先ずもって先月、岩国市・和木町及び広島市の大雨・土砂災害において犠牲になられた方々に哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げますと共に、被災された方々にお見舞いを申し上げます。
さてこの度の広島大雨・土砂災害は、74名の方々がお亡くなりになるという大惨事になりましたが、その被災地となった広島市安佐南区・北区は、平成11年にも土砂災害に見舞われ、9名の犠牲者が出たところです。15年前のこの大雨・土砂災害では、広島市や呉市等で被害が顕著でしたが、広島県全体で32名の方々が犠牲になられました。
その後、このことが契機となり、土砂災害防止法が制定されました。しかし、それが功を奏することなく、再び広島市の安佐南区・北区において、70名を超える犠牲者を出す土砂大災害が発生したのであります。
山口県は、平成21年7月防府市で14名の方々が亡くなられる土砂災害に見舞われていることから、この度の広島での土砂災害の経緯を真摯に受け止め、同様の大雨が降った場合でも、土砂災害の発生を防ぐ、また災害を減災して人の犠牲が生じないようにするとの決意のもと、本県における土砂災害の再発防止に取り組まなければなりません。そのような思いから、今回は「防災対策について」ということで、具体的な事例を示した上で、必要と思われる対策について一般質問を行います。
(1)土砂災害対策について
先ず、土砂災害対策について4点お伺いいたします。第1点は、特別警戒区域の指定についてであります。
広島市安佐南区八木3丁目に、今年4月、山際に建てられた小さなアパートがありました。そこには、昨年11月に結婚して今年の7月に引っ越してきた新婚夫婦や仲の良い母娘等、4世帯8人が入居しておられましたが、全員がこの度の土砂災害の犠牲となられました。
仮定上のことでありますが、もしこの地域が土砂災害防止法の特別警戒区域に指定されており、アパートが土砂災害を防止・軽減するための基準を満たす構造になっておれば、彼らは助かっていたかもしれません。また、このアパートを宅建業者から紹介された際、必ず伝えなければならない重要事項として、アパートが立地しているところが土砂災害の特別警戒区域であることを知らされていれば、このアパートに入居することを避けて、災害にあうことがなかったかもしれません。
ところがこの度、広島市で土砂災害が発生した箇所の76%は、土砂災害の警戒区域外で、このアパートが建てられたところもそうでした。そのため、特別警戒区域に指定されていれば為されていたであろう、アパート建築の構造規制や、土砂災害特別警戒区域であることの伝達は行われず、悲劇を招いてしまいました。
平成11年、主に広島県で発生した土砂災害が契機になって制定された土砂災害防止法であるにもかかわらず、その法による警戒区域の指定が進捗せず、同じ地域で土砂災害が発生し、旧に倍する犠牲者が生じたことは、残念なことでした。
そこで、山口県における土砂災害防止法に基づく警戒区域の指定についてでありますが、本県では、イエローゾーンといわれる土砂災害が発生するおそれがあることを住民に周知しなければならない土砂災害警戒区域の指定は、平成24年10月に、県下全市町において完了しております。このことは、本県が平成21年7月の土砂災害を真摯に受け止め、取り組んでいる証左として評価したいと思います。
本県では、さらにその後、レッドゾーンといわれる土砂災害特別警戒区域の指定を平成29年度までに完了するとのスケジュールで作業を進めて来ました。土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずる恐れがあると認められる区域で、特定の開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等が行われます。
現在、宇部市、山口市、防府市、下松市、周南市の5市で、その指定が完了していまして、未指定の市町も平成29年度までに完了する予定でありました。それを、村岡知事は今議会初日に、1年前倒し実施する旨、表明されたところであります。私は、このことを「土砂災害から県民を守る。」という強い決意のもと村岡知事が、決断し指導力を発揮された結果と受けとめ、高く評価すると共に、その確実な実施を期待するものです。
