場合しか交付されません。
従って、現行の電源三法交付金制度のもとでは、原発計画が火力発電に転換された場合、上関町は、財源の面から住民福祉サービスや行政水準を維持していくことが困難になります。
そこで、私が訴えたいことは、上関町のように国のエネルギー政策に協力してきた自治体の原発建設計画が、別の電源による計画に変更された場合、それが国のエネルギー政策の方向に沿うものであれば、電源三法交付金制度の適用は、継続されるべきだということであります。
電源三法交付金制度は、原子力・水力・地熱による発電というCO2を排出しない発電用施設を、原則として交付対象にしていますが、これに大崎クールジェンプロジェクトで実用化予定の高効率・低炭素の石炭火力発電所も含めるようにすることは、広い意味で電源三法が目指す方向に沿うものであり、且つ新たに策定予定の国のエネルギー基本計画が、原発依存度を可能な限り低減させるとして、再生エネルギーの導入とともに火力発電所の効率化を挙げていることから、新たな国のエネルギー政策に対応した措置として当然に検討されてよい改正の方向であります。
ついては、県は、電源三法交付金制度の交付対象となる発電用施設に、高効率・低炭素の火力発電所も含めるよう、制度の改正を国に要望すべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

第三点は、公有水面埋め立て免許の延長申請についてであります。
来月、4月11日には、一年間県の判断が先送りされた上関原発建設用地整備のための公有水面埋め立て免許延長申請に関する補足説明の回答期限が来ます。結論から申し上げて、県はこの延長申請を不許可とした上で、中国電力の原状回復義務を免除することが、法の趣旨に則り、且つ現状に適合した対応として望ましいと考えます。
中国電力は、平成24年10月5日に免許延長申請をした際の報道資料において、「この申請の目的は、当面の現状維持であって、準備工事を直ちに進めようとするものではない。」旨、明らかにしております。
察するに、中国電力は、上関原発の建設計画を進めていくという方針に変わりはないということを内外に示す意味と、国のエネルギー政策の動向等も含めて、実際建設計画を進めることができるかどうか判断できる状況が整うまでの間、現状維持を確保したいということで、埋立免許の延長申請をしたのだと思われます。前者は、延長申請をしたこと自体で目的を達していますし、原状回復義務が免除されれば、現状維持という後者の目的も達されます。また、埋立免許の失効は、将来の新たな免許を受ける可能性を排除するものではありません。
ついては、上関原発の建設計画に係る公有水面埋め立て免許の延長申請は不許可とし、原状回復義務は免除することが望ましいと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

【回答】◎商工労働部長(木村進君)
上関原発建設計画の転換について、二点のお尋ねにお答えします。
まず、中国電力への要請についてです。
お示しのありました石炭ガス化複合発電(IGCC)や、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)は、次世代の高効率な石炭火力発電技術であり、平成二十五年六月に閣議決定された日本再興戦略において、IGCCは二○二○年代、IGFCは二○三○年代の実用化を目指すとされています。
しかしながら、これら次世代の石炭火力発電技術が実用化される段階において、商業用発電施設として活用してくのか、また、どの地点に計画するのかについては、電気事業者である中国電力みずからが判断されるものと考えています。
したがって、県としては、中国電力に対し上関原発計画を石炭火力発電に転換するよう要請し促す考えはありません。
次に、国への要望についてです。
電源三法交付金は、発電用施設の設置及び運転の円滑化に資することを目的として、発電用施設の周辺地域における公共用の施設の整備、その他の住民の生活の利便性の向上及び産業の振興に寄与する事業を促進するために交付されるものです。
お示しのとおり、火力発電所の立地については、制度の対象外となっていることは承知しておりますが、上関町は、原発立地によるまちづくりを進めたいという政策選択をされており、県としては、上関町の政策選択を尊重するという立場で対応していますので、国に制度の改正を要望する考えはありません。

【回答】副知事(藤部秀則君)
私からは、上関原発建設計画の転換についてのお尋ねのうち、公有水面埋立免許の延長申請についてお答えいたします。
このたびの申請が適法なものであり、埋立免許権者である県には、事業者の主張について審査を尽くす責務がありますことから、現在、審査を継続し、事業者である中国電力に対し、補足説明の照会を行っているところであります。回答が提出された段階で、その内容をよく精査し、これまでの審査状況等も踏まえ、法に基づき適正に審査していく考えであります。
こうした審査を行った結果、法上の要件である正当な事由の有無を判断できるようになれば、埋立免許権者として、許可・不許可の行政処分ができるものと考えており、その回答の提出がない現時点において、すぐに許可・不許可の行政処分の判断を行うことは考えておりません。
なお、仮に埋立免許が失効した場合における原状回復義務につきましては、行政処分の段階で、法の規定に基づき適切に対応していくことになります。

2014年3月30日