そこで先ず、村岡知事が、土砂災害特別警戒区域の全県指定完了を、1年前倒し実施することを決断された真意についてお伺いいたしますと共に、その前倒し実施を、どのようにして確実にするのかご所見をお伺いいたします。また、このことに関連して、住民理解についてお伺いいたします。特別警戒区域の指定作業が加速化されることは、基本的に歓迎すべきことですが、住民理解を得る手続きが疎かになるようなことがあってはなりません。特別警戒区域に指定されると、その区域は住宅宅地分譲や社会福祉施設等の建築のための特定の開発行為が許可制となり、建築物の構造規制が行なわれます。また、災害リスクの公表による土地評価への影響等も懸念されることから、住民の理解を得る丁寧な説明が、指定実施に当っては求められると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。
次に第2点、砂防ダムの整備についてお伺いいたします。
今回の広島土砂災害で、最も犠牲者が多かった八木地区では、平成19年から9基の砂防ダムを建設する計画が進められていたものの、砂防ダムの建設には1基当たり数億円かかり、予算上の制約があることや、急勾配の住宅密集地の近くに造成するには、時間がかかる等の理由で整備が遅れ、1基も完成していなかったことが明らかになっています。地元の自治会長は、「早く砂防ダムを整備してくれていれば、相当違ったはずだ。」と肩を落とした、と新聞で報じられています。
3時間雨量217.5ミリという観測史上最大の猛烈な大雨が原因で発生した土石流を、砂防ダムが整備されていれば、完全に防ぎ止め得たかどうかはわかりませんが、少なくとも減災の役割は果たして被害は相当軽減されたであろうと思われ、被災された八木地区の方々の無念さは、察するに余りあります。
土砂災害には、ソフト対策としての土砂災害防止法に基づく取り組みと併せ、ハード対策として砂防ダム等を整備していくことが重要であることは、改めて申すまでもありません。広島市八木地区の砂防ダム整備は、平成11年の土砂災害後、国が直轄事業として計画したものですが、本県における砂防ダムの整備は、基本的に県事業として行なわれています。
そこでお尋ねです。土砂災害対策として、砂防ダムの整備は、優先度の高い公共事業であると考えます。ただ本県は土砂災害危険個所数が全国第3位で、22,248箇所と数多くあり、一気に整備を行うことは困難で、危険度や住宅地への影響等から優先順位を定めて計画的に整備を行なっていくことが求められます。ついては、県は今後、どういう方針、計画で砂防ダムの整備を進めていくお考えなのか、ご所見をお伺いいたします。
次に第3点、急傾斜地崩壊対策事業についてお伺いたします。
8月6日、岩国市・和木町に局所的に降った大雨により、岩国市新港町では、土砂災害が発生し家屋が倒壊して20代の男性一人が亡くなられました。この土砂災害が起こったところは、地元の同意があれば急傾斜地崩壊危険区域の指定を行い、急傾斜地崩壊防止工事を行うことになっていました。しかし、地元関係者全員の同意の取り付けが出来ず、着工が見送られていました。
この岩国でのケースが、どうであったのかは分かりませんが、往々にしてあるのは、不在地主が地権者としておられ、その方と地元住民との間に感情的なトラブルが生じたりして、地元関係者全員の同意取り付けが困難になるというケースです。
こう云う問題の解決は、なかなか地元関係者だけでの努力では難しく、何らかの法的な対応が必要なのではないかと思っています。例えば、急傾斜地崩壊防止工事が必要と判断される場合は、県や市町が、不在地主の地権者の権利のうち、工事施行に係る部分については、代位出来るよう法整備を行う等のことであります。
そこでお尋ねいたします。急傾斜地崩壊対策事業が円滑の行なわれるようにするためには、関係する地権者のうち不在地主については、必要に応じてその権利を県や市町が代位出来るよう法整備することが望ましいと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
次に第4点は、防災能力の正確な周知についてであります。
私は先に、土砂災害の特別警戒区域の指定がなされていれば、新築のアパートは、土砂災害を防止・軽減する構造の建物になっていたであろうから、アパートの住人は助かっていたかもしれないと申し上げました。また、砂防ダムが整備されていれば、犠牲者数が最大であった八木地区の被害は相当程度軽減されていたであろうと述べました。
しかし、こうした見方は、観測史上最大の猛烈な雨によって発生した土石流の破壊力や規模からして、科学的な検証が必要であることを申し上げておかねばなりません。果たして新築アパートは、特別警戒区域の指定に基づく構造規制があれば、本当に今回の土石流に耐えることが出来たのか、また砂防ダムが整備されていたら、土石流は堰き止めることが出来て被害の発生は防ぐことが出来たのか、若しくは減災の役割を果たすことが出来たのか、専門的な見地からの科学的な検証が必要であります。
東日本大震災の時には、高さ10メートルの防潮堤が整備されているところの人たちが、襲来する津波の高さが10メートル以上あることを知らず、防潮堤があるから大丈夫と思って逃げずに、数多く亡くなられました。
私が申し上げたいことは、特別警戒区域の指定に基づいて建築物の防災力が強化されたとしても、また砂防ダムが整備されたとしても、そのことにより防ぎ得る土石流等の土砂災害は、どの程度までなのかということを、定量的に知っておくことが重要であるということです。そのことが分かっておれば、その限界を超える土砂災害発生の予測があるときは、避難する判断が出来て、身の安全を守る行動に繋がるからです。
そこでお尋ねです。特別警戒区域の指定に基づく建築物の構造規制や砂防ダムの整備により、防ぎ得る土石流等の土砂災害はどの程度までなのか、その防災能力について定量的で正確な情報を、関係する住民に周知することが重要であると考えますが、ご所見をお伺いいたします。
【回答】◎知事(村岡嗣政君)
合志議員の御質問のうち、私からは、防災対策のうち、土砂災害対策に係る特別警戒区域指定の前倒しの真意と確実な実施についてのお尋ねにお答えします。
本県は、地理的特性から、全国三位の多くの土砂災害危険箇所を有しており、近年、頻発する集中豪雨により県内各地で土砂災害に見舞われたことから、県下全域における警戒避難体制の整備を図るため、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域の指定を平成二十四年度に完了し、平成二十九年度を完了予定として、特別警戒区域の指定に取り組んできたところです。
こうした中、去る八月六日に、県東部において土石流や崖崩れが多数発生し、多くの家屋が被災し、とうとい命が失われました。さらに、このわずか二週間後には、広島市において大規模な土石流や崖崩れが発生し、多くの人命が犠牲になる甚大な災害となりました。
これらの災害から、私は、土砂災害が一たび発生すると、人命に深刻な被害をもたらすことを改めて認識し、県民の生命を守るためには、大規模な土砂災害に備えた対策の一層の強化に取り組まなければならないと考えました。
このため、警戒区域よりもさらに危険度の高い特別警戒区域を県民に早急に明らかにすることで、適切な避難行動をとっていただくとともに、新規住宅の立地抑制や建築物の安全確保を一日も早く図る必要があると考え、県下全域の指定完了を最大限前倒しすることとしたものです。
私は、こうした考えのもと、来年度に予定していた基礎調査を今年度に繰り上げて実施することとし、このたびの議会に必要な経費を計上したところです。
今後は、直ちに基礎調査に着手し、平成二十七年度末までに県内全域の調査を完了させ、順次、各地域の住民説明会を開催するなど、市町とも連携して、住民の理解を得るよう丁寧な説明に努め、平成二十八年度までに確実に指定を完了させてまいります。
その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。
【回答】◎土木建築部長(北﨑孝洋君)
防災対策に関する数点のお尋ねにお答えします。
まず、土砂災害特別警戒区域の指定に際しての住民説明についてです。
県では、これまで、特別警戒区域の指定に当たり、新規住宅の立地抑制、建築物の安全確保などの指定の目的、指定する区域等を、基礎調査の完了後、住民への各戸配布、住民説明会、県ホームページへの記載等により、速やかに住民に周知し、理解を得るように取り組んできたところです。
今後も、指定に当たっては、これらの取り組みを行うとともに、指定に伴う制限等をわかりやすく説明したリーフレットを新たに作成し、住民説明会等さまざまな機会を通じて丁寧な説明を行ってまいります。
さらに、指定後も、市町と連携しながら、防災訓練などの機会を利用して周知を継続的に行うなど、引き続き住民の理解に努めてまいります。
次に、砂防ダムの整備についてです。
本県は、県土の八割以上を山地や丘陵地が占めるなど、地形的特性から多くの土砂災害危険箇所を有しており、県内各地で土砂災害が多発しています。
このため、県では、土砂災害対策として、ハード・ソフト両面からの総合的な土砂災害対策に取り組んできたところであり、ハード対策としては、砂防ダムなどの土砂災害防止施設の整備を進めています。
こうした中、平成二十一年七月の県央部やこのたびの県東部において土石流が発生しましたが、砂防ダムにより土砂などが食いとめられ、人家への被害を免れた事例も多く見られたことから、お示しのとおり、砂防ダムなどのハード対策の重要性を再認識したところです。
このため、県では、今後も砂防ダムを着実に整備していくこととし、この整備に当たっては、過去に土石流災害が発生した箇所、病院などの災害時要援護者関連施設や避難施設が立地する箇所など、危険度や緊急性の高い箇所から重点的・計画的に進めてまいります。
次に、急傾斜地崩壊対策事業についてです。
本事業は、事業用地の寄附及び地元負担金を求めていることや、事業用地と保全家屋の所有者が異なる場合に、用地の確保や工事の実施に支障が生じることも懸念されることから、事業の実施に当たっては不在地主も含めた地元関係者の理解と協力が不可欠であり、事前に関係者全員の同意を受けて着手しているところです。
お示しの不在地主の承認を得ずに工事施工に係る権利を県や市町がかわって行使することを可能とする法整備につきましては、財産権の保障に抵触するおそれもあり、現時点では困難と考えておりますが、県としては、崖崩れの兆候が見られるなど極めて危険度が高い箇所については、既存の制度を活用しながら、市町と連携し、円滑な事業実施に努めてまいります。
次に、防災能力の正確な周知についてです。
土砂災害の規模は、地質、崩壊土砂の量、土石流の速度や含まれる巨石の大きさなど、さまざまな要素により決まるものであり、代表的な一つの指標により、定量的にその程度を示すことは現時点では困難な状況です。
また、砂防ダムは、降雨量などの標準的な設計基準に基づき計画され、土砂の堆積容量は算出できるものの、降雨のたびにダムの堆積容量は変化します。
したがいまして、砂防ダムの堆積容量を避難判断基準の一つとして使用する状況にはありません。
県としては、防災対策として、まずは警戒避難体制の整備を図ることとし、危険箇所に住んでいる住民がその危険性を理解し、災害時に適切に避難できるよう、土砂災害警戒区域の指定を平成二十四年に完了し、このたび、より危険度の高い特別警戒区域の指定について、一年前倒しして平成二十八年度までに完了することとしたところです。
さらに、県のホームページにおいて、土砂災害降雨危険度や気象情報等をリアルタイムで提供している土砂災害ポータルについて、住民の警戒避難行動に一層活用していただけるようさらに充実を図ってまいります。
次に、防災意識の向上についてのお尋ねのうち、放射線炭素年代測定法による調査と住民周知についてです。
お示しのとおり、放射線炭素年代測定法による調査は、土石流の発生年代を推定するものであり、現在、専門家により研究が進められていることは承知しています。
しかしながら、この研究を土石流の発生予測手法として実用化するに当たっては、雨量と土石流発生との相関関係の解析や発生する土石流の場所や規模の予測など、多くの解決すべき課題があるとされています。
このため、県としては、現時点では特別警戒区域での放射線炭素年代測定法による調査の実施は困難な状況ですが、今後、この研究の動向を注視してまいります。